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第十話 聖王都初心者の心得その四、仕事は真面目にやりましょう

前回までのあらすじ

冒険者組合を巻き込んだカブトムシ就職騒動の中、魔族側で反乱が起こったが出落ちで終了した。魔王様の八つ当たりが、俺のこの手が真っ赤に燃えるごとくうねりを上げる。そんな周りへの被害状況についてのお話。




「へぇ、神官さんってもともと東の国の出身だったんだ」

「うん、でも東の方だと僕の力ってあんまり使い道がなかったから。聖王都の神官だったら、神力は重宝されたし、出稼ぎするのにも悪くなかったからね」


 微かに吹き抜ける風を感じながら、僕らは従業員さんの背中に乗っておしゃべりをしていた。先ほどまで西の平原を一刻ほど歩き、そこに現れた魔物を討伐したり、採取できる植物を教えたりしながら進んでいたけど、せっかくだからと西の砂漠まで見てみようという流れになったのだ。


「使い道がない? 神力は癒しの力があり、魔物を浄化できるであろう」

「うん。でも僕が力をある程度制御できるようになったのは、聖王都で何年も仕事に就いてからだから。それまでは、魔物を一匹倒すだけでも山一つ消し飛ばしちゃったこともあって……」

「あぁ、うん。そりゃあ、使いづらいの」

「うん。それもあって、僕は家族やみんなと同じ仕事ができなかったから。だから聖王都なら、神力の制御の仕方を教えてもらったり、自分の力をちゃんと生かせる仕事に就けたりできると思ったんだ」

「へぇ……、神官さんも色々苦労していたんだ」


 確かにそれなりに苦労はしたかもしれないけど、頑張ってきただけの結果はあったと思っているから、必要な苦労だったと僕は考えている。聖王都に来たおかげで、自分でお金を稼げるようになったし、仕事への遣り甲斐も見つけられたし、遠慮なくビームを打てるようになれたし、友人や聖剣にも出会えたから。


 思えば、友人と出会えたおかげで、神力の制御もかなり向上したんだよな。それまで魔物と戦っても、一撃で倒してしまっていたから。だけど、むやみにビームを撃って環境を破壊するのはよくない。だから友人との戦闘は、初めて全力で戦えたのだ。友人に会えたのは、僕が聖王都に来てもうすぐ一年経つ頃だった。生まれてからずっと抑え続けていた力を、本気でぶつけ合うことができたのだ。


 戦闘は大変だったし、あの時は無我夢中だったけど、今から考えればそのおかげで溜まっていたものを発散することもできたのだろう。ずっと我慢し続けるって、やっぱり健康に悪いと思う。何より初めて同じ目線で、他人とたくさん語り合えたような気がするのだ。やっぱり僕にとって、友人の存在は大きい。友人には、感謝でいっぱいだ。


「そうだ。ハベルさんは、どうして冒険者になろうと考えたの? 冒険者は危ない仕事が多いし、日雇いの仕事が多いから給料は一定しないし、保障や保険も充実したものは少ないから大変じゃないかな。安全とか老後への貯金とか」

「……神官さんみたいな思考の人は、冒険者には向かないだろうな。俺は、まぁ……英雄と呼ばれるぐらい名を上げたいっていう子どもみたいな理由だな、冒険者になろうと思ったきっかけは」

「ん? 名前をあげたら、何かいい事でもあるのか?」

「いいことというか、ロマンというか……。その冒険者は大変だけど、達成感が強く感じられるし、実力が上がれば上がるほど上に行けて、お金も一気に稼げる。有名になれば、世界中に俺の名前が残るかもしれない。厳しい上下関係や制度で縛られるより、ある程度自由気ままに過ごせる冒険者は楽でもあるんだ」


 なるほど、そういう考え方もあるのか。つまり、仕事に求める優先順位が違うんだな。名前をあげたいっていうのは、周りから頼りにされたり、尊敬を得たいということだろう。それなら、僕もわかる。


「へぇー、冒険者もすごいんだね。僕も友人もお役所勤めだから、初めて知ったよ」

「えっ、あの小姑もお役所勤めなのか?」

「そうだよ。いっつも書類仕事で肩がこるとか、言うことを聞かない部下を静かにさせるのが疲れるとか、脳筋思考こんちくしょー! って感じで、よく仕事の愚痴を話してくれたんだ。新しいマッサージ器具が入荷したら、必ずカタログ片手にお店へ行って、気にいったら即購入してしまうぐらい大変らしい。最近は、温泉のパンフレットをよく眺めていたな」

