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手紙に込められた思い

場所だけ移動しました。


城について早々、姫がこちらへやってきた。


「エイネム様、エイネム様~」


「どうしたシェール?

 嗚呼、それから様はいらないと言っているだろう。エイネムと呼んでおくれ」


「…わかりましたわ」


「―――おい、そこで頬染めてるバカップル。

 さんざん二人っきりの時間はあるだろう。せめて他人が居るときくらい人に気を遣いやがれっ」


「…なんだ、ジェド居たのか」


「あんたが連れて来たんだよ!」


人が、せっかく物資やら必要な物を持って来てやったというのに、なんだその態度は。


あと姫、貴女も俺の存在に気づいて驚いていますか?でっかい目をまん丸とさせているから俺に気付いてなかったのがたやすく分かりますね。素直で何よりですが、いくらエイネム様が普通の狼と比べれば規格外に大きいといっても、あれだけ近くにいたら、気付いてくれてもいいでしょう!


「まぁ、ジェド…えーっと陛下?

 何時も私たちのために、ありがとうございます」


「姫、えーっとは要りません。

 きちんと式はあげましたので、正式に国の責任者です」


大体、何故疑問形なんですか。貴女もエイネム様と、一緒に式に参加していたでしょう?

エイネム様より直々に申し込まれ、シェール姫は王位継承式で正式に巫女姫となったことを報告した。生け贄の娘とされていたのが、巫女姫として公表されたのだから、これからは神殿のほうでも丁重に扱われることだろう。


全く、神ではないといいながら姫に関することだけはエイネム様はぬかりない。

偉大な力も、実際は自然界とシェール様のため位にしか使っていないと知ったら、信者たちはさぞや騒ぎ立てることだろう。巫女姫とは、主に神の傍に常に待機しており、そのお心に少しでも沿うようにするのが務めだ。


―――というのは、最近考えたシナリオだが。

エイネム様の望みを終結したら、このような表現がふさわしいと俺が考えたのだ。


「嗚呼、忘れるところだった。

 今日は姫に手紙を預かって来たんですよ。ランツェっていう若い娘、知り合いにいらっしゃいますか?」


俺が娘の名前を口にした途端、姫は瞳を潤ませ手紙を抱きしめた。

わずかに震える手で、大切そうに手紙を抱きしめる姿に驚きを隠せない。あまりの驚きと突然の行動に、俺は受け身をとる時間がなかった。


「いった!

 何するんですか、エイネム様。あんた自分の力を考慮して下さいよ」


「うるさい。シェールを泣かすお前が悪い」


んにゃろう…。

よりにもよって、この御方は俺の体をその太い腕でふっ飛ばしやがったのだ。

たしかに猫がじゃれる様な動きだったが、この大きさをもってすれば、立派な凶器だ。


おまけに『あんた、俺のせいじゃないって分かっていて八つ当たりしただろ!!』そう心の中で問いかけると、簡単に『…まぁな』と返してきやがった。

嗚呼、この御方がこういう性格だと分かってはいたが、一度と言わず何発か殴ってやらなければ気が済まないのだが、許させれるだろうか?


久しぶりの念話がこんな形だなんて、なんの陰謀だ。


「―――ごめんなさい、つい懐かしくて泣いてしまったわ。

 もう大丈夫だから…心配しないで?」


怒鳴るか、殴るか迷っているうちに、姫は自分で立ち直ったようだ。

今は、少しはにかみながらエイネム様の首元に抱きついている。


その様子に安心したのか、エイネム様の機嫌も少し治ったようだ。

釈然としない思いをこのときは抱えることになったが、のちに俺はこの手紙により激しく楽しませてもらう事となった。






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾






ジェド様から受け取った手紙は、幼馴染が書いたものだった。


内容は、私が生け贄となるのを止められなかったのを謝罪するものだったり、辛い思いをしてないか、体調を崩していないかとこちらを気遣う物ばかりだった。そのため、彼女の様子をうかがい知ることは出来なかったが、心には温かい物がぐっとこみあげる。

きっとここで泣いてしまえば、心配性のエイネム様に迷惑をかけてしまうから泣かないけれど。


彼は、生け贄と言う形で私をここに連れてきた事を、未だに後悔しているようなのだ。私がここに来てだいぶ経つし、偏見の目で見られる事もなく私は幸せだというのに…。どうも、彼はどこか不器用な所があり放っておけない気持ちにさせる。




最初は、ただ食料として生け贄に選ばれたのだと思っていたから、それから考えると今の状況は信じられないほど恵まれているし、満たされている。


―――ただ、我が儘を言うとしたらランツェに会って、私は幸せなのだと伝えたい。疑り深い彼女のことだから、手紙だけだと私が無理していると取られてしまう心配がある。だから私の幸せな様子を、無理をしてない笑顔を見せて彼女を安心させてあげたかった。



手紙には直接綴ってはいなかったけれど、私に『会いたい』という気持ちが込められていた。身内を亡くした今となっては、故郷で私を心配してくれているのは差別をせずに接してくれた彼女だけなのだ。


何時か会えればいいと思う。

そして、私は胸を張って言いたい。私は心から笑える場所を見つけたよと。





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