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能無しハンター  作者: 四葦二鳥
第2章 能無し姫君
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第7話 緊急事態

 その夜、ユリアーネとの模擬戦に勝利し、無事ギルドへ入会する事ができたルッツは、王宮内の自分にあてがわれた部屋で休んでいた。


「ルッツ、いる?」


 ルッツの部屋んい訪れたのは、ペトラだった。


「ペトラ王女ではないですか。こんな時間にどうなさったのですか?」

「その前に、そんなよそよそしい言い方はやめて。前みたいにフランクな話し方しないと、許さないから」

「……わかったよ、ペトラ」


 ペトラの強い要望に、ルッツは折れた。


「で、僕の部屋に入って来た訳は?」

「ちょっと身の上話がしたかっただけよ。なんで私が、大きな功績を立てたがっているか」

「……聞かせてくれ」


 ルッツに促され、ペトラは少ししづつ話し出した。


「一言で言えば、コンプレックスね。兄様は政治で、姉様はハンターとして才覚を現している。それに比べて、私は特に何もない人間だから。だから、兄様や姉様みたいに私もなりたかったから、勝手にギルドに加盟して、クエストを受けたのよ。そんな時に、私はあんたと出会った。それで直感したわ。あんたに付いて行けば、兄様や姉様に追いつけるかもしれないと思ったから」


 ペトラが言い終わると、ルッツが口を開いた。


「なるほど。お前の気持ち、よくわかった。それに、できる限り僕も協力したい。都合のいいことに、僕もめでたく、ギルドに加盟できてハンターとしての身分を保証されたからな。ただ、それでもペトラが僕と旅をするのは、難しいだろうな」

「どうして……?」

「君のお父さんとお姉さんを説得できるかが問題だ。お兄さんはどうかわからないけどね、あの性格だと。おそらく、説得は困難を極めるだろう。なんとか納得させられるだけの実績を作れればいいんだが……」


 その時、部屋にルッツ担当のメイドが、あわてた様子でやって来た。


「し、失礼します! 王都郊外の森で、マタンゴが発見されたようです!」


◇◆◇◆◇◆


 マタンゴ。それは、動き回るキノコの魔獣。胞子をまき散らし、人間に幻覚を見せたり毒で倒れさせたりする。しかも、そうやって動けなくなった人間から養分を吸い取り、絶命させてしまうのだ。

 マタンゴは、グーベルク王国で極端に目撃事例の多い魔獣だ。その理由は、光を嫌う体質であるため、薄暗い森が生活に適しているためだ。そのため、森が異常に多いグーベルク王国で、よく発見される。


 今回は、街道付近にマタンゴが現れた。放置しておけば、いつ旅人が餌食になるか分かった物ではない。

 ユリアーネは国王の命令に従い、すぐさま近衛兵を集めて討伐隊を編成。特に炎系の能力者を中心に集めた。

 実は、マタンゴは光と炎に弱いと知られている。そのため、このような編成となったのである。


 討伐作戦開始後、形勢はユリアーネの軍勢に傾いていた。ユリアーネの光の弓矢や炎系能力者の攻撃で、マタンゴが追い詰められていったのだ。

 そしてマタンゴは、最後の力を振り絞るように、胞子をばらまいた。しかし討伐隊は、全く気にする様子もなく、火の玉で攻撃を続けていた。


 その瞬間、辺り一帯が爆炎に包まれた。


◇◆◇◆◇◆


「姉様が負傷?」


 ペトラが素っ頓狂な声を上げた。それほど、ペトラにとっては信じられない事だったのだ。


「はい。どうやら、マタンゴが胞子を噴出させた直後、謎の爆発が起こったと……。それにより、ユリアーネ様以下、多くの兵士が重軽傷を負ったそうです。幸い、マタンゴには人間を襲う気力はなく、そのまま逃げて行ったため、死亡者はゼロの様ですが」


 この話を聞いたルッツは、爆発の正体を見破った。


「粉塵爆発だな」

「ふんじんばくはつ?」

「父さんから教えてもらったんだが、小麦粉なんかの燃えやすい粉末状の物質を空中にばらまき、着火すると爆発が起こるらしい。今回はおそらく、マタンゴの胞子に、炎系の能力が火種となって着火、爆発したんだろう」

「それが、爆発の真相……」


 そしてルッツは、この世界の住人が知りえない事を口にした。


「実はな、マタンゴの弱点と言われている光だが、正確には違う。紫外線が弱点だ」

「しがいせん?」

「紫外線というのは――」


 ルッツは、光の本質は波の性質を持つ(正確には波と粒子の両方の性質を持っているが、それを説明するとややこしくなるので、波の性質に限定した)ということから始まり、紫外線について30分近くかけて説明した。


「つまり、紫色の光よりも上下運動が激しい波の光が、マタンゴの正確な弱点なのね?」

「そうだ。だから、紫外線だけを照射すれば、少ない労力で簡単に倒す事ができる。そこで」


 ルッツは懐から、パネル状の物と、それに繋がったディスプレイを取り出した。


「これは、照射された光の波長を測定する機械だ。簡単に光の種類も分類できる。今からペトラには、紫外線を照射する訓練を行う」

「え? それって……」


 ペトラがきょとんとしていたので、ルッツはさらに説明を加えた。


「今から紫外線照射を習得して、マタンゴを倒す。そして、ペトラに才能がある事を証明するんだ」

「……わかった。やってみる」


 父や姉に認めてもらい、旅をしたかったペトラは、張り切って訓練に挑んだ。

 やり方は、とにかく紫外線を出すイメージを構築しながら、光を話す事。ペトラは、激しく動く波をイメージしながら、何度も光を出した。


 3時間後。ディスプレイには、紫外線を検知したという表示が出ていた。


「……できた」

「すごいぞ、ペトラ。一週間くらいかかると思っていたが、わずか3時間で習得するとは。やっぱり君は、才能あるよ」


 才能があると言われたペトラは、うれしくて小躍りしそうになった。

 その後、2時間くらい同じ練習を繰り返し、ペトラは安定して紫外線を出すことができるようになった。


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