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忍び寄る、手

「お父様!お母様!」


 馬車から降りて駆け寄る私を、全力で抱きしめてくれた両親は、「おかえりなさい」と言ってリシュエルに向き直った。


「…リシュエル殿、きちんとお礼が言えていなかった。改めてお礼がしたい。ワインの件では本当に世話になった」


 父と母が頭を下げたのを見て驚いたリシュエルは、「頭をあげてください」と言った。


「俺はただ、ドマーニ公爵様にお伝えしただけです。『このままでは、トノール家のワインが今後一切飲めなくなるかもしれない』と」

「リシュエル殿が、シューリムから王都まで、どんな思いで来てくれたのかと思うと…」

「言ったでしょう。俺はただマリーアを追いかけて来ただけだと」

「…そうか、そうだったね。それで、君たちの気持ちは固まったのだね?」


 リシュエルは私の腰を抱き寄せると、柔らかく微笑んだ。


「はい。マリーアに求婚し、彼女もそれに応えてくれました」


 父はそうかそうかと言って頷いた。母は私に人差し指を突き出すと


「やっと心が決まったのね。見ていて本当に焦ったかったわ。もうこれからは自分の気持ちに正直に生きてちょうだい」


 と言ったので、頬を掻いて誤魔化した。

 リシュエルは「あれ?」と不思議そうな顔をしている。


「もしかして君、俺のことでずっと悩んでくれていたのかい?」

「えっと…ごめんなさい?」

「なぜ謝る?悩むほど俺のことを考えていてくれたと言うことだろう?」


 両親がニヤニヤしているのに気がついて、その腕を振り解いた。


「も、もう!やめてちょうだい!二人がいる前で…」

「あら良いのよう、私たちのことは気にせず。ね、あなた」


 母がそんなことを言ったので、父は大きく頷いている。


(なんでそうなるの!?)


「マリーア様ぁ!!」


 賑やかな声を聞きつけて駆けてくる者がある。今回は同行しなかったリーンだ。駆けてくる勢いそのままに、私に抱きついた。


「わ!リーンッ!!」

「もう!寂しかったですよう!私もついていけばよかっ……あれ?その化粧はハイデンロー邸の方が?」

「?ええ、そうよ」


 リーンは私の髪型や化粧を繁々と見てから「私より全然上手だわ…」と言って思い切り凹んでしまった。


「もちろんハイデンロー家の侍女も素晴らしい仕事ぶりだけれど…私、リーンがしてくれる化粧やヘアアレンジ大好きよ」

「…胡座をかいてはいけません。もっと精進します…」

「リーン……」

「ところで、お二人がこうやって一緒にいると言うことは…」

「ええ、貴方のおかげよ」


 リーンの表情がパッと明るくなる。私の手を両手で握って胸の前で組んだ。


「良かった…!!お二人が結ばれる未来を信じていました!!」

「リーンはいつも私の味方でいてくれたものね。ありがとう…荒療治もあったけど…」

「あれ…?ということは…二人がご結婚されたら私……」

「もちろん来るでしょう?シューリムに」


 再びリーンの目が輝いた。何度も何度も頷いている。


「もちろん、もちろんでございます!!」

「良かった、私リーンがいないと寂しいもの」


 リシュエルは「なんだか嫉妬するじゃないか」と言っていたが、言葉とは裏腹に、その表情は楽しそうだった。


「今日はこれから結婚式のドレスや化粧道具なんかを見て回りたいんだ。リーンも付いてくるだろう?君が当日マリーアの化粧をするんだから」

「もっ…もちろんでございます!!」




 その日は本当に忙しかった。ドレスの採寸や、化粧道具をひとつひとつ見て回ったので、日が暮れる頃にはぐったりしていたように思う。


 ひとつ、気になるのは口紅だけはなぜか選ばなかったこと、だろうか。


(今となっては、その結婚式すらどうなるかわからないのだけれど…)



 コツ、コツ、と足音が響く。あいつがやって来たのだろう。


「…ああ、そうやって化粧で隠している分には美しいんだなあ、マリーア嬢」

「っっっ!帰して…帰してちょうだい!」

「最近姿が見えなかったけれど、今日君を偶然見かけることができて良かったよ。この幸運に感謝している」

「このッッ!!」


 何度も何度ももがいてみるけれど、手に繋がれた鎖を断ち切ることは叶わない。


「…おっかないなぁ」

「やめてっっ!」


 脚を這い上がってくるその手に、虫のような嫌悪感を抱きながら、歯を食いしばった。


「…そんなに嫌がらなくてもすぐに帰してやると、言っているだろう?」

「っ信用できないわ…こんな人攫いみたいな真似をして…!!」

「明日、私の誕生日パーティーがあるんだ。そこであるサプライズを仕掛けたい」

「……は?」

「ああ…だから今日、君を見かけたことは偶然なんかじゃない?君に復讐する絶好の機会を、神が私に与えてくれたんだ……!!」

「なに、を…」

「君を社会的に抹殺してやるんだよ。マリーア・トノール。本当の君の姿を見たら、だあれも君を娶りたいなどと思わないだろう?いや、君に想いを寄せていた紳士達は、君をどんなに嫌悪するだろう」


 レベット・カシリオンは、焦点の合わない目で、ずうっと笑っていた。

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