06.衝撃の対面式
しばらく馬車に揺られた後、ようやく私を乗せた馬車が城下町に差し掛かった。この国には町と呼べるような場所はここしかないため、ここに来るのは前からずっと楽しみにしていた。こんな形で来る羽目になったのは何だか癪だけど。
町並みは中世のヨーロッパを想起させるようで、道の脇には色々な出店が開かれている。結構私好みの雰囲気だ。街行く人は私が乗る馬車が通りかかると立ち止まり、深く頭を下げてくる。こういう態度を示されることで改めて自分がハイエルフであることを実感した。それに、今まで気にしてなかったけど、この銀髪はどうやらハイエルフ特有のものらしい。街行く人の髪は、濃淡はあっても皆緑色だった。だから今日の服装は白を基調としているのだろう。貴族意識高そうだし納得だ。
流石に馬車で王城の中まで入り込めるはずもなく、馬車からは外門の前で下ろされ、手続きを済ませてから徒歩で中へと入っていく。流石は王族なのか四つも噴水があるし、植えられた木々も綺麗に整えられている。
「ナイト家、ただ今参上した」
「はっ!どうぞこちらへ」
グランが王城への入口に立つ門兵に一声かけると、そのまま式場の所まで案内される。道中で出会う人は皆私たちを見ると道の端によけて深く頭を下げてくる。そんな光景を見ていると何だかドンドン緊張してくる。変なプレッシャーがかかってる感じだ。
「それではリオン様、こちらへ…」
案内されたのは一際綺麗な扉の前。恐らく、この扉の向こうには国王が待っているのだろう。自然と背筋が伸びて息が詰まる。ここからは式に招待された四人の子供しか入れないので、親の後ろに隠れてやり過ごすなんてことは出来ない。
「……それでは父様、母様、行ってきます」
大きく息を吐き、気合いを入れてから私は扉の向こうへ足を踏み入れた。
扉の向こう側はよく見る玉座ではなく、椅子が五脚置かれた円卓のある部屋だった。椅子は一つを除いて隣り合うように置かれている。その四つの椅子も一つを除いて既に埋まっているので、悩むまでもなく私はそこに座る。
「お前がナイト家一人娘のリオンか。序列三位でしかも女なんだ。陛下の前で馬鹿な真似はするなよ」
「え…あっはい、わかりました…」
隣に座る男の子からいきなりそんな言葉を掛けられて戸惑ったけど、なんとか返事をすることには成功した。でも、座って早々に掛ける言葉がそれかよ!!と思わず心の中で毒突いてしまう。
ハイエルフは四つの家系に分かれていて、上からルーク、ビショップ、ナイト、ポーンと、序列がハッキリと分かれている。さらに、この世界では女性の地位が男性より低いので、総合的に見れば私がこの中で一番挌下ということになるだろう。
「俺はルーク家長男、アレース・ルーク・エルヴィスだ。覚えておけ」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
序列上仕方なく下手に回っているけど、心の中は言い返したいのを必死で堪えていた。
(何でこんなガキに指図されないといけないのよ!!しかも自分は序列一位だからって威張っちゃって…ホント馬鹿みたい)
そうやって目の前の女の子に馬鹿にされているとも露知らず、アレースは自分の家系の権力を振りかざしていい気になっていた。その様子を呆れながら眺める私もどこか気が抜けていたのか、背後の気配に全く気づかなかった。
「ふむ……どうやら全員揃っているようじゃのう」
背後からの声に咄嗟に振り向くと、華やかな格好をした男性が立っていた。一目でその人が国王だと分かるほどの迫力を感じる。私たちが驚きの余り呆然としていると、国王はしてやったりというようにニヤリと笑った。
国王はそのまま椅子に座り、私たち四人の顔を順番に眺めていく。
「ふむ…。皆良い顔をしとる。其方ら名を申してみよ」
「序列一位、アーレス・ルーク・エルヴィス」
「序列二位、ルージュ・ビショップ・エルヴィス」
「序列三位、リオン・ナイト・エルヴィス」
「序列四位、テュール・ポーン・エルヴィス」
「アーレス、ルージュ、リオン、テュールか…。よし、では早速お主らに言わねばならぬことがある。これはまだ誰も知らぬことじゃ」
国王の言葉でさらに未だ誰も知らないこととなると、聞き逃さぬよう私は集中して耳を傾ける。他の三人も真剣な眼差しで国王を見つめている。
「我は早くに妃を亡くした故に後を継ぐ者がおらん。そこでじゃ。お主らのうち一人を養子として迎えたい」
「と言うことは…」
「無論、その者には後を継いでもらう」
国王が言っていることは、つまりはこの四人の中から次期国王を選ぶということだ。いや、女性を選ぶはずはないから実質三人か。ホント、女性で良かった…。
「リオンよ、心配することはない。我が見るのは個人の実力や人格、統治力であって性別などは見ておらん。それに、男女間の隔たりを取り除く良い機会にもなるじゃろう」
(いや、私はいいから‼︎もう序列一位のアーレスじゃだめなの!?)
心の中は断りたい気持ちでいっぱいだけど、国王の決めたことに反論するわけにもいかない。決まってしまったら私はもう従うしかないのだ。
「選定は最年少のリオンが成人する八年後とする。では、これにて対面式は終いじゃ」
国王が席を立ち扉へと向かっていく中、私たち四人は固まって立ち上がることができなかった。それほど王の選定の話は衝撃的だった。
国王が退出した後、三人の男子が「我こそは‼︎」と口々に言い合って闘志を燃やす中、私は一人ため息をついて項垂れるのだった。