表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/65

それではお見せしましょう(後半、リシュエル視点)

 ベッドも椅子もクッションもない部屋で横になるのは難しく、膝を抱えて床に細く線を引く月明かりを眺めた。


 逃げ出すことのできない格子の嵌った窓、鍵のかかった扉。

 繋がれた鎖。


「どういうつもりなのよ…」


 レベットは「明日の誕生日パーティーでサプライズを仕掛けたい」と言った。

 そう言うからには誕生日パーティーと私は無関係ではないはずだ。けれど、そこに私がどう関係してくるのかは未知数である。


(全く話が見えない)


「まあ、わざわざ言うわけもないわね」


 こつんこつん


 鳥が玻璃を突いているような音がする。ふと目線をやって驚いた。


「マリーア」


 格子と格子の隙間から、手を上げている人がある。闇に紛れて、けれど月明かりがまるで舞台装置のようにその人を照らした。


「っっっ!!!リシュッッ!!」


 思わず大声をあげそうになって慌てて両手で口を塞いだ。


「どうしてここが?」

「今は時間がない。そんなことより、君に伝えたいことがある」


 玻璃越しのくぐもった声が、震えていた。

 愛しい人がすぐそこにいるのに、触れ合えない切なさが込み上げて、鎖を引きずり窓辺に顔を寄せる。


「…良く、聞いて。マリーア」


 こくこくと頷くと、今にも泣き出しそうな顔になったリシュエルは、ハッと気がついて俯いた。

 ギリッと歯を食いしばる音が聞こえる。顔を上げたリシュエルは、繕った笑顔で必死に耐えていた。


「良いかいマリーア、今すぐ君をここから連れ去るのは、難しい」

「理解しているわ」


 屋敷の最奥にある、堅牢なこの部屋。外から格子や窓を破るには、静かすぎる深夜において難しいだろう。ましてや、訪ねたところで家探しのような真似はさせてくれまい。


(もしこの窓から私の存在を指し示して、ヤケを起こされたら?)


 悪い想像は尽きない。


「正直に答えて。何かされていない?」

「何も。怖いくらいに何もされていないわ」

「レベットは何か言っていたか?」

「明日の誕生日パーティーでサプライズを仕掛けたいと…」


 リシュエルは「やはり」と言って少し考える様な仕草を見せると、再び私に強い視線を向けた。


「明日、俺は誕生日パーティーに忍び込む。そこで君の安全が確認できたら、君を救出する」

「っっ…どうか、無理はしないで」

「…寒くないかい?」

「平気よ…」


 リシュエルは、私が嘘をついていることを見抜いている。

 けれど、それを追求することはできないだろう。追求したところで、どうにもできないのだから。


「ご覧。あそこに高い木が見えるだろう?」


 あれは何の木だろう。ほとんど葉っぱが落ちている。


「丁度屋敷の塀の際に立っているんだ。我々はパーティーが始まるまで、屋敷を出る。キースと二人で、あの木の下あたりで朝を待つ」

「やだ…リシュエルッ」

「大丈夫、今奴は夢の中だ。恐らくこのまま何かされることは…」

「違うの、お願いだから外で夜を明かすなんてこと、しないで。うちへ戻って」

「…マリーア」


 リシュエルは何度も「それは無理だ、できるわけがない」と繰り返した。


「今、一番君を近くに感じられる場所が、俺が一番安らげる場所なんだよ。頼むから…帰れなんて言うな」

「…わかったわ。けれど、気をつけて」


 彼が私の名を呼びかけた時、「見回りが来ます、早く」とキースの声がした。


「…すまない、そろそろ行かなければ」

「あっ……」

「必ず助ける」


 玻璃越しにお互いの手を合わせて、くちづけを交わした。

 冷たい感触が、この一枚の隔たりを残酷に刻みつける。

 リシュエルは長い前髪で表情を隠したまま去って行ってしまった。



(夜ってこんなに長いのね)


 朝がくれば、きっとリシュエルが助けてくれる。


 何度も何度も枯れ木を見ては、愛しい人を想った。





✳︎ ✳︎ ✳︎





「本当に大丈夫なんですか!?リシュエル様っ!」

「ここではベルナルドだ。ランドーくん」

「な、慣れないです…」

「ここにいる間だけの話だ。慣れるより、適応しろ、キース」

「はい、ベルナルド男爵…」


 カシリオン邸の使用人から「あんな人いたかな」という顔を向けられたが、にこやかに笑って見せる。優雅な所作でシャンパンを受け取って見せる。人を騙すときは堂々と。


(思った通り、人が多い)


 さっさと紛れて仕舞えば良い。


「…ベルナルド様、この変な眼鏡、前が見えにくいんですが…」

「絶対に取るな。俺だって我慢してるんだ。レベットには顔が割れているからな…」

「うう…」


 やがて今日の主役である、レベットが「やあやあ」と大袈裟に登場した。


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。…さて、集まって頂いたささやかなお返しに、私から皆さんへプレゼントがございます」


 会場はわあわあと大盛り上がりだ。あちこちから「何か貰えるのかしら」「どんなことがあるのだろう」といろんな声が飛び交った。


「それでは、お見せしましょう。マリーア・トノール嬢です」


 皆ぽかんと口を開けて、静まり返った。

面白かった!続きが読みたい!と思ったら、

ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