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第七話 聖王都初心者の心得その一、歴史は全てを語る




 今から五百年ほど前に、人間と魔族による大きな戦争があった。そしてその戦いは、それぞれの最大戦力の衝突によって終止符を打つ。聖剣に選ばれし勇者と、魔族を統べる魔王との最終決戦が、結果として戦争を終わらせたのであった。魔族は戦争後姿を消し、人間は一つの国を創り上げる。訪れた平和な世の中に、多くの人々が歓喜を表したのであった。


 そして魔物の残党から、人間の国を守るために作られた最前線の防衛国。それがこの『聖王都』の始まりだ。聖王都は徐々に結果を示し、魔導工学が発明されてからはその最先端の国として、一気に有数の大国となったのである。魔導工学の原料は魔石なので、魔物が多い聖王都と相性が良かったのもあるだろう。ちなみに勇者が起こしたこの国は、現在大きく三つの派閥が存在している。


 一つ目は、五百年前の勇者の子孫が椅子に座っている玉座。王族派である。国を守る騎士団や他国との外交など外や国の大きな安定を主な役目として、この国を回している。他国では王様が最大権力らしいけど、この国ではそうではない。権力があるのは変わらないが、他の二つの派閥と連携をして、それぞれがそれぞれの役目と権威を持って動いているのだ。一番は先代勇者が、「自分一人の力で成し遂げた訳じゃない。みんなで力を合わせたからできたんだ」と残した言葉によって、権力の集中を防いだことが要因だろう。


 二つ目は、僕自身が働いている勇者と聖剣を祀る神殿派だ。勇者の仲間の一人が聖剣を保管し、さらに勇者の功績をしっかり伝えて、戦争が起こらない様に後世に残す。国を支えることを主としたのが、神殿の最初の始まりである。魔導工学がなかった時代、神力は魔物への最大の有効手段であった。当時は神力が使える者が少なかったため、育成に神殿は力を注いで人材を増やした。さらに聖王都で学校を開いたり、病や怪我の治療、戸籍の管理など、言ってしまえば公務員職はほとんどが神殿系列で行われている。


 最後に三つ目は、民間の人々の手によってつくられた組合派があげられる。二大勢力で何百年かぐらい続いていた聖王都に、この組合派が名乗りを上げられたのは魔導工学のおかげだ。神力が最大戦力だった時代に、魔物の研究をしていた研究開発者が、それを有効活用できないかと考えたのが発端らしい。


 魔石には、古の魔族のような魔法が使えるエネルギーがあることを見つけだし、それを人間に付与できれば戦力の増加にあてられると考えたのだ。人間なのに、魔族と同じように魔法が使えるようになったのは、この魔石を用いた技術のおかげである。ただ一般的な魔導具と違い、魔法は魔石からエネルギーを操作するセンスが必要不可欠なため、誰でも使える訳ではない。現に僕は、相性最悪であったため使えなかった。


 さて、そんな便利な魔導工学だが、最初は色々もめにもめたらしい。だけど、日夜魔物退治に追われていた聖王都において、決断を下すまでにそう時間は掛からなかった。神力が使える者は増えていたけど人手不足が続いており、国の防衛のために発展の停滞を余儀なくされていた聖王都は、魔石を取り入れることを選んだのだ。


 そしてその判断は、今では正しかったと聖王都の歴史家は語っている。実際に、停滞していた人間の国は目覚ましい発展を遂げ、戦闘だけでなく暮らしや生活を支える道具の開発まで行えるようになった。娯楽が増えたのは、この頃からだろう。


 魔石の実用性や研究を兼ねて、民間の技師同士で組合を作ることで様々な方面に進んで行ったのだ。冒険者組合で、魔導工学の原料である魔石を収拾させ、さらに魔石を使った戦闘技術の発展のために試運転もできた。商業や開発の組合などに魔石を売買し、彼らはそれを加工してさらに売り、また冒険者組合や国に提供する。そんな流れができあがり、聖王都は三つの派閥で住み分け、構成されるようになったのである。



「ほぉー、なかなか興味深いのぉ。人間のすごいところは、その発想力じゃな。敵対していた魔族が扱っていた力を、自らの物にしたところもある意味皮肉が効いておる感じじゃ」

「神殿はそういう解釈で、魔導工学の使用を許可したからね。だけど自分たちの利益や権威を奪われることに反対派の神殿一派はいたから、当時は魔族と同じ力を使うなど云々言っていたみたい。『じゃあ、お前らは使うな』で発展に好意的な王族派とだけ、組合が関係を築こうと動いたこともあったんだ」

