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冷徹軍医の最愛嫁~無能の妻は、夫の愛に気付かない~  作者: 藤烏あや@『死に戻り公女は繰り返す世界を終わらせたい』発売中


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第七話

 息苦しさに意識が浮上し、目を瞬く。


(あれ、私昨日……?)


 焦点の合わない目がようやく機能した頃、見慣れない天井が目に入った。

 その上、お腹に重みを感じる。

 回らない頭のまま視線移すと、千鶴を抱きしめる腕が見えた。

 腕の持ち主へと目を滑らせる。

 真っ先に飛び込んでくるのは、はだけた着流しから見える肌色だ。

 目に毒なそこから慌てて視線を外す。

 男性らしい喉仏やすっとした輪郭に艶やかな黒髪が流れ、色気を放っている。


「ひぇっ」


 口から漏れてしまった音は、僅かに紫苑の睫を震わせた。

 思わず両手で口元を覆う。

 恐る恐る様子を窺うと、彼は規則正しい寝息を立てていた。

 ほっと息を吐き、紫苑の顔から視線を逸らした直後。

 くすくすと笑い声が鼓膜を揺さぶる。

 ばっと見上げれば、紫苑が楽しげに笑っていた。


「い、いつから、起きて……」

「千鶴が僕の肌を見つめてたあたりだな」

「最初からじゃないですか……起きてるなら起きてると仰ってくださればいいのに」

「拗ねないでくれ。可愛い千鶴が寝ている僕に何をしてくれるのか、興味があったんだ」

「っ、そんな、戯れを……」


 お腹に回っていた手が千鶴の頬をなぞり、羞恥で俯きかけた顎を持ち上げる。

 浅葱色の瞳と視線が絡むと、彼の目元が和らいだ。


「妖毒を浄化した影響はないようだな」


 心底安堵したような声色に、千鶴は昨夜からの疑問を投げかけた。


「昨夜からずっと気になっていたのですが、妖毒とはどのようなものなのですか? それに私が浄化したって、どういう……?」

「……そうか、君は知らないのか」


 僅かばかり驚いたような声色に、千鶴の体が強ばった。

 震える唇から流れるように謝罪の言葉が漏れる。


「不勉強で申し訳……」

「謝らなくていい。1つずつ知っていけばいいんだ」


 途中で遮られたかと思うと、幼子をあやすように頭を撫でられた。

 叱られなかった安堵からか穏やかな空気を震わせるように、千鶴の腹の虫が鳴った。

 肌が触れあうほどの近さにいたため、紫苑の耳にも届いているだろう。

 恥ずかしさでどうにかなってしまいそうで、千鶴は両手で顔を覆った。

 穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだ。

 千鶴は顔を隠したまま、消え入りそうな声で呟く。


「すみません……」

「君は息をするように謝るな。いい。先に食事にしよう」

「はい」

「千鶴が疑問に思っていること、僕の喋れる範囲で答えよう。まぁ食事中にする話でもないが、君が気にならないのであれば」

「もちろんです」


 こくりと頷くと、紫苑は少し困ったように微笑み起き上がった。

 彼にならい千鶴も起き上がる。

 紫苑が側置卓子(サイドテーブル)の端に置かれていた呼び鈴を鳴らすと、間髪入れず扉がノックされた。

 彼が許可を出すと側仕えが入室する。

 側仕えは千鶴を視認すると目を見張っていたが、何事もなかったかのように頭を下げた。


(さかき)。食事を二人分だ」

「こちらでお召し上がりになりますか?」

「居間でいい」

「御意」


 非常事項だけを確認した榊と呼ばれた側仕えは、すぐに部屋から出ていた。


(やっぱり旦那様の側仕えとなると、優秀な方なのね)


 千鶴はその様子をぼんやりと眺めていたからか、差し出された手に気がつかなかった。

 声を掛けられ、肩が跳ねる。


「千鶴?」

「へ? は、はい!」

「手を」


 いつの間にか差し出されていた手に、おずおずと自身のそれを乗せる。

 すると軽々と手を引かれ、紫苑の胸元に飛び込むような形で立ち上がってしまった。

 慌てて離れようとする千鶴だったが、腰に回った紫苑の腕に阻まれて身動きが取れない。


「し、紫苑様……?」

「……三ヶ月も一人にさせてしまってすまない」

「いえ。お勤めご苦労様でございました」

「食事の後、寂しい思いをさせてしまった埋め合わせをさせてくれ」

「え?」

「だめか?」


 伺いを立てる紫苑の声色は、どこか儚げで、千鶴は二つ返事で頷いた。


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