「そ、そうなのか…」


 さすがに魔族の友人に、僕の神力で疲労を回復させることはできないからね。そういえば、そろそろ砂漠が見えてくるかな、と視線を巡らせていると、ハベルさんの右肩のあたりに血がにじんでいることに気づいた。さっきまでの戦闘で、もしかしたら切ってしまったのかもしれない。僕は西の平原に来た時のことを、ちょっと思い返した。


 聖王都周辺の平原は見晴らしがいいため、人間も魔物も獲物を見つけやすい。おかげで聖王都から出てそれほど時間をかけずに、僕らは遠目から草むらの絨毯を駆けている魔物を発見したのだ。若草色の毛皮を持ったウルフは、この平原でよく見かける種であり、聖王都初心者の最初の難関と言ってもいいだろう。


 しなやかな動きと速さが厄介だが、他国でそれなりに冒険をしてきた者なら、彼ら単体にそれほどの脅威は感じない。だが厄介なのは彼らの強さではなく、狡猾な連携攻撃にある。王都に近い場所で遭遇したことから、偵察や狩りの役目を持ったウルフ達だろう。彼らは基本一匹で行動することはありえない。必ず三匹以上の仲間で行動するのだ。


 このことを知らないと、彼らの罠に引っかかることが多いらしい。一緒にいた冒険者組合の従業員さんが、冒険者さんの背後から丁寧に説明してくれたことである。彼らはその体毛の色を生かし、草原に紛れるように動きを止め、待ち伏せして襲いかかってくるそうだ。あとはわざと一匹だけ姿を現し、獲物を油断させて、隠れた仲間が奇襲することもあるらしい。


 たぶん、あの時の魔物の連携攻撃が掠ってしまったのだろう。僕からの怪我の指摘で、冒険者さんは驚いたように右肩を確認しだす。本当に掠り傷だったようで、気づかなかったらしい。それでも、消毒は必要だろう。


「なんじゃ、その程度なら余がなんとかしてやろう。ほれ、怪我を余の角の方に向けてみよ。神力でちょちょいと治してやろう」

「……未だにカブトムシが、回復術を使ったり、魔物相手に無双したりしたことが信じられないんだけど」

「諦めよ、この世は全て諦めることで楽になる……」

「終末セリフやめてください、ヴァーラさん」


 従業員さんのメンタルが、またよくわからないが下がっているようだ。聖剣に、こっちの回復もお願いしておこう。



「しかしお主の戦いぶりを見せてもらったが、なかなかの剣の使い手じゃったな。ちょっとうずうずしたわい」

「あぁ、確かにすごかったよね」

「いや、その……ありがとう」

「あと、ヴァーラさんもハベルさんの背後につかず離れず、戦闘の邪魔をしないように軽やかにくっ付いていたしすごかったよね」

「ものすっごく見た目が邪魔じゃったがな。生きた巨体背後霊(物理)」


 戦闘中でも、冒険者さんの後ろにずっと引っ付いていた従業員さん。戦闘しているウルフたちが、ものすごく戸惑っていたのがよくわかった。冒険者さんはもう気にしなくなっていた。彼らの仲良しは、戦闘中でも変わらないらしい。うん、仲良きことは美しきことだな。


「……強さ自体は今までの魔物とそこまで変わらない。だけど、強さ以上に厄介な部分が多いと感じた。さっきのウルフもそうだけど、事前知識がない状態で挑むと今回のような掠り傷じゃすまない目にあいそうだな。あと、そろそろ俺の背後をどうにかしてほしい」

「とのことじゃが、魔竜族よ。そろそろ盾がなくても、なんとかならんか?」

「われ、なにもきこえなーい」

「ハベルよ、このドラゴン駄目じゃ。しばらく背後の威圧感は頑張ってくれ」


 聖剣が神力で傷を回復させながら、仲良さげに話している。彼が剣士であり、聖剣が賞賛できるほどの使い手だったからきっと嬉しいのだろう。たまに、「剣を振ってみたくはないかー?」とか、「素振りは運動によいぞー?」と、角をぶんぶん振り回しながら言ってくるからな。聖剣の本能だろうか。


