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God knows  作者: 紅亜
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あなたの父母を楽しませ、あなたを産んだ母を喜ばせよ

「シスター、ただいま」


ルークが声をかけると、シスターは組んでいた手を解き立ち上がった。


「お帰りなさい、ルーク」


彼女が、シスター・アンドレア。この王都唯一のシスターである。振り向いた彼女が浮かべるのは、優しげな微笑み。60歳を越えたであろう彼女の纏う雰囲気は、生来の柔らかい顔立ちに加えて歳を重ねた分の深みがあった。まるで、歳を重ねるごとに色を重ね、その色味を深めていったかのように。


「見てくれよ、シスター。今日は大量だぞ」


そう言って、彼は先ほど手に入れた袋を差し出す。


「あら、プオ実じゃないの。どうりで最近温かくなったと思ったわ」


この大陸は四季というものがなく、二つの季節に別れている。一つは、雨季。そしてもう一つは、乾期。

基本どちらも暑いが、雨季から乾季に移行する時だけ寒くなる。

プオの実は、その寒い時期だけ取ることができないのだ。因みに現在は、雨季から乾季入りかけたところ。


「じゃあ、今日はプオの実をパイにして、余ったらそのまま頂きましょうか」


ルークは笑顔で頷く。


その反応を見て、彼女はいそいそと右奥にある扉を越えて行った。この教会は住居兼用となっていて、右奥の扉は居住区と繋がっている。

シスターが扉を越えたのと丁度同じタイミングで、逆側の左側奥の扉が開いた。


「シスター、終わったよ…ってあれ?ルーク」


「あールークだぁ!お帰りー」


「え?ルーク帰って来たの?」


そんな声と共に5歳から10歳ぐらいの子供達がわやわやと10人現れた。彼らの様子を見つつ、ルークは顔を綻ばせる。


「ただいま、皆」


「「おかえりー!ルーク」」


ルークが笑顔で言うと、子供達も揃って笑顔で応えた。その光景は、どこか心を温めるような微笑ましさがあった。


ルークと子供達は、この教会でシスターと共に暮らしている。…血の繋がりはない。皆、シスターに拾われた捨て子であった。


けれどもシスターの温かさ故か、ルークの面倒見の良さ故か、それとも子供達の人懐っこさ故か…誰も血の繋がりなど気にしていない。

むしろ、血の繋がりという確かな繋がりがないからこそ、互いの絆は深く強いのかもしれない。


「皆、掃除の手伝いをしたのか?」


「そうだよー。今日イシュア様の石像を拭いたのは、私」


「俺、こっちの椅子を拭いたぞ」


口々に自分の成果を誇らしげに伝える子供達に、ルークは笑顔でその頭をわしゃわしゃと撫でた。


母なる星、【ガイア】を生み出した女神【イシュア】。


それを祀るのがイスト教であり、この大陸のほぼ全ての国が国教としている。

因みに、唯一大和国では、イスト教と同じ教典を使用しているものの、その解釈や祀り方が違う。簡単に言えば、宗派が異なると言ったところか。

何れにせよイシュア神は、実にこの大陸全土の人間の信仰の元なのである。


とはいえ、ルークにイシュア神を信仰しているのかと問えば…果たして返ってくる答えは否であろう。

彼にとっては、ただ単に、拾ってくれたのがシスターであり、大切な家族がここにいるから身を寄せているだけなのだ。


「ルーク、遊んでくれよ」


「おーいいぞ。何して遊ぶか」


「ダメよ。約束したじゃない。今日は遊ぶの我慢して、ルークに相談するって」


いつも通り遊ぶのかと思いきや、女の子がそれを止める。


「あ、いっけね。ルーク、やっぱり遊ぶのナシ」


偶にルークの取り合いになる事はあっても、一致団結して遊ぶのを止める事は珍しい。思わず、彼は首を傾げた。


「どうした?何か悩みでもあるのか?」


「うーん、あのね。もうすぐで、“皆の誕生日”でしょ?」


“皆の誕生日”とは、名前の通り、ここにいる全員の誕生を祝う日だ。捨て子の彼らの正確な誕生日が分からない為、纏めて同じ日が全員の誕生日となっている。


…もう、そんな時期か…と、内心ルークは呟く。これで彼もシスターに拾われて、8年。思わず、内心遠い過去へと想いを寄せた。


…というのも、この皆の誕生日はルークが拾われた日なのだ。理由は簡単で、シスターが初めて拾ったのがルークだったからである。


そしてルークの誕生を祝おうと、便宜上決めたのが彼が拾われた日であり、以降皆の誕生日も纏めて祝うようになったので、そのまま彼の便宜上の誕生日が使われることになったのだ。


「ルーク!聞いてるか?」


「あ、悪い。で…なんだ?」


「ちゃんと聞いておけよな」


「私たち、シスターにありがとうって感謝のパーティしようかと思ったの。ルークも、一緒に準備してくれる?」


子供の言葉に、ルークはしばし目をパチクリさせた。

子供達の言葉に、彼は暫し感動していたのだ。誕生日は祝われる側だと言うのに…と、妙に感慨深い。


その想いの有り様は、どちらかというと兄というより父のそれに近い。それもその筈、ルークはシスターの子供の中でも飛び抜けて歳を重ねている。


その為、シスターが子供を拾ってくる度に半強制的に子育てに参加。

だから彼の心境は、兄というより父のそれに近いのだ。


「 ああ、勿論…喜んで参加させて貰うよ。それに、お前らの誕生日もお祝いしないとな」


そう言って、1番手元に近かった子供の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「で?どんなパーティーにするんだ?」


「えっとねえ……」


それから、あれやこれやと話し合う内に、いつの間にか日が暮れ、外は闇の帳が空を覆っている時間となっていた。


「……皆さん、ご飯ができましたよ」


シスターの言葉に、子供達は素早く立ち上がって居住区へと走って行く。その余りの素早さに、ルークは思わず苦笑いを浮かべた。


……早く行かないと、俺の分が失くなりそうな勢いだな。そんなことを思いつつ、ルークもまた立ち上がり、居住区に繋がる右奥の扉へと向かった。


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