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第一話 何気ない始まり

 ある日の早朝。

 

 「ふう、今日も天気良好。なんていう採集日和」


 長く量のある白銀の髪を後頭部で結い上げ、黄色いエプロンをかけた少女が、鼻歌交じりに店の整理をしていた。

 ここは、世界で最も大きな大陸に位置し、北、西、南西、南、南東、東北に大きく分かれた六国のなかでも、南東のリファラ国に属する城下町ミデル。そこに白髪の少女、リューアが働く花屋があった。

 花屋と言っても、広い店内には観葉植物などの樹木も少なからず置いてあり、なかには明らかに観賞用ではないだろう、薬草らしきものも豊富に並べてあった。

 リューアは床に落ちた葉や、わずかにこぼれた土を手際よく掃除して行き、切花の入った筒とまだ蕾みの多い、花の植木鉢を見栄え良く配置していく。そして店の置くから出てきた人物を見て、リューアは顔をほころばせた。


「リューア」

「おはようございます、ネイビーさん」


 ネイビーと呼ばれた中年の女性は、恰幅の良い体をゆさゆさと揺らしながら、リューアにおはようと挨拶を返した。彼女こそ、この花屋の女主人である。

 黙々と仕事をしていたときの真剣な表情から一転、幼さをにじませたリューアの笑顔に、ネイビーは目じりに笑い皺を寄せながら言った。


「店の準備、いつもご苦労さん。それより、もうそろそろ出発の準備を始めた方がいいんじゃないかい?」


 今日は国境へ足を延ばし、山あたりで薬草採集の予定だった。

 店主のねぎらいの言葉に、もう一度リューアはにっこりと笑って首を振る。


「もう準備はしました、リュックも、靴も。この棚の薬草の補充したら、行ってくるんで大丈夫です」


 リューアは言いながら、薬草の房をつかみ、棚のそれぞれの引き出しのところに迷うことなくしまっていく。 その手際のよさに、ネイビーは、ほぅと小さく息をついた。

 だいぶ手馴れてきたリューアに店を譲るのも悪くない。跡継ぎもいないのだし。

 性格にも何の問題はなく、町のみなからの評判も上々。自慢の看板娘と行っても過言ではない働きっぷりには、ネイビーも舌をまいていた。


 「ネイビーさん、終わりましたよー。すぐに薬草持ち帰ってきますからね!」


 そんなことをネイビーが考えている間に、リューアはもう仕事を終えていて、もう靴を履き替えようとしていた。ごつい登山用の靴に足を無理やり突っ込んでいるリューアの傍らには、大きなリュック。幾分小柄な体には不釣合いなそれをネイビーは持ち上げ、ちょうどリューアが腕を伸ばせば肩紐に手が通るよう、背中あたりに吊り上げた。


「ありがと」

「! ――――っ、ああもうこの子はぁっ」


 なんて可愛い、良い子なんだろう。

 はにかんだリューアにネイビーはたまらず、ぎゅむぅと抱きしめる。その強く柔らかで気持ちのいい抱擁に、リューアもネイビーの背に手を回して応え、息が出来なくなって結構本気で背中を叩いた。


「けほ……。じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい。気を付けるんだよ、南の国との国境は物騒なんだからね!」


 少しだけ眉をひそめ、ネイビーはリューアを見送った。半分くらいはリュックで隠れてしまっているリューアが前に進みながら、右手を振る。

 ネイビーは右手に反射する光・・・・・・・・のまぶしさに目を細めた。


 「…なんて可愛くて良い子に、神様はいったいどれだけの試練をお与えになるんだろう――――…」

 

 遠目からでも分かる程の違い。

 リューアの右腕から指先にかけての関節は、人に比べて異様に節くれだっていた。肌も、明らかに人肌ではない金属光沢で、血が通っているわけもない、義手。そして右足もまた同様に、ズボンから伸びる太腿から靴に包まれていない足先まで、義足。義手とは少し仕様が違っていた。

 そして邪魔だとばかりに頭のてっぺんで結い直された銀髪から覗く、尖った耳・・・・





 エルフ――――この世界に存在する、自然豊かで空気が汚されていない場所を好む、異種族。深い森の奥でひっそりと暮らす彼らの外見こそ人間と酷似しているが、互いに相容れることはないとされている。高い魔力をもち、老化が遅く、また寿命も人間より長い。パッと見分かる特徴として、尖った耳・・・・をもつ。

 大古から人精ドワーフ妖精フェアリーとともに存在しており、自分たちの後からの存在である人間を、快く思っていないものが多い。むしろ互いに心底毛嫌いしている。

 なぜなら他の種族の事を慮らず、土地を開拓していく人間たちと、自然を愛する昔からの存在のエルフたちとで争いが起こらないはずがなく、対立し合い、溝は深まっていった。

 そんな中、あろうことか一人の人間とエルフが恋に落ちる。彼らは子を成し、産み落とした。種族を超えた愛により、銀髪碧眼の女の子が誕生することとなった。

 両親はその我が子を、リュリーティアと名付ける。

 彼らは愛しさをこめ、リューアと言う愛称で彼女を育んだ。

 しかし、対立し合う種族から生まれた混血児が、穏やかな人生を送れるはずがなく。

 


 リューアは齢十七にして、右手足を失っていた。

 

 

 

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