 ハベルさんは、ソロで旅をしていたというだけの実力はあったけど、やはり聖王都の周辺は戸惑うことが多かったようだ。冒険者視点から従業員さんの評価をもらっていたけど、聖王都でやっていく腕はあるとのこと。ただ聖王都は魔物の数が多く、新種も毎年発見されている。囲まれた時の対処と事前情報なしの戦いの場合は、少々不安な点は残るということらしい。


 ちなみにイザベルも戦ったが、どうやらカブトムシが敵だと素で思われていなかったようで、初見殺しし放題だった。飛ぶし、小さいし、固いし、カッコいいし、さすがは聖剣カブトムシだ。攻撃範囲は狭い故に大型は厳しそうだけど、聖なる力を持っているから、急所さえ狙えば倒せるだろう。聖剣無双の背景である。


 従業員さんからも、なかなかの高評価であった。しかし初見に強いとなると、冒険者として聖王都で認められて、情報が広がっていけばその手は使えなくなる。友人のようにおぼんとカブトムシを見たら、反射的に身構えるようになってしまうかもしれない。そこは注意が必要だな。


「ほれ、終了じゃ」

「ありがとう、本当に綺麗に治った。無双も回復もできるし、イザベルさんなら一匹でなんとかなるんじゃないか?」

「うーむ、しかし問題もあっての。冒険者の仕事は魔物を倒すだけではない。魔石を集めたり、素材の回収も仕事じゃ。カブトムシでは、荷物を持ち運ぶことが困難であろう。身軽に動き回れることが余の強み故、荷物などは持てぬ。じゃが、それでは仕事にならん」

「なるほど、そのあたりは確かに不便だ」


 そこが、聖剣の冒険者家業のネックである。持ち運びができないぐらい獲物が大きかった場合は、お金はかかるが申請をメッセージで伝えれば、組合の職員が召喚魔法の応用で運んでくれるサービスはある。しかし聖剣の場合は、自身で持ち運べるものがほとんどないため、それだと運搬費用だけで大赤字だ。


 つまり、いくら聖剣が魔物を倒したとしても、イザベルだけで冒険者稼業を行うことが難しいのだ。荷物持ちを雇うか、グループを組むかしないと解決しないだろう。僕は当然仕事だから、一緒について行くことはできない。


「従業員さん、組合の魔導具にそのあたりを解決できる代物はないの?」

「く、くくく、組合にはッ――!」

「フェイルが話しかけるたびに、毎度発作を起こすでない。ほれ、回復回復」


 ちなみにこの冒険でのイザベルの神力は、主に従業員さんの回復に使われていたりする。あと、そういう便利な魔導具はないらしい。残念だ。


「回復お疲れ様です、イザベルさん」

「何、大したことではない。お主にも苦労をかけるの」

「いえ、このメンバーの中で、カブトムシに一番常識がある時点でもう色々諦めてきましたから」

「本当に苦労をかけるのぉ……。ほれ、余の秘蔵の蜂蜜じゃ。甘いものはいいぞ」

「はい、ありがとうございます」


 まさか、あのイザベルが一日三杯までしか飲めない蜂蜜を他の人にあげるだなんて。蜂蜜を簡易コップに注ぎ、まるで杯を交わす様に、蜂蜜を一緒に飲み干していた。そんな人間とカブトムシによる、美しい契りを交わすような光景が広がっていた中で、それは砂漠の方から突然現れた。



「……いるな。この大群レベルだと、今すぐ組合に知らせて、冒険者たちへの緊急招集と、聖王都の住民に緊急避難を告げる必要がある」

「嘘だろ、なんだよあの大群」

「ふむ、なかなかの魔の気配じゃな」


 上空から見えたのは、砂漠に広がる黒い集団。それは、かなりの数の魔物の群れだった。遠目からだけど、今まで見たこともない魔物や、砂漠に生息していて平原には来ないはずの魔物まで混じっている。多種多様な魔物たちが真っ直ぐに聖王都へ向かっていることから、おそらく指揮系統がしっかりしていると判断した。


 魔物の大群には、大きく二種類ある。混乱型と指揮系統型だ。混乱型は意図せず大群になったり、何かから逃げ出そう、または同じものを狙ったため集団で行動しちゃったりと、理由は様々だ。だが、こちらは大群になっている魔物同士でも争っていることが多く、移動もめちゃくちゃな場合が多い。


 一方で、指揮系統型は、先ほど戦ったウルフのように魔物をまとめる頭がいたり、同じ目的を完遂するために動いている場合だ。当然、こっちの大群の方が混乱型よりやっかいである。これだけの数と種類が、ちゃんと指揮されているなんて、僕も初めて見たかもしれない。


