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幽霊とは知らずにナンパした子は凄まじい美少女だった。

作者: 青柳 兎蝶

ホラー苦手なのに突然ホラーが書きたくなってしまいました。

だから少しでも怖くないようにと主人公をおバカにしたらなんか、コメディーチックに・・・。




「あー、マジねっむいわあ」


 午後の授業ほどかったるいものはない。眠気にあらがえず、あくび交じりに呟くと思いのほか声が教室に響いた。やっべと焦るが国語科のハーセンは教科書の音読に忙しいご様子で声に気づいた気配はない。ふうと息を吐いて心の中でハーセンざまあと舌を出す。頭が禿げているから禿げ先生でハーセンだ。誰が名付け親なのかは知らないがいいネーミングセンスだ。

 ああ、それにしてもどうして午後の授業はこんなに眠い科目ばかりなんだ?

 こんなの寝てくださいと言っているようなものだろう。そのくせ授業中にオレが寝たら、見た目がヤンキーっぽいってだけでハーセンのやつ、三角定規を飛ばしてくる。

 考えれば考えるほどイライラしてきてゴールドに染めた髪を掻きむしっていると、隣に座っている小さい頃からの心友、オサルが小声で話しかけてきた。


「ちょっと、フケ飛んでくるから頭掻くのやめてよ、コウちゃん」


 なっ!こいつ、授業中に話し掛けてきたかと思えばフケごときで心友を邪険にするとは!


 ……いや、フケが飛んでくるのは、嫌だな。

 思い直してうんうん頷くと、オサルに片手で詫びる。


「わるかったな、オサル。でもさ、ハーセンの授業眠いんだよ、耐えられねえ」


「それみんな思ってることだよ?」


「分かってるよ、ちゃんと起きてるって。前みたいに三角定規投げられるのはこりごりだからな。あー、つまんね」


 小さい時から俺とつるんでいたはずなのに、どうしてこいつはこーんな真面目ちゃんに育ってしまったんだか。

 汚い字で落書きだらけのノートに目線を戻した時、オサルが「そういえば」と明るい声を出した。

 声からして面白そうな話だ。いや、面白くなくてもいい!

 取りあえずこのつまらない授業からオレを解放してくれ!

 興味津々に乗り出すのは子供じみていたので、わざとだる気に「なんだよ?」と尋ねると、オサルは〇の種のように小さい目を輝かせ、何やら一人で盛り上がっている様子だった。


「この学校の裏庭、出るらしいんだ」


「でる?……お、お前まさかゴキブリが出るのがそんなに嬉しいのか!?」


「ち、違うよ、ゴキブリ出て喜ぶわけないじゃないか!僕が言いたいのは幽霊の方だよ!」


「は?幽霊?」


 その言葉の響きにドックンと心臓が動く。

 オレは小さい時から幽霊に会いたと思ってきた。

 そういえばオカルト好きだったオサル以上に興奮して、思わずオレは勢いよく立ち上がっていた。


「うっそまじで!?あああの幽霊がこんなふっつーの学校の裏庭に出て来てくれるのか!」


 オレの予想以上の盛り上がりにつられたのかオサルもキラキラした笑顔で立ち上がる。


「そうなんだよお!僕も最近知ったんだ!コウちゃん一緒に行こうよ!そんで幽霊にイ、インタビューしたいんだけど僕!」


「うおおー、すっげーなオサル!オレたち人類初の幽霊にインタビューできた人間になれるぞ!!」


 周りのことも忘れて盛り上がっていると、オレとオサルの間を何かが横切って行った。それも凄まじいスピードで。

 かつんと後ろの黒板に何かが当たる音がして二人して同時にそちらを見やると、三角定規が後ろの黒板に刺さっていた。

 オサルと目があい、暗黙の了解とばかりに頷きあう。ハーセンの禿げ散らかった頭から二本の角が生えてきているのが、心の眼でしっかりと確認できた。



              ☆  ☆  ☆




 ハーセンの逆鱗に触れて遅くまで説教させられたが、授業中眠くなることはもうなかったので、結果オーライと考えることにしたオレとオサルは思い立ったが吉日、ということでその日のうちに幽霊に会いに行こうと夜の学校に忍び込んでいた。

 授業が終わり、ハーセンから逃げながら辿り着いたオサルの家で十分に作戦会議をしたオレたちには怖いモノなど何もない。

 オサルのオカルト仲間が集めた情報より、穴場である野球場のフェンスの破れた所をくぐって中に入る。無事潜入を終えて、改めて夜の学校というものを見てみると、やはり昼とは違い、少々不気味だ。

