第1話 二つの国の大使
カパルーノ皇国首都、セントロポリ。ラピス地方最大の都市であり、ラピス地方とその周辺国に多大な影響を及ぼす土地でもある。
また、ラピス地方で信仰されている宗教、『ラピス教』の発祥地であるため、神殿が多い。ちなみに、アスカ曰く、『ラピス教は元いた世界の古代ローマ風』らしい。
セントロポリは、火山質の岩や火山灰を使用したコンクリートで作られた建物が多い。そのため、建造物のほとんどが頑丈で、数千年も姿を保ち続けている物も珍しくない。
そんな都市に、ルッツとペトラはやって来た。
人目の着かない所でバイクをイレク・ヴァドへ転送すると、昼ご飯を食べにレストランを探した。
レストランに入ると、この国の名物の一つであるヒメジという魚を使った料理を注文した。しばらくして料理が運ばれて来て、料理に舌鼓を打つ事ができたのだが、ここである出来事が起こった。
「すみません、相席よろしいですか?」
一人の男が、相席を申し入れてきた。30代程度の男だった。
だが、ルッツ達は怪しんだ。なぜなら、席は他にも空いているからだ。わざわざ相席をする理由なんてない。
しかし、大した理由もなく断る事はできなかったため、ルッツ達は警戒しながら首を縦に振った。
「ところで、そちらのお嬢さんは、グーベルク王国第2王女、ペトラ・シュパーマー殿下では?」
やはり、こいつはペトラの身分を知ってて近付いたのだった。
ペトラは警戒をさらに高めつつ、うなずいた。
「そうです。失礼ですが、あなたは?」
「失礼しました。こういう場合、自分から名乗り出るのがマナーでしたね。では、自己紹介を。私はレオンス・ラフォン。ルレアラス王国の駐カパルーノ皇国大使です。あ、これ、私の直筆名刺です。どうぞ」
と言って、レオンスはルッツとペトラに一枚ずつ、直筆の名刺を渡した。この名刺には、ルレアラス国王が各国に派遣される大使に下賜する、ルレアラス王家の紋章が描かれた印鑑が押されていた。この印鑑は厳重に管理されている物のため、レオンスはほぼ間違いなく、ルレアラス王国の大使なのだろう。
しかし、レオンスの身元がわかったからと言って、安心はできない。コスタ・アクアティコを出発する前、そこの領主であるマッティア・マセッティから、セントロポリではルレアラス王国の大使とハンプトン連合王国のアピール合戦が繰り広げられていると聞いている。
つまり、ここで下手な返事をすると、最悪な形で二国の争いに巻き込まれてしまうのだ。
ペトラはルッツと視線を交わした後、慎重に口を開いた。
「それで、ルレアラス王国の大使が、あたしにどのような御用件でしょうか?」
「本来ならば、雑談を楽しみつつ殿下と進行を深めた後、本題に入りたかったのですが、何分、こちらには時間がありません。ですので、単刀直入に申し上げさせていただきます。どうか、ルレアラス王国にグーベルク王国の徐力をいただけるよう、国王陛下にお口添えを願えませんか?」
グーベルク王国は、隣国であるルレアラス王国と仲が悪い訳ではない。だが、ハンプトン連合王国との関係性は知っているため、近すぎず遠すぎずの態度を取っている。
だが、ハンプトン連合王国よりも一歩先んじたいルレアラス王国は、さらにグーベルク王国と親密になり、経済と民間レベルに留まっている仲から、軍事レベルまで協定を結べる仲に発展したいのだ。
ペトラは、幼い時からそのような思惑を小耳にはさんでいるため、そして国家間のいざこざに巻き込まれたくないため、できるだけ相手を刺激しない言い回しで拒否した。
「残念ですが、あたしは王女とはいえ第3子。あまり発言力はありません。それに、父は仕事には厳しいお方でして、子供の進言に対し、素直に耳を傾けるとは思えません。あなたのお力にはなれそうにありません」
「そうですか。では、また日を改めて出直します。お食事中、大変失礼しました」
そう言って、レオンスはレストランから退出した。台詞の内容から、ペトラがルレアラスとハンプトンの争いに巻き込まれたくない心情が強いと察している様ではあったが。
「――どうやら、この街をさっさと出た方がよさそうだな」
「そうね。クエストを一つくらいこなしてから、さっさと出ましょう」
ルッツとペトラは、そう固く決めた。
◇◆◇◆◇◆
イレク・ヴァドで着替えと休憩を取った後、ルッツ達は夕食を取るため、再び街に繰り出した。
お目当ては、カタツムリ料理。ルレアラス王国にもあるようだが、カパルーノ皇国のカタツムリは、ルレアラスとは別のおいしさがあるらしい。
そういうわけで、昼間とは別のレストランで食事を取っていたのだが、またしても相席者が現れた。やはり、30代頃の男だった。
「失礼ですが、グーベルク王国のルッツ・ヴィルダー子爵では?」
「そうですが、あなたは?」
もう慣れたと言わんばかりに、ルッツがテンプレート的な受け答えをした。
「申し遅れました。私、ハンプトン連合王国の駐カパルーノ王国大使をしております、ヴィンス・マッカローと申します。直筆の名刺をどうぞ」
レオンスの時と同じく、ハンプトン連合王国国王から下賜された印鑑が押された直筆名刺を、ルッツとペトラに渡すヴィンス。
「今回お声掛けしたのは、子爵がお持ちになっている武器に関してのお話です。実は、国王と軍の人間が、子爵のお持ちになっている武器のお話を聞いて興味をお持ちになっていまして、よければ売ってはいただけないかと……。もちろん、言い値で結構です。その点に関しては、国王から正式に許可が下りていますので、信頼いただけます」
すると、ルッツはため息を吐き、うんざりした様な口調で言った。
「私が今日、この街に着いた事をお知りになった時点で、すでにご存じかと思いますが、僕の持つ武器は、実際に配備する場合、技術的・財政的にかなり欠陥を抱えています。ですから、あなたのお国のためにも、お買いになるのは考え直すべきかと思いますが」
「少なくとも、技術面に関してはご心配なく。私共の国は、科学と工業が発展していますから。財政面に関しましても、すぐに技術者たちがコストダウンに成功してくれるでしょう」
確かに、ハンプトン連合王国は、科学・工業共にラピス地方一の技術を持っている。ヴィンスの言う事も、あながち夢物語ではないのだろう。
しかし、ルッツは強大な力を秘めている武器を、国の争いに巻き込ませるような事はしたくなかった。
「残念ですが、明確な証拠もないのに、はいそうですかと鵜呑みにする訳には行きません。本当に配備できる程の技術があるのならば、それなりに納得できる証拠と計画表を持ってきてください」
「これは手厳しい。わかりました。すぐに本国に連絡を取り、早いうちに資料を取り寄せましょう。では、お食事中に失礼いたしました」
そう言うと、ヴィンスはレストランを去って行った。
しかし、この時代で一番早く連絡がつく方法と言えば、伝書鳩ぐらいしかない。それを使って本国と連絡を取ろうとしたら、半月以上はかかってしまうだろう。
その頃にはもう、ルッツ達はこの街にはいない。そう考えているルッツは、これでもう自分達にちょっかいをかけてくる奴は出て来なくなるだろうと予測していた。




