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エルフでニューゲーム?  作者: 夏葵
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01.ニューゲーム?

私はこの世界に絶望した。

能力が無ければ必要とされずにゴミのように扱われ、努力すれば今度は叩かれる。何とも理不尽な世の中だ。やっとの思いで手にした幸せも、『不幸』のたった二文字の前に一瞬で消え失せる。そんな世界に絶望するのは仕方のないことだろう。

だから私は身を投げた。かなりの激痛が走ったが、次の瞬間には開放感に変わっていた。私はようやく自由になれた気がした。

でも、もし産まれ変われるなら誰からも必要とされるような人になりたかったな…

最後にそんな夢のようなことを考えながら私の意識は闇へと消えた。






“その願い、叶えてやろう”






気が付くと、どこかの部屋にいた。一瞬走馬灯を見ているのかと思ったけれど、視界に広がるのは見たことのない豪華な天井。こんなところに住んでいた覚えはない。それに、なんだか視界がチカチカする。

(どこだろ、ここ)

すると、私の視界の中に二人の男女の顔が入ってきた。


「あ!!あなた、リオンが目を覚ましましたよ!! 」

「本当だ。ああ、何と可愛らしい子だろう…」


そうやって二人の男女が私の顔を覗き込んでくる。二人とも髪は銀色で耳が異様に長い。まるでエルフのようだ。


「それに見て、この子の左目。“オーディンの(まなこ)”よ!きっと素晴らしい力を持っているはずよ!!」

「ああ。…だが心配だな。強力な力は身を滅ぼす。うまく扱えるといいんだが…」

「大丈夫よ。だって私たちの子ですもの」


そんな目の前の光景に思わず目を白黒させる。未だにここがどこで二人が何者なのかも分からず、頭が追いついてこない。しばらく呆然としていると、いつの間にか二人が心配した顔でこちらを見下ろしていた。


「…ねぇ、この子さっきから全然泣かないわね…」

「ああ…。まさか病気じゃないだろうな…」


何で泣かないと病気になるのだろうか、意味が分からない。そんなことを考えていると、いきなり女性の方にヒョイといとも簡単に持ち上げられた。正確な数値は覚えていないけど、決して軽くは無いはずの私の体を持ち上げるとかどんな腕力をしているのだろうか。とりあえず、抱かれたままは恥さらしなのでさっさと下ろしてもらおうと私は口を開く。


「うぁう、あぁ」


下ろしてと言おうとしたが、なんでか上手く喋れない。まるで体が声を出すという動作に慣れていないようだ。仕方なくジェスチャーで示そうとした時、ようやく私は自分の体の異変に気がついた。

(え、何この手……)

その手は赤ん坊のように小さく…というか赤ん坊の手そのものだった。もう分からないことだらけで頭がパンクしそうだ。


とりあえず整理してみよう。私は飛び降り自殺で死んだはずだ。痛みもあったし間違いない。なのに気がつけば今は赤ちゃんである。

…うん、訳がわからないね。


「あらあら、いきなり暴れてどうしたのお腹でも減ったのかしら…」

あうあうあー(減ってないよ)‼」


喋れないためせっかくの抵抗も虚しく終わってしまう。

もう、なるようになってしまえ…。

赤ん坊のせいか、溢れ出てくる感情の波に身を任せ、私は盛大に泣きわめくのだった。








まさかの転生から四ヶ月が過ぎてようやくこの状況にも馴染んできて、色んなことも分かってきた。


家族構成は父と母と私の三人。父の名前はグラン・ナイト・エルヴィス。母の名前はミシェル・ナイト・エルヴィス。そして、私の名前がリオン・ナイト・エルヴィスだ。種族はハイエルフ。貴族のようなポジションだけど、四つあるハイエルフの家門の中では下から二番目なんだとか。


あと、私の左目には“オーディンの眼”という特別な力が宿っている。右目は両親譲りの薄緑色だけど、左目は力を使うと金色の瞳で瞳孔が縦に細長くなり、瞳孔の周りが赤くなる。見た目はオッドアイだけど、力を押さえれば元の薄緑色に戻る。この眼は結構便利で、目には見えない魔力の流れなんかも見ることができる。“勇者の眼”だとか“神の眼”などと呼ばれてるのもそのせいだろう。


そして、さっき魔力が見えると言ったので分かるとは思うが、この世界には魔法がある。しかも、ハイエルフは他の種族とは比べ物にならないほど魔法の適性があるらしい。それにミシェルがかなりの魔法の使い手らしいので、今から教えてもらうのが楽しみだ。








一歳後半にもなると拙いながらもそこそこ喋れるようになり、ハイハイでの移動もできるようになった。だけど、メイドさんが四六時中私のことを見ているため自由に行動させてくれない。


「リオン様、どうかじっとしていて下さい」

「や」

「ほら、お人形さんもありますから…」

「や!」


メイドさんが私の機嫌をとろうと必死になっているが、中身が子供じゃないので人形なんかじゃ全くなびかない。


「リオン様…」

「ふふ、またやってるのね」


すると、いつの間にかミシェルが部屋に入ってきていて、私を後ろからそっと抱き上げた。


「ダメじゃない。ちゃんと大人しくしてなさい」

「……ん…」


渋々といった感じで頷くとミシェルは微笑み、私の頭をそっと撫でた。


(うん、動き回れないのはつらいけど、こういうのも悪くないかも…)


ミシェルの優しい手つきに私は思わず頬を綻ばせる。そうしてしばらく身を任せているうちに意識が朦朧としてきて、眠気が襲いかかってくる。私はそれに抵抗することなく、母の温もりを感じながら眠りに落ちた。

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