 非常口の緑のランプが、エイリアンの体液の色を連想させてぶるっと震えた。

 オレの後からくぐったオサルがやっと出てきたところで、どちらからともなく行くか、と声をかけて歩き出した。


 子供のころ、オレは誰かと同じことをするのが嫌いで、周囲から浮いていた。


 子供のころ、オサルは無口で病弱だったから、誰からも遊んでもらえず、周囲から爪弾きにされていた。


 だからそんなオレたちが仲良くなったのはきっと必然ってやつなんだ。

 仲良くなったきっかけは幼稚園で一人で絵本を読んでいるオサルを見かけて、読んでいた絵本の表紙が妖怪のおどろおどろしい絵だったのが気になって声をかけたことだった。

 何度も妖怪について尋ねるたびに細かい答えが返ってきて、気が付くと変わり者同士でつるむようになっていて、オレもオサルと同じように幽霊に会いたいと思うようになっていた。

 それが今日叶うかもしれないと思うと、胸躍る思いだ。

 裏庭の噂は実はこの学校創立時代からある古い話らしい。

 この学校を建てていた当時の工事現場の人たちが今の裏庭がある辺りで二十代前後の女性の古い白骨死体を発見した。

 相当に古いものだったらしく、身元の分からないその死体はどこか別の場所に埋葬されたそうだ。

 しかしそれから、この学校の裏庭には白装束を着た女性が姿を現わすのだという。

 その女性は姿を現し、自分を見たものと十分ほど話をするのだそうだ。

 そしてそのまま気が付くと消えているらしい。

 その話にオサルは大はしゃぎで、幽霊にインタビューしなくちゃと張り切っている。

 数分ほど歩くと裏庭が見えてきて、高揚したのもつかの間、裏庭には先客がいた。

 一番乗りがよかったのに、と少し興が削がれながらよりいっそう近づいていくと、裏庭に植えてある枝垂れ桜の幹に、白い着物を着た女性が腰かけていた。思わずオレもオサルも息をのんで立ち止まる。

 夏の今、枯れてしまった枝垂れ桜に寄りそう女性は暗闇の中でほの白く光っていて、幻想的に美しかった。

 しばらくぼうっと見惚れ、はっと我に返る。

 女性の夜の一人歩きは危険だ。

 怖がらせないように慎重に言葉を選びながら声をかけてみる。


「へい、お姉さん、ひとり?すっげー可愛いね。オレたち今から幽霊にインタビューするんだけど、一緒にどう?」


 あ、今オレアホなこと言った。何だよへい、お姉さんって!いつの時代のナンパだよ!?

 っつーかナンパで幽霊にインタビューするんだけど君もどう?ってマジでアホか!!言動が完璧怪しいっつーの!

 と悶絶していると、凛とした澄んだ声が鼓膜を震わせた。


「ゆうれいにいんたびゅーって、なに?」


 これ以上滑りようがない程に滑ったオレを気にしていない口調。何とみ、見た目だけではなく、心もお美しい!


