第二話 草の香りと血の臭い
受験、終わりマシタ~
鬱蒼と草木が繁った、山とも森とも取れる場所に、緑の中では目立つ白を基調とした服を着た少女がいた。使い古された感がある、大きなリュックサックを背負っていた。
「うはー生えてる生えてるっ。大豊作っ」
リューアは服のすそが土で汚れるのもかまわず、しゃがみこんで薬草をぷちぷちと摘んでいく。珍しい薬草が群生している様子に、リューアの頬は緩みっぱなしである。うはーと周囲に花をまき散らしながらも、採りすぎることなくきっちりと採集していっていた。
ここは南の国コーストと南東の国リファラの国境となっている山の奥、少しリファラ国を出たぐらいか。
なぜリューアがこんなところにいるのかと言うと、さっきから分かるように薬草の採集のためだ。リューアはネイビーに頼まれ、月に1、2回、国境を越えて薬草を摘みにいく。山を境に気候が変わるからか、リファラ国ではなかなか見つからない貴重な薬草が、南に行くと案外簡単に手に入ったりする。
「おおっ。こんなにいっぱいアシギ草とビース草があるー」
アシギ草とビース草、ともに毒消しや消毒に使われる薬草だ。よく使われるためか店での品切れが多く、頻繁に採りに行かなくてはいけないものらだった。
「うし、ちょっと暗くなってきたかな…?」
立ち上がって背中をそらす。こきこきこきと小気味良い音が背骨から聞こえた事に満足してから、服のすそに付いた土を、軽く手で払い落とした。
一段落付いたリューアが、太陽を探すとそれは大分傾いていて、少し驚く。幸い水も食料も持ってきたため、ここで一夜を過ごしてもいい。野宿は慣れているリューアは、いつもなら躊躇いなくそうするのだが、採集を切り上げ山の山頂へと向かうことにした。
「あ。…また、血の臭い」
なぜだろうか、時折臭うのだ。
前に来たときはもちろんそんな事はなく、山特有の草や土の匂いしかしなかったはず。盗賊も魔物も出没したとは聞いていない。獣の血としては、いささか生臭すぎた。
だからこそ、リューアは戻る事を選んだ。一刻も早く、この場を離れたい。本能的に危険を感じる、錆びた鉄にも似た血の臭い。それは山の匂いとは明らかに一線をかす異質なもので、自然とリューアの歩調は速くなった。
そしてその足がびたりと止まる。
「え」
息が詰まるほど濃い血の匂いが漂ったかと思えば、草木の開けたリューアの目前に――――約10m先に。
「生きて、る……?」
腹部、人体のちょうど真ん中辺りを、赤黒く染めた人間らしきものが横たわっていた。
たぶん、もう死んでいる。
うつ伏せのまま微動だにせず、流れた血が周りの大地に染み渡り、大きな血溜まりを作っていた。
見覚えのある赤黒い色彩に、リューアは引き寄せられるように、足を一歩ふらりと前に出す。
「あ」
前に出した瞬間、辺りの空気がぐわ、と軋む。本能が警告を発したと同時に、視界の隅から銀色が迫る。リューアは咄嗟に、右腕で庇う。
「おひゃあっ!」
「っ!?」
がきぃんとリューアを叩き斬ろうとしていた大剣は義手に阻まれ弾かれる。
『誰か』が、緊張を発し、息を呑んだ。
長らく放置状態で、読んでくださった方には迷惑をおかけしました。これからは定期的に更新していきたいです。