「ふむ、やはり大きな革命となると一枚岩ではなかったと言うことか。それで、神殿はどうしたのじゃ?」

「人手不足で過労気味だった神殿一派がマジ切れして、反対派を制圧。王族派と組合派の会合に、『ぜひ参加させて下さい、じゃないとあの目は殺される!』と神殿一丸となって意欲的に表明を示したらしい」

「そ、そうか…。たくましいな、この国」


 聖剣と暮らす様になって早数週間。今日の仕事が終わり、聖剣からの要望もあったので、自室で歴史についての勉強会を始めていた。僕が知っているのはごく一般的な知識でしかないが、大雑把な内容なら話すことができる。聖剣は自分が眠りについてからの聖王都の様子や変わりように、大変興味深いみたいだった。


 聖王都は勇者から始まって、当時の仲間が支え、そこに外から来た様々な人々の手によって創り上げられた国だ。最初は国になるなんて考えておらず、ただみんなで我武者羅に頑張った結果、国ができた。そのため、使えるものは人材でも道具でもなんでも取り入れてきた。他の国に比べてこの国は柔軟に受け入れる傾向があるらしい、と民族学者は語っている。


 今でも東の人間の国では、魔導工学なんて異端だと思っている人が多いみたいだ。こんなにも便利なのに勿体ない、と思う僕の思考は、たぶん聖王都よりなのだろうと思った。


「あぁー、だからお主のような神官が普通におったり、おぼんが飛んでいたり、余のようなカブトムシがしゃべっていてもあんまり騒ぎにならんのか。この国も独自ルールがすごいのぉー」

「東では、聖王都ルールは珍しいらしいね。僕はそこまで変に感じないけど」

「お主に合っているというだけで、十分一般から外れたぶっ飛んだ国だとわかるわ」


 聖剣はこくこくと角を揺らしていた。褒められたのだろうか。



「それで魔導工学が認められ、この国は独自に発展したという訳か。魔導汽車と呼ばれておるあの魔導具など、かなりの技術であろう?」

「あれは全派閥が協力して作った友好の証であり、聖王都の第二の象徴でもある。魔導汽車のおかげで、物資や人材を簡単に運ぶことができるからね。他国との貿易による利益や移動による経費の削減、人口の増加を助けたり、……あれがなかったらもう百年ぐらいは発展が遅れていたと確か言われている。管理する担当も派閥それぞれが補うことで、利益が集中しないように工夫もされているんだ」

「魔物が多いために、核が多くとれる聖王都ならではの方法という訳か。ただ溢れる魔物に苦しめられていた余らと違い、お主らから見れば宝の山と相違ないのだからやる気も段違いじゃろうな。ううむ、まさかこのようにこの国が成長するとは、……五百年とは長いなぁ」


 どこか寂しそうに、感慨深そうに呟くと、聖剣は口を閉ざした。歴史から考えても、五百年前の面影など今の聖王都にはほとんどないだろう。生活だって人々の間に余裕ができた分、娯楽や文化、食事も一気に発展していった。戦闘に向けていたお金や物資を、生活向上の研究や開発に回せる余裕がある。それだけで、この世界がいかに平和なのかがわかる、と語りながら聖剣はちびちびと蜂蜜を飲んでいた。


「余の存在は、本当に必要ないかもしれんな。剣など、戦時にあればよい。肝心の魔族も勇者に絆されておるし」

「平和だしね」

「……うむ」

「だけど、聖剣や勇者や仲間の人たちが頑張ったからこの国はできて、今のような平和になったんだ。たくさん働いたんだから、それに見合うだけの休みをとって当然だと思うけど。今は聖剣の仕事は休暇だと思って、イザベルが楽しめる何かを気楽に考えたらいいと思うよ」

「お主は……。はぁー、そうじゃな。こやつが勇者な時点で色々破綻しておるし、余だけ真面目に考えても疲れるだけか。五百年前に余は剣として大変頑張ったのじゃから、余自身が楽しめるものを探すのも悪くはないか」


 仕事を頑張ったんだから、休みをとるのは当然だと考えて言ったら、よくわからないが呆れられた。おかしい、勤務時間はしっかり仕事に集中するけど、休日ぐらいは自分のことを優先するのは普通じゃないのかな。ただ先ほどより、なんだか元気になったようなのでよかったと思っておこう。



