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0.チッ!切羽詰まって動けもしねぇ

 高く昇る太陽。汗にまとわりつく熱気が、苛立ちに油を注いでいけねぇ。周囲は硝煙絶ち込める荒廃と轟く鉄火の雨霰(あめあられ)。死屍累々な地獄絵図だ。


 その有り様を彼女は疾走(はし)った。

 少女の容姿は黒髪のおかっぱ頭に、イエローリボンで縛ったライダーゴーグル。

 涼しげな緑の作務衣に、防弾ベストを身に着けている。

 駆る緑の鉄馬は、小型のバイクだ。


 今日(こんにち)、戦場と化した都の名は『大暁』。

 廃墟と遺跡が入り乱れるこの地は『法無神廷(ほうむしんてい)』と呼ばれ、『限境(げんきょう)』を冠する古都である。

 この地が戦場に成ったのは数時間前。この様な事は2年振りである。

 都を疾走する最中、彼女の心中に去来したのは。

 『敵』『交戦』『己の生死』

 そんな予感に包囲され、


 (気分が悪くなるぜ)


 と、彼女が思ったのは数分前のことだ。

 

 今彼女は、今わの際にいる。

 水路を走行中、相手の弾丸が命中したのだ。

 直撃は免れたものの、衝撃で飛ばされ、高速で水面を跳ねた体は言う事を聞かない。

 騎手を失った鉄馬は、あらぬ方向へ駆けた挙句、壁に衝突し煙を上げている。


 蝉の音が肺腑に沁みる。蒸し暑さで都は堪らない程淀んでいた。

 にもかかわらず、彼女の場は異様に澄み切っている。

 彼女を浮かべ、のたりのたりと流れる水路に、戦闘がこだましてくる。

 その光景は、時の流れが止まってしまいそうな程静かであった。

 そして、その息の根に切羽詰まる。

 

 (―――(つら)が冷てぇ)


 意識を取り戻した彼女は、水面にうつ伏せで浸っている事に気付く。

 目覚めはしたが、呼吸が出来ない。彼女は必死に踠こうとしたが、体が鉛の様で動かない。焦りでただ息を吐くばかりの躰では最早どうにもなりはしなかった。

 ―――チクショウ!これがトドメに成るってのか!

 途切行く意識の中。彼女は吐き出す気泡に、ある日のシャボン玉を見た。


 (すまねぇ、イチ・・・。しくじったぜ―――)


 (つい)を悟った彼女は、胸中に無念を語った。


 挿絵(By みてみん)

 

 挿絵(By みてみん)

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