第5話 エルク
ルッツ達は今、ハンプトンの西にある、小さいほうの島の中心街『エルク』に来ていた。かつてはこの島にあった国の首都であったが、ハンプトンに連合という形で合併して以来、地方都市という認識が強くなっている。
この都市は、西の海を隔てた先にある大陸との交易地としても機能している。その影響で、西の大陸から伝わった酷所でも栽培できる芋を育て、主食としている。
ただ、交易はいいことばかりをもたらさない。危険な外来種が潜り込む事もある。ルッツ達が標的とする『パソジェニック・ファーン』もその一つだ。
パソジェニック・ファーンとは、本来西の大陸に住む魔獣で、一言で言えば『動くシダ』だ。
こいつの厄介な点は、植物に対する病原菌を保有しており、この菌がばら撒かれると農作物はもちろん、森林すら丸ごと枯らしてしまう事だ。一気に森林が無くなると、人間が対処不可能なほど激しい環境変化が起こり、死の土地と化してしまう。そのため、発見され次第、かなり優先的に討伐対象となる。
ルッツ達はエルクに着いてから次の日、地図と討伐対象の資料を見比べながら、作戦を練った。そしてその二日後、ようやく作戦開始となる。
◇◆◇◆◇◆
作戦当日、ルッツとペトラはエルク郊外の森に立ち入り、今回の標的を探していた。
捜索する事数時間。ようやく、標的となるパソジェニック・ファーンを発見した。
ルッツは目配せとサインを併用し、ペトラに獲物の側面に回る様支持を出す。
全ての準備を終えると、ルッツはM870ショットガンに弾を込め、構えた。そして、パソジェニック・ファーンに向けて撃った。
当然、パソジェニック・ファーンは驚いて逃げる。弾が当たった様子はない。だが、それでいいのだ。ルッツの狙いは、ある場所へ誘導する事なのだから。
パソジェニック・ファーンがルッツの想定した経路から外れようとすると、側面から弾が飛んでくる。これはペトラの仕業だ。
このように、二人の息を合わせ、着実にルッツの思うがままに獲物を誘導する。
誘導作戦は順調に行き、パソジェニック・ファーンを森の奥地を抜けた先にある草原まで誘導する事に成功した。
ここで、ルッツとペトラは装填する弾を切り替える。それを打つと、なんと炎の弾が重工から噴き出した。
これは『ドラゴンブレス弾』といい、文字通りドラゴンのブレス攻撃の様に灼熱の炎を浴びせる弾だ。相手が植物系の魔獣なのだから、これほど有効な武器はない。
その身を焼却されたパソジェニック・ファーンは、せめてもの抵抗に胞子状にした病原菌を飛ばす。しかし、その病原菌は高熱の炎に体勢があるはずもなく、ことごとく焼き尽くされる。
もっとも、この病原菌は植物に対してのみ有効で、動物に対しては全く効き目がない。要するに、無駄なあがきなのだ。
数分もしないうちに、パソジェニック・ファーンは灰になった。
「とりあえず、終わったわね。……ん? どうしたの、ルッツ?」
このまま街へ帰ろうとするペトラだったが、何かを考え込む仕草を見せるルッツを見て怪訝に思った。
「周りは炎の壁、そしてこの広さ……うん、行けるな。ペトラ、この状況を利用して、グーベルクに帰るぞ」
突然の発言に混乱するペトラだったが、ルッツはすぐに説明する。
「今は僕達のせいで周りが火で囲まれている。つまり、監視員は寄って来れない。そしてこれだけ広いスペースがあれば、あの乗り物が使用出来る」
すると、ルッツはアスカに連絡し、ある物を転送してもらった。
それは、アスカのいた世界で『ゼロ戦』と呼ばれていた戦闘機だった。もちろん、ティーガーⅡの時と同じように、かなり魔改造が加えられているため、ゼロ戦なのは外見だけなのだが。
ルッツがゼロ戦に乗り込むと、ペトラもすぐに意識を切り替え、一緒に乗った。
そしてそのままエンジン始動。助走を付けた後、二人を乗せたゼロ戦は大空を舞い、グーベルク王国へと進路を取ったのである。
「そういえば、何でイレク・ヴァドに行かなかったの? あそこに行けば、一瞬でグーベルクまで行けるのに」
そう質問するペトラに、ルッツは答えた。
「言い訳のためだよ。多分、ペトラの実家も僕達がハンプトンにいる事を知っている。それなのに、いつの間にか帰ってきたらおかしいだろ? だから、わざわざ乗り物を用意したんだ」
ルッツの答えに納得したペトラは、普段味わう事のない空の旅を楽しむことにした。
◇◆◇◆◇◆
ルッツ達がハンプトンを脱出した数日後、脱走の情報は女王にも届けられた。この報告を聞いた女王は、かなり焦ったと言う。
だが、続けて出された報告に、さらに危機感を強める事になるのだった。
PV2万を突破しました。いつも応援ありがとうございます。
ところで、これで今あるプロットを全て消化してしまいました。しばらくプロットを練るので、次の更新は1ヶ月後くらいになると思います。
誠に勝手ながら、どうかご理解いただきますようよろしくお願いします。