「さて、あらかたのこの国の歴史は把握させてもらった。それでは、本題に入ろうか」

「そうだね、もともとこの本題に入るために説明したんだし」


 難しい話をしていたが、最初の話題はもっとありふれた内容であった。そこからこの国の背景から入り、聖剣の興味から歴史考察に入り、気づいたら平和の大切さを語っていた。なんだか遠回りをした気もするけど、仕事の話なので真面目にやるべきだからな。


「それで、……結局余が働けそうな職場はどこじゃ」

「神殿関連は、カブトムシを正規に雇うのは前例もないので本当にごめんなさい許して、と頭が固かったからな。歴史的に見ても、保守派が多いのが神殿の特徴のようだ。聖剣は色々性能や知識も持っているから、公務職に役立つと思って推薦したのに」

「余のことながら、お主からの評価に喜ぶべきか、それとも神殿の良識を褒めるべきか」


 神官職である僕の繋がりで、お金を自分で稼ぎたいと言っていた聖剣のために、この数週間神殿関連の職に売り込んだのだ。しかし、結果は著しくなかった。そこに、『カブトムシに仕事ができる訳がないだろう!』と噂を聞きつけた大司教に意気揚々な感じで嫌味を言われたので、実践して証明しようと考えた。


 まずは戦闘力を見てもらおうと思い、神殿の魔物退治に同行させた。数時間後、角無双で全勝した。これでいけると思ったら、一緒に参加していた方々が何故か自信喪失して寝込みだしたと聞いて、上層部から人材減るからやめてくれ、と言われた。結果を出したのに、何故だ。


 次に知識面を見てもらおうと思った。聖剣の知識はかなり古い部分もあるが、神殿は勇者に関する知識には貪欲だ。それに一般的な知識ならかなりあり、聖剣はやればできる子である。これならいけると思い、それ関連の職を総当たりし、学者たちに打ち勝った。そして上層部から人材消えるからやめてください、と言われる。僕が肩にカブトムシを乗せていると悲鳴をあげだす神殿職員、だから何故だ。


 最後に思いついたのは、神力だ。田舎者でコネも何もない僕が神官としてそれなりの地位になれたのは、神殿が推進している力をかなり扱えたからだ。これなら確実にいけると思い、聖剣に神力診断のテストを受けさせた。それから数日後、上層部含め、実力派だと有名だった何人か寝込んだらしい。結果、神殿の秩序が崩壊するからやめてくれーー! と言われる。なんでもカブトムシ恐怖症になった人がいるため、一部のカブトムシの出入りが禁止される。そんな症状があるなんて初めて知った、と世界は広いとちょっと驚いた。


「余がやっといてあれじゃが、よくお主お咎めなしじゃったな」

「仕事探しで、何でお咎めがあるんだ。数日前に上層部に呼び出されて、勝負を挑む理由を聞かれたから『大司教にカブトムシの有用性を証明するためにしました』って正直に答えたはしたけど」

「……少し前に、お主相手にローリングソバットをかましてきたおっさんが大司教じゃな。弾き飛ばされておったが」


 うん、それが大司教。最近上層部含め、頭の後退と一緒に感情が激しい人が多い気がする。みんなもっと大らかに過ごせばいいのに。



「神殿関連は難しいみたいだから、他のところを考えないとなー」

「まぁ、あれじゃ。カブトムシでもどこか一つぐらいはきっと見つかるであろう」


 聖剣からの言葉に、僕は少し驚く。心配性な聖剣としては、珍しく前向きな意見だ。


「なに、こんなのをちゃんと受け入れてくれる聖王都なら、なんか一件ぐらいは虫でもいけそうな気がしただけじゃ」

「……ん?」


 とりあえず、明日は友人とお昼を食べる約束をしているので、ついでに相談してみよう。




******




「という訳で、カブトムシでも就職できそうな職場ってどこだろう?」

「ガキのおもちゃ」

「ふんっ」


 出会いがしら風切り音と一緒に、友人がさっくりいった。悲鳴とおぼんがコラボした。


「馬鹿な…、スピードが上がっているだとッ……」

「油断したな、小姑よ。貴様はたまにしかこやつと昼食をとっていないだろうが、余は毎日ここで食っておったのじゃぞ。おぼんで強制的に鍛えられている余は、日に日に実力をつけておるぞ?」

「なん、だと……」


 おぼんブートキャンプによって鍛えられた聖剣は、まさに自信に満ち溢れているようだった。引き締まった甲羅の輝きを見て、あまりのショックで友人が項垂れている。だけど友人も仕事で忙しいみたいだから、仕方がない部分もあるだろう。