「ここに幽霊が出るって噂なんだけど、オレたちその幽霊にいろいろ聞いてみたいことがあってここに来たんだよー。お姉さんは、こんなところでなにをしてるの?」


 めげずに話しかけるオレの腕をその時オサルが強い力で掴んだ。


「ねえ、コウちゃん。あの人なんかおかしいよ。着物なんて、お祭りここら辺はしてないし、夜の学校にいること自体おかしいって。あの人、噂の幽霊なんじゃない?」


 さっきまであんなにはしゃいでいたくせに、泣き出しそうに顔を歪めているオサル。


「バッカ、お前すっげー楽しみにしてたじゃねえか。あの人が幽霊なら、いろいろ質問できて一石二鳥……」


 オサルをそのまま引きずろうと歩き出したが、もう一度強く引かれる。


「ぼ、僕さっきから足が動かないんだよ!!」


 今まで聞いたこともないオサルの必死な声に今度こそぎょっとするオレ。

 オサルの顔は真っ青で、わざととは思えないくらい、震えていた。

 腕に食い込んだ指が痛い。それほど必死なのだろう。

 心友がこんなに怯えていたんじゃ、これ以上ここに長居はしない方がいい。

 オサルに肩を貸しながら踵を返そうとすると、


「私はここに埋められたの」


 ぞっとするほど冷たい声がして、首筋を生ぬるい風が撫でた。

 背筋に皮膚に氷が当たったのか、真夏なのにがくがくと膝が笑っている。

 決してトイレに行きたいわけではない、何か別の理由の。


「村神様の祟りを鎮めるためにたてられた人身御供。私の嫌いな白い着物は泥で汚されていって」


 声が近づいてきていた。

 だが体は金縛りにあったように動かず、振り返ることもできない。


「村一美しい者を深い穴に落として、上から砂をかけていくの。少しづつ、少しづつ光が見えなくなって、最期まで苦しみながら死んでいく。どうして私が美しいという理由で一人埋められなければならなかったの?」


 つんと鼻をつく土の匂いがした。

 声はすぐ真後ろから聞こえる。

 けれどどうしてだか、もう先程のように怖いとは思わなかった。

 彼女の声には深い悲しみと痛み、慟哭が満ちている。危うい悪意も、感じる。

 しかし彼女を怖いとは思えない。

 何故か?

 少し考えてやっと気づく。

 彼女が美しいからだ!

 気づいた途端、体の呪縛が解けたかのようになる。

「ぅえ―ちょっとおー!!?」というオサルの悲鳴とともに振り向く。

 そこには白装束を着た凄まじい美貌の彼女が涙に濡れた瞳でこちらを見つめていた。


「お姉さんはオレの今までの人生で一番美しい女性だ!白が嫌い?そんなことねー、この着物、お姉さんにすっげえ似合ってる!オレが保証してやっからとっとと成仏して親御さんの所いってやれ――っっ!」


 こんなに綺麗な幽霊が悪霊としてオレたちを襲うわけがない。

 噂でも話を聞くだけでどこかに消えちまうような無害の霊だ。

 それを変に勘ぐって一人で盛り上がっていた(文字通り)オサルは後でしばく。

 女性の霊は突然叫んだオレをしばらく見つめた後、ふっと花開くような笑みを零した。

 その笑顔の美しさに胸がこそばゆくなり、顔がかあっと火照った。

 しかし次の瞬間消えると思っていた彼女はオレとオサルの方に宙を浮かびながら近づいてきて、オレ達の体をすり抜けていった。

 瞬間、彼女の思念が一気に流れ込んできて、オサルの叫び声を子守唄に、オレは意識を手放した。




              ☆  ☆  ☆




 おそらく夢を見ているのだろう。

 どこからか鈴の音が響き、人々の嘆き声が聞こえる。

 気が付けばオレは鳥居の前に立っていた。

 石畳の上に彼女が座り込んで、神主らしき人が何やらぶつぶつ呟いている。

 これは彼女がオレに見せてくれている、夢なのだ。

 顔を上げた彼女がオレを見る。

 溢れてくる言葉。


「私はみんなの役に立てた?」


「みんなは幸せに暮らせている?」


「あいたい」


「ここは暗くて、冷たくて、寂しい」


「こえを、きかせて」


 長い間土の下で眠っていた彼女を掘り起こしたのは人間だが、彼女は嬉しかっただろう。

 ずっと土の中で誰の声も聞けず光を見ることも叶わなければ、誰でも自分をそんな風にした相手を少しは恨みたくもなるから。

 外に出られて彼女は人と話し、自由に振る舞い、楽しんでいた。

 オレたちにしたことも、オサルがあんまり怖がるから面白がっていただけなのだ。

 目を覚ますと枝垂れ桜の下でオレとオサルは倒れていた。

 朝の静けさに包まれた学校は静謐で、目覚めの朝としてはなかなかだ。

 時計を見ると五時。

 急いで帰れば登校に間に合うだろうと、オレはいつまでも寝ているオサルを小突いて起こす。

 昨日の夜のことをよく覚えていないというオサルにほとほと呆れながら、オレは何度も昨日会った彼女のことを話して聞かせた。

 きっと忘れることはないだろう、ひと夏の思い出を。

 幽霊に会いたいというオレの願いは叶ったが、今後もまた会いたいかと問われれば会いたくないと答える。

 間違いなく、迷うことなく。

 オレの中の幽霊は彼女ただ一人で十分だから。




 余談だが、あの後も裏庭の幽霊の話は消えることはなかった。



つたない文章ですが、最後まで読んでくださってありがとうございました。

まだまだ小説家見習いなので、アドバイス、誤字脱字などがありましたら、気軽にメッセージをいただけると嬉しいです。


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