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能無しハンター  作者: 四葦二鳥
第1章 未知との遭遇
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第2話 父の死

 一週間後、ダニエルは、また村の討伐隊を率いて狩りに出かけた。魔獣の一種『シュトゥルム・ウルフ』が現れたためである。

 シュトゥルム・ウルフは、オオカミ型の魔獣で、ファルト・フォックスと同じく群れを形成する。

 ただし、その強さはファルト・フォックスの比ではなく、統率力も高い。なめてかかると、熟練のハンターでも命を落とす、手強い魔獣である。


「よし、目的地に着いたな。では、探索を開始しろ。絶対に深追いはするな。必ず二人以上で行動しろ」

 目的地に着くなり、ダニエルは注意と共に指示を下した。それと同時に、隊員達は深い森へと慎重に入って行った。


 1時間近く経った頃、森のある場所から、狼煙が上がった。シュトゥルム・ウルフを見つけた合図である。

 続々と、森に散らばっていた隊員達が集まる。


「あそこです」


 最初に発見した隊員が、指差して伝える。そこには、赤い眼をした、普通の狼より二回りも大きい影が3体もいた。


「確かに、シュトゥルム・ウルフで間違いなさそうだ。遠距離系の異能を使える者は、すぐに攻撃してくれ」


 ダニエルの指示で、数人の隊員が前に出た。そして、全員手をかざすと、火やら水やら風やらを、シュトゥルム・ウルフに向けて放った。


 だが、その瞬間。


「ウオオオオォォォォォン!!」


 突如、遠吠えが轟いたかと思うと、ダニエル達の後ろから、10匹ほどのシュトゥルム・ウルフが襲い掛かって来たのだ。


「チッ、待ち伏せか!」


 副隊長が悔しそうにつぶやくと、前方から大量のシュトゥルム・ウルフがやって来た。

 そして、その中には、一際大きな個体がいた。


「な、なんだ、あれ……」


 隊員の1人が、そう漏らした。


 通常、シュトゥルム・ウルフのボスというのは、他の個体と比べて大きい。つまり、この大きい個体がボス、という事になる。

 だが、その大きさが規格外だった。ダニエルですら、見たことが無い大きさだった。

 普通のボスの大きさというのは、せいぜい人間の2倍程度だ。だが、このボスは人間の5倍はある。


 ちなみに、シュトゥルム・ウルフのボスの大きさは、強さと賢さに比例すると考えられている。つまり、信じられない位の大きさであるこのボスは、比較にならないほど強く、そして賢い、という事なのだ。

 さらに、ボスの強さは群れの統率力に、賢さは群れの戦術に影響する。その事から、ボスの大きさは群れの強さを表すとも言える。


 つまり、ダニエル達が出くわしたシュトゥルム・ウルフの群れは、化け物の様に強く、狡猾であるのだ。


 そして現在ダニエル達は、その強くて狡猾なシュトゥルム・ウルフの群れに包囲されてしまっている。


 事態が思わしくない事を察知したダニエルは、土系の異能で土の壁を急いで作り、防御に専念して迎え撃つことにした。


 だが、それが帰ってよくなかった。


 シュトゥルム・ウルフは、易々と土の壁を飛び越え、襲い掛かって来たのだ。


 そのおかげで、魔獣ハンター隊は、続々と負傷者を出す結果となった。だが、今のところ、死者が出ていないのが救いだ。

 というのも、シュトゥルム・ウルフが土の壁を飛び越えなくてはならない以上、絶対に空中に滞在する時間が生まれる。

 そして、鳥でもない限り、空中で方向転換を行うのは難しい。そのため、シュトゥルム・ウルフは関節攻撃を行えるハンターにとって、いい的になっているのだ。

 だからこそ、隊員達は被害を最小限に抑える事ができている。


 だが、この隊にとって最も不幸な出来事が襲い掛かる。


 シュトゥルム・ウルフが、ダニエルを敵の中心人物であると見抜いたのだ。

 そして、ダニエル目がけて、一匹のシュトゥルム・ウルフが襲い掛かる。


「ふん!」


 ダニエルは、自分の得物である大きな斧で攻撃を受け止めた。

 だが、その隙を突き、背後からもう一匹のシュトゥルム・ウルフが襲い掛かり、ダニエルの首根っこに噛みつく。


 その直後、ダニエルは声にならない叫びを上げ、その場に倒れた。


「隊長!」


 副長が、自身の風系の力を使い、襲っているシュトゥルム・ウルフを吹き飛ばしてダニエルから引きはがした。

 引きはがされた2体のシュトゥルム・ウルフは、土の壁に激突したところを、隊員達にメッタ刺しにされた。


「隊長、大丈夫ですか?」

「う、う……」


 ダニエルは、苦しそうに唸り声を上げた。だが、最後の力を振り絞り、地面を拳で叩いた。

 すると、隊員達がいる地面が、先程作った土壁よりも高くなった。しかも、この即席の高地は、村に繋がっている道まで続いている。


「いいか……、すぐに撤退しろ……。そして……きちんと策を練ってから……再選するんだ……」

「わかりました……。総員、退却!」


 副隊長の号令で、隊員達は、ダニエルが作り出した高所の道を走り抜け、村に続く道まで帰る事ができた。


「全員、いるか?」


 副隊長が確認を取る。どうやら、負傷者はいるものの死者はいないようだった。


「隊長、全員生還しています。後は、村に帰るだけ……」


 だが、その時、副隊長は気付いてしまった。ダニエルの様子がおかしい事に。

 あわてて脈や呼吸や瞳孔を調べてみたが、どれも生存反応が無いものばかりだった。


「そんな……。隊長、隊長おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


◇◆◇◆◇◆◇


 村に帰った魔獣ハンター隊がまず行った事は、ダニエルの遺体を自宅に運び込む事だった。全員、暗い顔をしている。中には涙を流している隊員もいる。それだけ、彼が慕われていた証だ。


「ダニエル……ダニエル!!」


 アンニは、夫の亡骸の横で、泣きながら名前を叫んでいる。


「…………」


 ルッツは、悲しさやら悔しさやらが入り乱れて頭の中がごちゃごちゃしてしまい、何も声を発する事ができなかった。


 そして突発的に、家を飛び出してしまった。


「どこ行くの、ルッツ!」

「いかん、すぐに追いかけろ! 何をするかわからん!」


 母の制止に、ルッツは聞く耳を持たなかった。

 副隊長は、ルッツが無謀にもシュトゥルム・ウルフに勝負を挑むという最悪の事態を想定し、部下に後を負わせた。


◇◆◇◆◇◆◇


 ルッツがやって来たのは、村の小高い場所にある祠あった。

 ホルツ村は、400年ほど前に天使が落ちて来たという伝説が残っている。この祠は、天使が落ちた場所として神聖視され、昔の人々が祠を発てたのだ。


 なぜルッツがここにやって来たかというと、こうするしかなかったからである。

 ルッツには、父の仇であるシュトゥルム・ウルフを倒すための異能を持っていない。そんな彼が、グーベルク王国で伝説的な扱いを受けている父を殺してしまった魔獣に立ち向かったところで、逆に殺されてしまうのは目に見えている。

 だから、神に祈るしかなかった。あるいは、神のお告げを聞きたいのかもしれない。


 そして、ルッツが膝を着き、祠に手を合わせ、祈ろうとしたその時――光が、ルッツを包み込み、彼の姿を跡形もなく消した。


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