「くそっ…、だがこのままで終われるか。帰ったら部下たちにおぼんを投げてもらって、俺も訓練しねぇと」

「ふっ。そのような付け焼刃おぼんでは、余がお主より上である証明は近そうじゃな」

「はっ。マナー違反の突発おぼんでしか鍛えられないお前と、毎日反復おぼんで鍛えられる俺。どっちが有利かは見えているな」


 相変わらず、二人の息はピッタリのようだ。それにしても、おぼんで訓練したら強くなるのか。新発見だな。そんな二人のやり取りを見ながら、僕は注文していた魚介風特製つけ麺を汁が飛ばないように気を付けながらすする。うん、今日もおいしい。



「以前カブトムシでいいだろ、って言った俺が言うのもなんだが、本気でそれで就職する気かよ」

「余もそのあたりは思ったが、……就職先がないとこの国では言いきれぬところがのぉ」

「……なんでこの国、こんなにも混沌としているんだろうな」


 二人は僕を見て、次に店員さんを見て、溜息を吐きだした。僕とエンペラーに共通点なんてあっただろうか。真面目に仕事を頑張るところだろうか。聖王都の見本になっているのなら、なんだか照れるな。


 さて、本日の相談内容でもある聖剣の就職先が問題である。これがなかなか決まらなかった。カブトムシだけど性能は折り紙つきだし、知識もあるし、魔物相手に無双もできる。これほどの優良物件なら、すぐに見つかるだろうと思っていたのだ。いったい何が不満だと言うのか。


「人間としてのなけなしのプライドだろ」

「むっ、差別は良くないな。人間以外の異種族も聖王都に訪れるというのに、人間じゃないから受け入れないなんて」

「それもそうだな、訂正する。文化的な生活ができる種族全般のなけなしのプライドだ」


 おかしい、何故か余計にひどくなった。


「なんじゃ、人間以外の他種族も聖王都にはおるのか。それにしては、あまり見かけぬの」

「実際、人間と関わる種族は多くないからね。それに、だいたい職人組合や広報組合、冒険者組合などに所属しているから、神官の僕はあまり接点がないんだ」


 別に王族派も神殿派も彼らを疎んではいない。ちょっとドライかもしれないけど、この国は勇者信仰に厚い人が多く、人間至上主義になっていてももともとおかしくはないのだ。全体的にそうなっていないのは、魔石に目をつけたのは人間だけど、技術的なところは他種族の助けがあったから実現した部分も大きいからだろう。


 そのため、技術型な組合派は彼らに肯定的だな。人間にはない視点や閃き、そして技術は、魔導工学の発展に大いに役立っている。誰だって、温かく受け入れてくれる派閥に入りたがるものだ。組合に他種族が増えるのは当然だろう。


「ふーん、それで他種族は組合に流れている訳か。王族も神殿もなんか頭固そうだもんな」

「あとは猫耳や犬耳に滾る人が多かったり、アイドルにしたり、薄い本の製作に協力してもらったりして、人間以外の種族いつでもカモンで熱を上げて呼び込みをしているからだろうね。組合派(アレ)と一緒にされたくない、が実際の理由のかなりを示しているらしいけど」

「さっきの発言を訂正する。組合派の頭のネジが緩んでいるだけだった」


 ちなみにこういった色物は特に禁止されていないので、趣味は自由とされている。そのため猫耳コンサートとかある日に、騎士や神官の何人かが毎回有給や療休で休んでも誰も何も言わない。体裁だけはちゃんと保つように、が硬派な方々の総意らしい。


「この国自体が、もうなんか色々駄目かもしれん」

「お前この国なら、普通に聖剣抜いたこと公表しても案外大丈夫だったんじゃね?」

「えっ、面倒じゃないか」

「頼むから、せめて余を説得するために語った内容ぐらいの返しはしてくれんか…」


 聖王都で勇者だとばれたら、何かしら突き抜けていきそうなのは確かだろう。



「というより、今回の相談はもう大体答えは出ているじゃないか」

「というと?」

「人間とは違った他種族を受け入れている組合なら、カブトムシでもいい職場があるかもしれない」

「友人、……カブトムシアイドルプロデュースとか本気か」

「そんなマニアックなこと言ってねぇよッ!」


 あっ、と友人は口を開くと、俊敏な動きでその場から瞬時に跳び上がった。そこに銀の閃光が突き抜けていったが、彼の顔に安堵はない。


「俺が避けたり、防御するだけと思うなよ」


 防御しても追い打ちをかけられ、避けてもUターンして襲いかかってきたおぼんとの戦闘経験は、確実に友人を成長させていた。彼は手に持っていた食事を食べるための食器を構え、先ほど避けたおぼんを見事なコントロールで撃ち落としたのだ。


