表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

5.闇に紛れて

 「チッ!くっそパゲ三郎が!」


 と、キミエは小声で喚いた。

 又三郎を()いたキミエは、長く狭い路地を通って『あこうらん』の裏に来ていた。その場所は、他の見世の壁に囲まれ、星明りでやっと手元が見えるほど暗い。その広めの空間には、大量のゴミが放置されていた。ゴミで『あこうらん』の裏口が完全に塞がっている。使えない訳である。


 「チックショ!気がおさまらねぇ!」


 と、御立腹のキミエは、ゴミ山の一つを崩し始めた。


 「あ゛~!そしてキタネェ!」


 キミエは、そのゴミ山の中から、イチが言っていた『例の物』を探していた。


 (イチの奴けっこう深く隠したな)


 とゴミ山崩しを進める。ほどなくしてキミエは、例の物らしき塊を見つけた。

 塊に厚く被せられた不透明なビニール。その中身が例の物だと、キミエには解った。それは、他のゴミと違いビニールが真新しかったからだ。キミエは、それを引っ張り出した。


 「・・・これなのか?いやでもなんか小せぇぞ」


 と、息切れするキミエは、疑問に思う。

 例の物というのは、吉原を脱出するためにイチが用意したバイクである。それに乗って、二人で大門を突破しようというのだ。

 だが、キミエが引っ張り出したそれの大きさは、バイクにしては小さい。疑問に思いつつも、キミエは被せてあるビニールをはぎ取りだした。


 「まあ、見てみっか―――。」


 やがて、出現したそれを見て、キミエはギョッとした。


 (―――ショ・・・ショボイ!)


 ショボイ。キミエの〝それ〟に対する第一印象である。

 ビニールの中にあったそれは間違いなくバイクだった。そして、まさかのバイクだった。鍵が刺さったままで、荷台に荷物がくくってあるあたり、これがイチの言う例の物に間違いなさそうだ。しかし、それはイチの様な大人が乗るには小さ過ぎる小型のバイクだった。


 「なんだよコレ!こんなんじゃ使い物になんねぇぞ!?」


 焦るキミエ。

 キミエは小型のバイクを放置して、他のゴミ山を崩し出した。


 (――――嘘だろ!イチどうなってんだよ!!) 


 だが、他にバイクの様な物は見当たらない。イチが隠したであろう物はそのバイクしかなかった。「クッソ!マジかよ!?」っと、キミエは汗だくになりながらバイクの方へ戻る。

 状況を正しく把握できないキミエは、もう一度バイクをよく見てみようとする。キミエは、ひらけた場所までバイクを移動させた。


 キミエは、改めて小型のバイクを見る。

 光沢がある深いグリーンの機体。分厚い座席は濃い赤茶色で、備えられた大きな燃料タンクには『凛』と記されていた。

 凛の正面には、ベタベタとステッカーがカラフルに張られている。文字が描かれている物には、

 『GOD BLESS YOU☆』

 『千里疾走』

 などなどと記され、その中でも一際大きいステッカーには『鉄之馬(てつのうま)』と記されていた。


 (何が鉄之馬(バイク)だよ!ざけんな!!)


 キミエは、凛を眺めたところで何も解決しないとわかると、苛立ちが増すばかりで。


 ―――聞いていたのと話がだいぶ違う。


 それを問いただそうにも、イチは未だに現れない。キミエは(イチの奴、来ないいつもじゃ・・・)などと思ったが、又三郎に向かって『パゲ三郎(もう二度と会うことは無いでしょう。さようなら)』と言った手前、見世には戻れない。キミエは途方に暮れてしまった。

 その時、


 〝カチャ〟

 

 っという金属音がした。

 その音にキミエは、通ってきた路地の方へ振り返った。キミエは嫌な予感がし、殺気だった。

 キミエは知っていた。鳴り止まない金属音は、何者かの接近音である。そして、次第に〝三人の男〟の話し声が聞こえ出し、キミエの嫌な予感は路地の先に姿を現した。


 闇に紛れる黒鋼くろがねの甲冑。身に纏ったそれ以上に、漂う気には隙が無い。顔には奇怪な髑髏(どくろ)のマスクに、赤くて丸いレンズのゴーグル。腰には大小(かたな)と銃を携えていた。


 その者達は、大吉原が誇る最高戦力。

 『魔人殺し』と恐れられる伝説の鋼人(はがねびと)紫堂静衛(しどうしずえ)が率いる『紫堂騎馬軍団』の武士だ。

 なのだが。それにしても、路地に進入して来たこの三人組―――うるさい。どうも様子がおかしい。


 「あぁ~ヤヴェ。(げん)ヤン!二人が四人に見える!!」

 「飲み過ぎ!飲み過ぎだ(しょう)チャン!ッ痛って!何か蹴っ飛ばしたわ―――」


 〝一つしかない物が二つに見えている〟と不思議なことを言ったのは『尚チャン』と呼ばれている朝倉尚馬(あさくらしょうま)。〝足元が見えていない〟『源ヤン』が熊木源一郎(くまきげんいちろう)である。

 そんな二人にもう一人の男が言う。


 「オイ。おじいちゃん達。暗いんだから足元に気をつけろよ」


 そのやや気取った様な態度に、「うるせぇ!同じジジィだろうが!オメェこそ気をつけろ!!」と源一郎が返す。


 「フッ。オレはな、酔っていても足元だけはしっかりしてんだよ〝おじいちゃん〟―――」


 そう言って転倒した芳沢勝正(よしざわかつまさ)は〝オレだけは大丈夫〟と思い込んでいたに違いない。二人からは『(かっ)チャン』と呼ばれている。


 「うぅ・・・見なかったことにしてくれ―――」


 と、呻きながら、二人の手を借りて起き上がる勝正に「何やってんだよ・・・」と、源一郎が言う。

 老けた仲良し三人組みは、誰の目から見ても酔っぱらっていた。吉原にしては早い時間である。はてさてどこで酒を飲んだのか。町民に聞けば一発で答えが出ただろう。

 一番ふらついている尚馬が、もめる二人に言った。

 

 「俺たちクソジジィなんだからさぁ。気を付けて行こうよ~・・・」


 聞き捨てならなかったのか「クソジジィ!?」と、源一郎と勝正が叫び声を上げる。


 この老士三名。一見頼りない様に思えるが実はそうではない。この三人、本来はここに船山流斎(ふなやまりゅうさい)という男が加わる四人組である。隊での実績は、武功最多に加え一つの伝説を持つ。

 今は昔、荒木山(あばらぎやま)に棲む神狼(しんろう)銀毛白面十一尾ぎんもうはくめんじゅういちび』。その『五十三度目の神狼』を四人のみで討ち取っている。その功績の証として、四人は神狼の皮で作られた陣羽織を与えられた。この事から彼らは『四人羽織(よにんばおり)』と呼ばれている。

 その実力は未だ衰えを知らず。今なお戦場で猛威を振るう。精鋭中の精鋭である。


 (―――ウソだろ・・・)


 現れた三人にキミエは、そう思った。


 挿絵(By みてみん)

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