第2話 不穏な晩餐会
ルッツとペトラは、人気のない所に隠れると、そのまま転移、地下にあるイレク・ヴァドに移動した。そこでバイクを始め荷物を置くと、そのまま集合場所である広場へ向かった。
広場では、マセッティ家の物と思われる馬車が待機していた。御者に案内され、馬車に乗り込む二人。
しばらく馬車に揺られていると、ある水路の前でストップした。どうやら、ここから舟に乗り換えるらしい。
水路を舟で進むと、ある屋敷の前に止まった。どうやら、ここがマセッティ家の屋敷らしい。しかもこの屋敷、正面玄関が水路に面している。どうやら、水路から舟で屋敷の中に入るスタイルらしい。
ルッツとペトラは、舟から降り、屋敷の中に入った。
「ようこそ、いらっしゃいました。ペトラ・シュパーマー王妃殿下に、ルッツ・ヴィルダー子爵。私はマセッティ家の当主、マッティア・マセッティと申します」
どうやら、この黒髪を短髪にした、ちょっと品のよさそうな中年のおじさんが、マセッティ家の当主らしい。
外見からは想像がつかないが、今でも全く衰退の気配を見せる事が無い、マセッティ家の経営する商社の社長をしている。いろんな意味で手練れである事は間違いないだろう。
「アンドレーアとヴェナンツィオにはもう会いましたかな? この二人は、まあご存知だとして、こちらはご存じないでしょう。私の三男、リヴィオです」
マッティアは、アンドレーアとヴェナンツィオを知っているからと紹介をすっ飛ばし、三男のリヴィオを紹介した。
リヴィオは、父親の様な髪型をしている、他の姉妹と比べると若干小柄な少年だ。年齢も、ルッツやペトラとあまり変わらないようだ。
「では、立ち話もなんですから、食堂の方に。すでに準備を終えておりますので」
一行は、マセッティ邸の食堂へと移動した。
◇◆◇◆◇◆
結論から言って、晩餐会の食事内容は、文句なかった。ルッツとペトラとしては、カパルーノ皇国の伝統料理であるパスタ料理を食べられて満足だった。
しかし、そのおいしい食事を吹っ飛ばすような出来事が起こっていた。
「でね、その時ボクは、その女の子に花束を贈ったんですよ。そしたら女の子が――」
「へぇ~、それはすごいですね」
ヴェナンツィオは、自分がいかにモテるかを力説し、ペトラに言い寄っていた。事実、ヴェナンツィオはプレイボーイには違いないのだが、このような男は、女性から向けられる好みがはっきりしやすい。
ペトラは、ヴェナンツィオの様なタイプの男に嫌悪感を抱くタイプだった。あえて言うなら、自分の事を無駄に誇張したりせず、どのような状況でも常に頭を働けせる、ルッツの様なタイプの人間が好みだ。もっとも、ペトラはまだルッツに恋心を抱く段階にいるわけではないが。
そう言った理由で、ペトラはヴェナンツィオにうんざりしていた。
一方、ルッツはと言うと――。
「ですから、あなたの持つ武器を調査していただければ、莫大な利益が――」
「何度も言ってるじゃないですか。私の武器は量産化できるような技術で作られているわけではないですし、仮に量産化できたとしても維持費がかかりすぎて、どの国家も破産してしまうと――」
アンドレーアに、武器の提供を迫られていた。ルッツの持つ銃器を量産し、各国に売り飛ばすつもりなのだ。
しかしルッツは、以前グーベルク国王に行った事と同じ様な事を言って断り続けているが、アンドレーアに退く気はない。
ルッツとペトラは、ほぼ同時にマセッティの方向を見た。しかし、マセッティが動く様子はない。どうやら、高みの見物を決め込むつもりのようだ。
だが、そんな二人に、思わぬところから助け舟が出された。
「ペトラ殿下達は、魔獣ハンターなんですよね? よかったら、その事についてお話していただけませんか?」
リヴィオが、ルッツ達に体験談を話してほしいと頼んだのだ。
これ幸いとばかりに、ルッツ達は乗った。
「そうだなぁ……何から話そうか?」
「ほら、あれがいいんじゃない? ウーレ・ベアと戦った時の事」
そして、ルッツとペトラは、今まで退屈していたのがウソの様に明るい表情で語りまくった。
リヴィオは政治・経済よりも、こういう冒険の方が好きなタイプだった。だから、次期当主の座を争う事に興味はなかったので、下心なしに談話ができたのだ。
「そうだ、お二人にお願いがあります。お二人は、この街でクエストを受けるのでしょう? でしたら、オレを同行させていただけないかなぁ~と」
会話の最中、リヴィオはクエストの見学に行きたいと言い出した。もちろん、クエストは基本的に危険な物が多いので、訓練を対して受けていない人間を連れて行くのは憚られる。だが、リヴィオのキラキラした目には敵う事ができず、ルッツとペトラはある妥協案を打ち出した。
「それじゃあ、明日の朝、ギルドに来い。そこで出されているクエスト内容を吟味した上で、連れて行くかどうかを決める」
「でも、勘違いしないで。連れて行くことが決まっても、決して安全じゃないから。あたしたちの指示には従って。あと、命の危険を感じたら、迷わず逃げて」
「はい、わかりました!」
リヴィオは小躍りしそうな勢いで喜んだ。
それを見ていたアンドレーアとヴェナンツィオは、羨ましさと憎しみが入り混じった様な目で見つめていた。
マセッティは、相変わらず表所一つ買えず、ただ見守っていた。おそらく、リヴィオがクエストに付いて行くことに意義はないのだろう。
こうして、最終的にルッツ達にとっては楽しい物となった晩餐会は終了した。
その後、マセッティに泊まっていくかと尋ねられたが、ご迷惑はかけられないと辞退した。これ以上後継者争いに巻き込まれたくはなかったし、イレク・ヴァドの宿泊施設はこの世界にとってオーバーテクノロジーをふんだんに使っているため、どんな高級ホテルよりも快適だからだ。
そして、ルッツとペトラはマセッティ邸を後にすると、またしても人気のない所に行き、イレク・ヴァドへと戻って行った。
◇◆◇◆◇◆
ルッツ達が去った後、マセッティ邸のアンドレーアの自室では、アンドレーアが今後の策を練っていた。
今回、ルッツから銃器を提供させるのには失敗した。確かに、最初から一回で成功するとはアンドレーアも思ってはいないが、グーベルク王国にいる情報収集員からの報告によると、ルッツ達は一週間以上、同じ街や村にいた事は無いらしい。
だから、時間が無かった。
こうなったら、強硬手段もやむなしと、アンドレーアは腹をくくるのだった。
一方、ヴェナンツィオも、同じく今後の事について考えていた。
さすがに一国の王女ともなると、口先だけで落とせるはずがない。やはり、男らしさを見せつけてなんぼのもんだ。
幸い、ここは水の都、コスタ・アクアティコ。ギルドに出されるクエストは、大抵、海にいる魔物をターゲットにしたものが多い。
ならば、自分の強さを見せつけるための作戦も立てやすいもの。そうすれば、確実にペトラを虜にできる。
ペトラ本人は、ヴェナンツィオの様なタイプの人間を嫌っているという事にも気が付かず、ヴェナンツィオは一人、静かに笑っていた。