 次に飛来するおぼんも、彼は同様に撃ち落とす。なるほど、攻撃こそが最大の防御という訳か。エンペラーの腕前は見事だが、投げているのは普通のおぼんだ。軽いため、弾かれやすい。音速のような攻防が繰り広げられたが、突如エンペラーの構えが変わる。友人もそれを感じ取り、顔を上げ――衝撃に目を見開いた。


 不敵に佇み続けていたあのエンペラーが、小さく笑っていたのだ。いつもの営業スマイルではない、その笑みは紛れもなく帝王としてふさわしいオーラに溢れていた。すぐにその表情は消え去ってしまったが、間違いなく友人との攻防に彼も何かを感じとったのだろうとわかった。


 そして構えられたおぼんは、聖剣の風切り音とは比べられないほどの回転速度と共に打ち出された。友人は小さく息をのんだが、すぐさま迎撃するために動く。しかし、小型の台風そのもののようなおぼんは、友人の攻撃など何事もなかったかのように直進した。見事なパワーショットである。


「いやいや、待て待てっ!? 何ナチュラルにおぼんに必殺技が存在して――グホォオオッ!!」


 まさに必殺技に恥じぬ威力。友人が盛大に吹っ飛んで行った。




「くそっ…、戦闘途中でいきなりパワーアップするなんて聞いてないぞッ……」

「み、見事に飛んだの。あれで打撲ですむお主も大概じゃが。あと余の記憶的に、先代の勇者が戦った魔王は第二形態とか普通にしておったが」

「えっ、魔王もあんな感じでパワーアップ変身するのか。魔王ってすごいんだな、友人」

「変身を魔王の様式美みたいに語らないでくれ…」


 どうやら友人は、第二形態はまだできないようだ。でも、友人は一般的な魔族だし、みんな変身したら大変だろう。いつかできるようになったら、見せてもらおう。


「もう話を強制的に戻すぞ。俺が言いたかったのは、広報組合に限らず、民間の組合とかなら規則もそこまで厳しくなく、カブトムシの一匹ぐらい登録させてくれるだろうってことだ。話を聞いた限りじゃ、実力主義っぽいところがあるみたいだからな」

「なるほどのぉ。確かに組合は外から来る者たちを、積極的に受け入れているようじゃからな。しかし、組合は数も多いのであろう?」

「うーん、僕も組合関係はそんなに詳しくないからな…」


 神殿系列なら助言もできるが、さすがに畑違いなので知らないことが多い。だけどたまたまではあるが、僕はとある組合と仕事で関係を持ったことがある。あそこは手土産を持って行った神官の僕に、大変友好的に接してくれた場所だ。嫌な顔一つなく、ずっと笑顔だった。もしかしたら、聖剣を受け入れてくれるかもしれないだろう。


 例えそこで働くのが厳しくても、きっと僕らの手助けになってくれるはずだ。組合の窓口として、まず名前をあげられるところである。僕らのようなちょっと困った案件だって、きっと星の数ほどこなしてきたはずだろう。ここはその道のプロにお願いするのが一番だ。



「よし、それじゃあ冒険者組合へ休日に行ってみようか」

「おぉ、噂の冒険者か。なんだか荒くれなイメージがあるが、か弱い余はいじめられたりせんだろうか」

「心配はいらない。あそこの人たちは顔は厳つかったけど、ただの一介の神官である僕にとても低姿勢で接してくれた優しい人たちだからね。……あと、どうした友人?」

「いや、俺あの時飛竜通り越して竜の巣に突っ込んで、なんか偉そうな巨体に魔法をぶっ放したような記憶はあるんだが……」

「うん、その後友人が転移で聖王都まで運んでくれたから助かったよ」

「お、おう。……まぁ、いっか」


 曖昧な笑みを浮かべながら何故か遠い目をする友人と、わくわくと角を上機嫌に振り回す聖剣。僕も仕事以外で冒険者組合に顔を出すのは初めてだからちょっと緊張するけど、きっとなんとかなるだろう。だんだん楽しみな気持ちの方が、僕の中で強くなっているのも確かだと思った。


 こうして、僕らの冒険者組合見学ツアーが決定したのであった。



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