「どうする、立て直すかの?」

「ハベル、先ほど組合から通信用の魔導具をもらっただろう。今すぐそれを起動して、組合に知らせよ」

「わ、わかっ――」

「えーと、この距離と範囲だと、いつものビームによる線の攻撃より、面での方がいいか。しっかり指揮されている分やっかいだから、全力の一撃がよさそうだね。逆に指揮がちゃんとしている分、動きが規則正しくて範囲設定がやりやすい。となると、天空からの広範囲ビーム光線でいっか」


 今日は休暇だけど、緊急時の仕事はしっかりしないとね。僕は魔物の群れを見てやり方を決めると、早速神力を最大限にまで高める。余力は残すけど、あとは全部目の前に展開した方陣に注ぎ込んだ。神力はその力だけで魔のものに大ダメージを与えられるため、攻撃系の術のバリエーションが少ない。魔族のように、魔力を火や水などの属性に変換する必要がないからだ。


 神力を使う攻撃系統は、主に三つ。一つ目は武器や道具等に神力を付与することで、破魔の力を与えて攻撃する技。二つ目に神力そのものを撃ち出して敵に当てる技で、神力の込め具合で威力が変わる。僕がよく使うビームがこれに当たる。点や線による攻撃で、数が少ない時に主に使用する。これは色々応用もできるので、ビームソードを作って包丁代わりに料理を作る人や、糸みたいに細くして切断に特化させて木を切る木こりさんもいる。


 そして最後が、特殊攻撃型の神光術になる。これは五百年も前から、培われてきた古い技術だ。そのため、使用者が少ない。最初の二つの攻撃は、この五百年間で改良し続け、使いやすく、少ない神力でも放てるように工夫されてきた。しかし、この古い術を神殿はあまり手を付けなかったのだ。改良して、使いやすくするリスクを恐れた。それこそ、戦争以外には使用できないような術が多かったからだ。


 神官はもしものために、神殿に保管されている神光術を教わる。それは今のような緊急事態が起きた時に、聖王都を守るためにだ。僕は展開した方陣に、さらに神力を注ぎ込むと、ついにはキュインキュインと音が鳴り始めた。


「ま、待てっ! 何故か我の背中の上から、ものすごく物騒な音が響いているのだがッ!? というか、魔の者の背中の上で、我も一瞬で蒸発されそうなものを準備するって何を考えているんだっ! トラウマを抉るどころじゃないよねッ!? 頼む、我のことを労わってッ!?」

「ヴァーラさんは、組合の従業員でしょ。聖王都を守るための仕事は、聖王都で働く者の義務だよ、頑張らなきゃ」

「もうやだァーー! この我が道を進む、仕事人間ッーー!!」

「……うむ、余はどちらを弁護するべきじゃろう」

「……とりあえず、後で組合の方にカウンセリングをお願いしておいたらいいんじゃないかな」


 よし、神光術が完成した。魔物の方も、上空に大群をすっぽり囲めるような巨大方陣が出現したことで、驚きに動きが止まる。この術は簡単に言えば、上空から方陣で設定された範囲を、一直線に神力の塊で直下破壊させる単純な内容の術だ。込めた神力の分だけ威力が増すので、僕が使う神光術の中では一番使い勝手がいい。最後に僕は、組み上げた術式を起動させた。



「――天雷(テラ)


 そして、光が落ちた。




******




「……で、その時泣き叫んでいたドラゴンが、お前が極大ビームをぶっ放したと同時に泡吹いて気絶して、そのまま空中落下したと。よく無事だったな」

「イザベルがすぐに結界を張ってくれたからね、僕もびっくりした」

「ある程度、予測できる事態じゃったからの」


 いきなり空中に放り出される経験なんて、初めてだった。なかなかスリリングな体験ができたものだ。冒険者のことも色々知れたし、今日は初めて知れたことがたくさんあった。そう考えると、なんとも有意義な休日になったと思うな。


「……まぁ、そのおかげでこやつら二人に、魔族の存在を知られずに済んだがの」

「ハベルさんも、空中に放り出された時に気絶しちゃったからね。上空落下は初めてだったのかな」

「そりゃそうじゃろう。むしろ、お主が動じなさすぎじゃ」

「こいつ、魔族がいることを初めて知った時のリアクションが、『本当だ、耳がとんがっている』で済ませただけだったからな。もっと他にあるだろ!? と叫んだ記憶がある」

「僕としては、十分に驚いていたんだけど」


 転移魔法で友人がやってくるまでの間のことを説明し終わると、友人はまず視線を明後日に向けて、そのまま数分ほどたそがれた。それから神力で捕まえていた黒焦げ魔族の方々を、巨大魔法陣を展開させて一瞬で移動させたのだ。


