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能無しハンター  作者: 四葦二鳥
第2章 能無し姫君
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第5話 ペトラの正体

 数日後、いくつかの街や村を経由し、王都・シュパーマリッヒがいよいよま間近に見えるところまで来た。

 だが、そこに水を差す物が現れた。


「そこの珍妙な乗り物、止まれ!!」


 『珍妙な乗り物』とは、明らかにルッツの乗るバイクの事を指しているのだろう。

 その声は、前方から近付く、紫の鎧を着た騎馬集団からだった。


「あ……あれは……」

「知っているのか、ペトラ?」


 ペトラは、おびえた様子で話した。


「あの紫色の鎧、間違いない。あれは、グーベルク王家の近衛隊の物……」


 グーベルク王国の近衛隊は、王家の護衛のみならず、屈強なハンター集団としても知られている。もちろん、普通の軍よりも権威は上だ。

 ペトラが近衛隊におびえるという事は、つまり。


「ペトラ……何かやったのか?」

「違法な事はやってないわよ! ただ……それ以外で心当たりなら……」


 ペトラが言いよどんだその時、近衛隊の面々がルッツの前に到着した。そして、隊長核と思しき、金髪を後ろで束ねた女性が現れた。その顔立ちや姿は、ペトラをもう少し成長させて、キリッとした表情にした様な外見だった。


「ご協力に感謝する。私は、グーベルク王国国王、ルードルフ・シュパーマーの次子であり、グーベルク王国王家の第1王女、そしてグーベルク王国王家近衛隊の隊長を務めている、ユリアーネ・シュパーマーである」


 なんとこの女性、近衛隊隊長どころか、この国の王女様だったのである。

 そして、ユリアーネは、バイクの後部座席にいるペトラを一瞥すると、


「さて、気は済んだか、ペトラ? 早く王宮に帰るぞ」

「ね、姉様……」


 そのやり取りを聞いたルッツは、思わず口を挟んだ。


「姉様? それってどういう事だ? お前の名字は『ブレンケ』のはずだろ?」

「『ブレンケ』は私達の母の旧姓だ。大方、正体がバレたくなかったから、偽名を使ったのだろう」


 ペトラが答えるより早く、ユリアーネが答えてしまった。


「そうですか。ところで、ユリアーネ王女殿下に質問があります。あなたの登場のタイミング、やけに手際がいいように感じました。そして先程のあなたの『気は済んだか』というセリフ、ペトラ……王女殿下が何をしてらしたのか知っているかの様な口ぶりでしたが? いくらこの乗り物が珍しいからと言って、少々不自然な気がするのですが」

「簡単な事だ。我が愚妹が、自らの能力を考慮もせず、勝手に王宮を飛び出して、ハンター修行をした。結局、父上はしばらく好きにさせるとおっしゃったが、愚妹は一応一国の王女。万が一という場合もあるので、密かに護衛を付けた。貴公らの行動がわかったのは、その護衛からの伝書鳩によるものだ。もっとも、その乗り物があまりにも早かったせいで、途中から追いつけなくなったらしいが、王都に着く予想時刻が記載されていたから、こうしてタイミングよく迎えに来られたという訳だ。理解できたかな? グーベルク王国伝説の魔獣ハンター、ダニエル・ヴィルダーの御息子殿?」


 なんと、ペトラは密かに、後を付けられていたのだ。それが監視ではなく護衛と言うだけマシな方だが。ついでに、ルッツの素性がバレているのは、ルッツとペトラの会話を盗み聞きしたからだろう。

 ちなみに、ペトラがファルト・フォックスの群れに囲まれた時、護衛が救出に向かおうとしたが、それよりも早くルッツが乱入したため、出番が無くなってしまったとの事。


「そういう事だ、ペトラ。兄上は、もう少し様子を見てもいいと言っていたが、何の因果か、付いて行こうと思った人間の行き先が、王都だったとはな。王都の近くに来る以上、近衛隊の立場としては、これ以上好き勝手に王宮を離れてもらったは困る。だから帰るぞ」


 ユリアーネがそう言い終わると、バイクの背後にいた、屈強そうな男の近衛兵がペトラをヒョイと持ち上げ、ユリアーネの馬に乗せてしまった。

 それを見たルッツは、ため息を吐き、


「あなたと一緒に研鑽を詰みたかったが、予定より早く終わってしまいましたね、ペトラ王女殿下。では、またご縁があったら、食事でもしながらお話ししましょう」


 相手が国家権力である以上、自分がいくらゴネても意味が無い事を悟ったルッツは、別れの言葉を言い、一人で王都に行こうとした。

 しかし、ユリアーネに止められた。


「まあ待て。実は、父上が貴公に会いたいとおっしゃられている。一緒に付いて来てくれないか」


 これはつまり、王宮に滞在できる可能性が高い。よく考えてみれば、ペトラの意見をハッキリと聞いてはいなかったので、話し合いができるチャンスだと思い、承諾する事にした。


「わかりました。謁見の件、承諾いたします」

「よろしい。では、私の後に付いて来てくれ」


 こうして、王宮に向かい、国王と謁見する事となった。


◇◆◇◆◇◆


 王都シュパーマリッヒ。グーベルク王家のファミリーネームを関するこの街は、名実共に、グーベルク王国最大の街である。

 その理由は、立地条件にある。王宮があるだけではなく、街が王国最大の湖・オーゼ湖の湖畔にある。オーゼ湖は、西の隣国・ルレアラス王国から流れるエラウ河の終着点であり、北のシュワルツ湾に流れるシュワルツ河と、南の隣国・カパルーノ皇国に流れるウァルマ河の出発点でもある。つまり、交通の便がいいため、人も物も集まりやすいのだ。


