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能無しハンター  作者: 四葦二鳥
第1章 未知との遭遇
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第3話 未知との遭遇

「ここは……?」


 気が付くと、ルッツは大きくて白い丸テーブルが置かれた、円形の空間が広がっていた。

 床や壁は、どこか金属質な光沢を持つ白さだ。壁には7か所に扉が設置されており、1か所には大きな黒いパネルが設置してある。


(なんだか、この世界の物とは思えないな……)


「あなたは、今、『この世界の物とは思えない』と思いましたね?」


 突然、ルッツの後ろから、ルッツの考えを読み抜いた様な台詞が発された。


「うわっ!?」


 ルッツは振り返ると、驚きの声を出した。そこには、白い箱に、絵に描いた様な顔と手足が付いた様な物体が宙に浮いており、しかもそれが話しかけてくるのだ。


「な、何だ、お前は!?」

「ワタシですか? ワタシ、この試作型異世界航行船『イレク・ヴァド』の管理ロボット、『アスカ』と申します。どうぞよろしく」


 ルッツは、突然の出来事と、自分が知らない用語がジャンジャン出て来たために、一時的に頭が混乱した。

 が、それでは埒が開かないと思い、頭を冷やすと、少しずつ疑問点を片付ける事にした。


「まあ、色々聞きたい事があるんだが……まず、『ろぼっと』ってなんだ?」

「ロボットと申しますのは、機械の身体を持ち、人工頭脳、専門用語で『AI』をもって自立思考し、行動する物の事です」

「一部の錬金術師が作成を試みている『ホムンクルス』とは違うのか?」


 機械の身体や人工頭脳と聞いて、ルッツが始めに連想したのは、人造生命体であるホムンクルスだった。

 なお、ルッツの父はグーベルク王国にその名を轟かす名ハンターだったため、金や権力は、それなりにある。そのため、この世界の人間としては、比較的自由に本を手に入れられる立場にある。

 そういう状況にあったため、多少は錬金術や哲学などの本を読んでいた。その影響で、ルッツはホムンクルスの事を知っていたのだ。


「ホムンクルスは、人造とはいえあくまで生物です。生物としての身体を持っています。ですが、ワタシは100%機械です。その部分が違っていますね」


 ルッツは、このアスカというのはホムンクルスとは違う存在なのだと理解した。

 そして、次の質問をした。


「まあ、何とか納得はできた。次の質問だが、『いせかいこうこうせん』とは何だ?」

「ルッツさんは、『パラレルワールド』という概念をご存知ですか?」


 パラレルワールドについては、ある哲学者がその概念を本に著していた。その本をルッツは読んでいたので、概要は知っていた。


「あれだろ。この世界は選択の連続という大原則があるとすると、違った選択をした世界、みたいなやつか?」

「まあ、そんな感じです。で、この船はその名の通り、そのパラレルワールド、つまり異世界を自由に行き来できる船なんですよ」


 もっとも、試作品ですけどね、とアスカは付け加えた。


「なるほど。で、最後の質問だ。お前、何で僕の名前を知っていた?」

「あ~、それはですねぇ、ワタシがここに来てからの話になってしまって、少々長くなってしまうのですがよろしいですか?」


 ルッツが首肯すると、アスカは語り始めた。


「実はワタクシ、元の世界に帰れなくなってしまったのです」

「帰れない、だと?」

「はい。400年ほど前、こちらの世界にたどり着いた時、異世界間を航行する装置が修理できないほどに故障してしまいまして」


 ルッツはこの話に、思い当たる節があった。


「まさか、落ちた天使伝説!」

「ああ、そうでした。この世界の皆様には、そういう伝説として残っていますね。確かに、装置が故障した後、この船を地下深くに埋めました。ですから、今我々がいる場所は、ホルツ村の地下なのです」

「へえ、村の地下にこんな物があったんだな」


 ルッツは感心したように言った。


「それでですね、ワタシは別に元の世界に帰れない事はどうでもいいんですよ。元々、この計画は成功率2割以下と言われていましたし」

「そんなに低かったのか?」

「はい。ワタシのいた世界は、比較的科学が発達した世界だったのですが、それでも成功率が低い計画だったのです。ただ、データの蓄積によって成功率が劇的に改善すると予測されていました。ですから、このイレク・ヴァドの様な試験機を次々に建造し、異世界へと送り出して行ったのです」


 当然、成功率が低いですから、人ではなくロボットを乗せましたけどね、とアスカは付け加えた。


「ふうん、お前がこの世界に来た理由はわかった。だが、なぜ僕の名前を知っていたかの説明はされていないぞ?」

「それは、これからいたします。この村の地下に潜り込む事に成功したワタクシですが、どうしても長期間、限られた空間にいると、飽きてきてしまうんですよねぇ」

「機械なのにか?」


 ルッツの疑問は、至極真っ当だった。


「ワタシは少々金をかけて作られておりまして、多少の感情を持ち合わせているのですよ。そんじょそこらの安物ロボットと同じにしないでください」


 アスカは憤慨したが、どうも本気で怒っている様には感じられない。マンガ的な顔と相まって、コメディ色が強く出ている気がする。


「とにかく、飽きてしまったワタシは、データ採集用に搭載されていた、イレク・ヴァドの基地建設機能を使い、どんどん広げていったわけです。今では、この世界の全ての土地に、網の目の様に張り巡らせておりますし、この空間と同じ物を各村や街の地下に設置してあります。加えて、森や海の地下には、植物の栽培や動物の飼育を行う施設も設置しています」


