甘々のデザートと…
「サモワに感謝しなければ」
帰宅の途に着く馬車の中、玻璃に映る自分の素顔を見てぽつりとつぶやいた。
「…そうだな」
リシュエルは私の肩を抱いて、頬に唇を寄せた。
「少し、赤くなっている」
「結構強く擦られたから…」
「チッ…あの野郎。もう一発殴っとくんだった」
「貴方が私よりも怒ってくれて、なぜだか本当に嬉しいの。変だけれど」
「君の怒りすら、あいつにはもったいないからな」
「サモワから貰ったオイルを塗れば、すぐに良くなるはずよ。新しく作ってもらったオイルは傷にもよく効くみたいだから」
まだ極薄く火傷の痕が残っていたある日のこと。
ラベンダーオイルを使い切った私は、サモワがいる庭に赴いた。いつものようにラベンダーオイルを受け取るつもりだったがこの日は違った。
『もしよろしければ、このオイルを試してみませんか?』
『これは?ラベンダーとは違うの?』
『それはアルニカという花から抽出したオイルなのです。本来は傷口に塗るために作ったものですが、どうやら色素沈着にも効果がありそうです』
『サモワって本当に研究熱心ね。分かったわ、今晩からこれを使ってみましょう』
それで、王都に来る頃にはほとんど目立たなくなってしまったのだ。
「アルニカオイルがなければ、もう少し痕が目立っていたと思うわ。それにすごいのよ、いくつかあったそばかすまで綺麗に消えたんだから!」
すっかり安心したのか、木の下で眠れぬ夜を過ごして疲れていたのか、そのどちらもか…。リシュエルは揺れる馬車の中で眠ってしまった様だった。
「…もちろん、リシュエルに一番感謝だわ」
膝の上に乗っていた手を絡め取って、屋敷までの間、私も少し眠ることにした。
✳︎ ✳︎ ✳︎
帰宅すると、両親やリーンが私を囲んで、わあわあと声をあげて泣いた。
「心配をかけてごめんなさい」
「謝ることなんてないわ!貴方は何も悪くないでしょう?」
「お母様…」
「怖い思いをしたわね、もう大丈夫よ」
緊張の糸が切れたのか、少しだけ泣けてきてしまった。
こんな時、以前の家族のぎこちなさを思い出す。以前のままだったら、確実に父の怒りの矛先は私だったと思う。
(ダステムやレベットのことは到底許せないけれど、あのきっかけがなければ私たち家族も変わらなかった)
リシュエルは、そんな私たちを邪魔してはいけないと思ったのだろう。
早々に当てがわれた客間に退がってしまったらしい。
「お父様、お母様、リシュエルが私を助けてくれました」
「…本当に、リシュエル殿には頭が上がらん。何もかも、彼がいなければマリーアだけではなくトノール家もどうなっていたか分からんからな」
「ええ…本当に…私にはもったいないくらい…」
お母様は「あら」と言って、悪戯な笑みを浮かべた。
「まるで、いつかのマリーアが戻ってきたみたいだわ。リシュエルが貴方を愛していることは、少しも揺るがない事実なのだというのに。愛してくれる人にその態度は失礼だと言ったでしょう?良い加減に前を向きなさい。卑屈になっている暇があって?」
「…本当に。そうでしたわね」
「さあ、ここにリシュエルを呼んで。彼ももうすぐ家族になるのだから」
「はい!」
その日、私のために用意された数々のデザートと、クリームたっぷりのカフェオレは、すごくすごく甘かった。
けれど、それよりも、そんな私をリシュエルの瞳があんまりにも愛おしそうに見つめて離さないから…。
身も心もぐずぐずに溶かされてしまうみたいだった。
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