 建物は、グーベルク王国の特徴的な建築である、木組み模様の建築物。それがズラッと並んでいる。

 そして、街の最奥に、総石造りで他の建築物とはちょっと違う建物が目に入る。それが、王宮だ。

 交通の便がいいという事は、戦争になれば真っ先に狙われやすいという事。そのため、王宮は砦としての役目も負っているのである。もっとも、砦として使われた事は、一度として無いが。


 その王宮の中ほどのフロアに、玉座が置かれた謁見室がある。

 その玉座には、白い口髭を生やした、白髪の男性が座っていた。少々年老いて入るが、たくましさを感じる体つきをしている。

 その人物こそ、グーベルク王国の国王、ルードルフ・シュパーマーである。


 ちなみに、玉座の後ろには、柔和な笑みを浮かべている、美男子と言ってもいい容貌をしている青年が控えている。彼は、ルードルフの第一子でありユリアーネとペトラの兄、そして次期国王となるエトヴィン・シュパーマー王子である。

 彼は、表情も身体も動かす気配はない。どうやら、オブザーバーに徹するつもりの様である。


「よく参られた、高名な魔獣ハンター、ダニエル・ヴィルダーの息子、ルッツ・ヴィルダーよ。私は、グーベルク王国の国王、ルードルフ・シュパーマーである」

「私の様な者に謁見する機会をお与えいただき、後衛でございます、国王陛下」


 互いに儀礼的な向上を述べ合った後、ルードルフが要件を伝えた。


「さて、私がお主と話したかったのは、ダニエル・ヴィルダーの息子がどのような人物であるか興味があったというのも理由の一つだが、大きな理由は、お主の持つ道具の数々だ」

「僕が乗って来た乗り物の事でしょうか?」

「それもあるが、私が一番気になったのは、報告にあった、魔獣と戦える、筒状の武器の事だ。願わくは、それらの武器を提供し、軍の装備として開発したいと思うのだが」


 国王は、銃という力を手に入れて、軍備の増強を図りたいらしい。一見軍国主義者の様な考え方に映るが、実際はそうではない。

 剣や槍、弓など、身体の延長線上に位置する武器しかないこの世界では、絶大な威力を持つ武器は物珍しい。しかも、異能も持たずに全人類の悩みの種である魔獣と対等以上に戦えるのならば、どこの国の為政者でも欲しいに決まっている。

 だが、ルッツはそれを拒否した。


「銃の事ですか。それは、現実的に無理でしょう。理由は二つあります」

「ほう、申してみよ」

「まず、技術的な面です。銃の中身は、それなりに精密な構造をしています。それにも関わらず、戦場という過酷な環境に耐えなければなりません。この精密さと頑丈さという、相反する性能を同時に成立させなくてはなりません。さらに、構造自体、現在のありとあらゆる技術の概念にも当てはまらない物です。それらを理解させるのに、途方もない時間がかかるのはおわかりでしょう?」

「確かにな。して、もう一つの理由は?」


 ルードルフは頷き、先を促した。


「二つ目は、経済的な問題です。仮に生産ができる様になったとして、最新技術の武器製造は既存の武器を生産するよりはるかに高い金が必要なのは当然です。さらに、この武器は弓と同じで、弾があります。消耗品です。これを調達・製造するのにも、またお金がかかります。やはり最新技術ですので、矢よりも費用がかかります。さらに、剣と同じように、メンテナンスをするための器具や部品も必要ですし、メンテナンス法を兵士に教育する時間と金も必要です。これらの事を考えると、銃を軍の装備に採用すると、どんなに裕福な国家でも、一年と待たずに財政破綻してしまうでしょう」


 本当は、銃が戦争の道具にされる事を忌避して拒否したのだが、そんな事を言っても為政者に通じない可能性の方が高いと判断したルッツは、技術面・財政面から予想し得る状況を説明し、納得してもらう事にした。

 そのもくろみは、功を奏した。


「なるほどな。確かに、いくら性能のいい武器を手に入れたとして、財政が破綻してしまえば、元の木阿弥か。だが、最後にもう一つだけ質問をする。それらの武器を、どうやって手に入れた?」

「スポンサーです」


 そうして、謁見はそのまま終了した。気が付くと、いつの間にかエトヴィンがいなかった。


◇◆◇◆◇◆


 ルッツのバイクは、王宮の馬小屋に停めてある。

 その周りには、密かに謁見の間から抜け出したエトヴィン率いる、王宮が抱える技術者集団がいた。


「どうだい、何かわかったか?」


 エトヴィンの質問に、技術者が答えた。


「どうやら、釘や鋲ではない止め方をしているようですね。そのせいで、思うように解体できませんね」


 この調査は、ルッツに無断で行っている。そのため、派手に壊す訳にはいかない。


「慎重にやってくれ。もし傷でも付いたら、国の有力な力となるであろう人物に愛想を尽かされるかもしれん」


 と、その時だった。


「え? な、なんだこれ、うわああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 突如、バイクに紫電が走り、バイクに触れていた技術者が感電してしまった。バイクに搭載されていたセキュリティーが発動したのだ。


「なるほど、簡単に調べさせてはくれない、か……」


 そう呟くと、エトヴィンは応急処置に当たらせた。


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