 ここまで言われて、ルッツは頭にピンと来た。


「わかったぞ! 世界中の地下にお前の施設を設置したという事は、情報もある程度は集まるわけだ」

「ある程度、と言いますか、一国のスパイ組織並みには集められると思いますよ? まあ、この情報収集機能を使って、あなたの事を知ったわけですが」


 今話す事は全て話したので、アスカは本題に入る事にした。


「とりあえず、ルッツさんの疑問が一通り解消されたようですので、そろそろ本題に入らせていただきます。

 ルッツさん、ぜひ、このイレク・ヴァドのマスターになっていただきたい」

「へ?」


 ルッツはあまりの急展開に、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「ですから、そのままの意味です。このイレク・ヴァドの全権限をあなたに差し上げると言ったのです。という事は、ワタシの上司、という事にもなりますね。新上司イエーイ! バンザーイ!」


 アスカが調子よく騒ぎ始めると、ルッツは疑問や否定の言葉を繰り返した。


「いやいやいや、何で僕が!? だって、僕、異能もないし、『能無し』ってバカにされて……」

「でも、努力はしていたでしょう?」


 さっきとは打って変わって、真面目な口調になるアスカ。


「努力しても、父の様なハンターになる事は叶わず、バカにされ、挙句の果てに父はなくなってしまった。正に、悲劇です。努力が報われていないです。悲しいです。

 ですが、ワタシは、努力は報われるべきだと考えています。だからこそ、人一倍努力したのにも関わらず、報われることのなかったあなたに、何かしてあげたいと思ったのです。それに――」

 父の仇を、討ちたいでしょう? と、トドメの様に言うアスカ。

 そしてとうとう、ルッツの心が動いた。


「わかった。この船のマスターになろう。だが、本当に父の仇を討てる方法があるのか?」

「ありますとも、ルッツさ……いえ、マスター。実は、暇つぶしの一環として、ワタシの世界にある道具や武器を製作していましてね」


 まあ、割と昔の物なんですがね、と言うアスカ。


「それでも、シミュレーションの結果、戦い方次第で魔獣に十分対抗できる事が判明しました。後は、マスターがワタシの世界の武器の使い方と、効果的な戦術を学んでいただければ、すぐにでも実践に出れますよ」

「わかった。だが、お母さんが心配するからな。夕方までしかやらないからな?」

「了解です、マスター。とりあえず、訓練のプランとしては、一週間コース、1カ月コース、半年コースがあります。期間が短いほど厳しく、期間が長いほど優しい訓練になります。どれになさいます?」

「一週間だ」

 ルッツは即答した。父の仇を討ちたいのもあるが、あのシュトゥルム・ウルフの群れを長期間放置しておくと、村や村人にどんな被害が出るかわからないからだ。


「わかりました。では、明日の朝から訓練を始めましょう。それと、これを」


 アスカは、天使の羽のロゴが入った指輪を渡した。


「その指輪さえあれば、いつでもイレク・ヴァドに転移する事ができます。軽く念じるだけでいいですよ?」

「わかった。ありがとう。では、また明日な」


 そうして、ルッツは地上へと転移した。


 その後、家に帰ったが、母と副隊長にこってり絞られたという。


◇◆◇◆◇◆◇


 翌日、ルッツはアスカと共に、イレク・ヴァドの訓練施設にいた。訓練施設は、昨日ルッツがいた円形の空間を地下1階とするならば、地下2階に相当する場所にある。

 この場所へは、転移を使って移動する。


「さて、準備ができた様ですねそれでは……」


 一拍間を置くと、アスカの態度が豹変した。


「いいか、クソ虫ども! お前らは、価値のない最低のクズ野郎だ! だが、この訓練を生き残れば、最強の殺人マシーンへと変貌するだろう!!」

「えーっと……アスカ?」


 あまりの豹変ぶりに、当惑した様子で声をかけるルッツだったが、


「お前が口にしていいのは、イエス、サーのみだ! わかったか、タマナシ野郎!!」

「い、イエス、サー……」

「よろしい! それと、今後、もっとハッキリと大きく声を出せ! わかったな、ウジ虫野郎! では、教本通りに準備を進めろ! 3分以内だ!!」


 その後、ルッツは、ある戦争映画の某軍曹の様なキャラになってしまったアスカに徹底的にしごかれた。

 その結果、訓練カリキュラムを終える頃には、半ば洗脳された状態になっていた。もっとも、訓練終了後は、元のルッツに戻ったが。


◇◆◇◆◇◆◇


 訓練が全て終了した翌日、イレク・ヴァドに重大な情報がもたらされていた。


「マスター、これを見てください」


 すると、地下1階にある黒いパネルが光、村の集会場が映し出された。

 実は、この黒いパネルは液晶ディスプレイで、地上の様子を見る事ができる他、色々機能があるらしい。

 余談だが、アスカの顔も液晶だ。


 村の集会場の様子だが、集まっているのは魔獣ハンター隊の面々だ。どうやら、シュトゥルム・ウルフを再び倒す算段を付けているらしい。

 そして、会議はどんどん進み、明日の夜決行、という事になった。


「どうされますか、マスター?」

「どうしたもこうしたもないだろう。僕も行く。今から準備をするぞ」

「了解、マスター」


 ルッツも、シュトゥルム・ウルフと決着を着ける気でいた。


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