 生き残った魔物の何匹かは連れ帰るようだけど、大部分はこのまま置いて行くらしい。魔族は運良く見られなかったけど、魔物の大群は見られている。数が足りないと、後で面倒だからだそうだ。


「……それで、こやつらの目的は余の想像通りかの?」

「あぁ。だが、魔族の一部が暴走した結果だ」

「一部の、か。そうか。それにしては、なかなかの数の魔族がおったものだ」

「魔王城でくすぶっていたやつ、ほぼ全員だ。逆に、今回のことであぶり出せた。不幸中の幸いだがな」

「うーん。つまり今回の魔族たちは、三年前の友人と同じで、はっちゃけすぎたことが原因という訳か」


 友人が、過呼吸気味に項垂れた。……あっ、復活した。


「そ、そうだな。ごふっ…」

「それにしては、友人ほど強くなかったな。高笑いもなかったし、テンションの違いか?」

「お前、俺の古傷をピンポイントで抉ってくるのやめてくれないか」


 違ったらしい。そういえば、さっきの魔族と友人の魔力量を比べたら、友人の方が圧倒的に多かった気がする。友人が魔族の基準と思っていたけど、結構強かったってことなのかな。



「むっ、そうだフェイル。聖王都に通信しようとして、まだしておらんかったであろう。事後とはいえ、神官として代理の連絡は入れておくべきじゃないかの」

「あっ、そうだね。ハベルさんから、通信用の魔導具を借りてくるよ」


 僕の通信魔導具は、今日は休日だから家に置いてきてしまっている。人のものを勝手に借りるのはいけないけど、さすがに今回は仕方がないだろう。あとで借りたことを、冒険者さんに謝っておこう。それから組合に通信が繋がって、僕が話し出したら、すぐに組合長さんに話を通してくれた。


「こんにちは。組合を出てから、西の平原で魔物を狩っていたんです。それで、せっかくだから砂漠に行ってみよう、と竜の背で空を飛んでいました。そこで蜂蜜の盃で誓い合っていたところに、数百匹の指揮系統型の魔物の大群が聖王都に押し寄せていたので、僕がビームでブッパして黒焦げにしておきました。あっ、その時に、ヴァーラさんがビームを見て墜落して、ハベルさんが空中に放り出されて気絶してしまって、でもカブトムシパワーで助かりました。なので代わりに、僕が連絡させてもらっています。それで、これからこっちはどうしたらいいでしょう?」

『…………えっ?』


 数秒ほど無言が続き、もう一回説明を求められた。一語一句もう一回報告する。沈黙された。おかしい、僕は事実をしっかり伝えているのに。


 それから、職員をこちらに派遣するからと言われたので、それまで待つことにした。ふと、友人と聖剣の方を向くと、二人で何か話をしているらしい。僕が連絡がついたと声をかけると、そのまま話を中断してしまったようなので、別にかまわないと告げておく。でも別によかったそうなので、代わりに組合長さんからの話の内容を聞かれた。


 それに、この場にいるはずがない友人がいるのは色々面倒になるということで、彼は転移魔法陣で帰ることになった。はっちゃけ魔族さん達と話をしたりで、しばらくは忙しくなるようだ。来週ぐらいにいつものところでお昼を食べようと約束して、手を振って別れた。今日も友人のおかげで助かったから、次回の昼食の代金は僕が払おう。うん、やっぱり友人に相談してよかった。


「じゃあ、イザベル。組合の人たちが来るまで、どうしていようか」

「そうじゃのぉ。……とりあえず、そこで白目を向いて泡吹いとるドラゴンの治療かの」

「あっ、そうだね。大丈夫かな」


 僕らは二人の治療をしながら、暇つぶしに蜂蜜を分け合って飲んでおしゃべりをして過ごした。聖剣はどうやら冒険者の仕事に遣り甲斐があったらしく、このまま続けてみたいと話していた。これでいい腐葉土と蜂蜜、ついでに磨き布と油をいっぱい買えるのじゃ! と楽しそうに喜ぶ姿に、僕は口元に笑みが浮かんだ。



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