庭師、サモワ
「ハイデンロー家の庭師、サモワだ」
サモワと呼ばれた青年は、かけていた眼鏡を外して袖で雑に汗を拭うと再び眼鏡をかけ直した。
「サモワと申します、マリーア様」
「貴方が育てた花をいつも祖父母のところに届けてくれているのですね、どうもありがとう」
「喜んでいただけているのなら、これ以上の喜びはありません」
サモワは、艶やかな黒髪が印象的な好青年だった。
陽光に反射するその髪に、つい目線を向けていると庭師は微笑んだ。
「…黒髪が珍しいですか?」
「昔話を読んで憧れたことがありました。とても綺麗ですね」
少し驚きつつも、穏やかな笑顔に戻るとサモワは言った。
「父が東のワ国の血を継いでおります」
「素晴らしいルーツをお持ちですわ。ねえリシュエル、サモワは最近雇い入れたと言っていたわね。私たちと同年代でしょう?」
よっぽど頼りにしているのだろう、頼もしい人に向けるような笑顔で私たちを見ていたリシュエルは頷いた。
「確か十一月で十九になったはずだな?」
「リシュエル様は、私のような者の些細なことでも覚えていてくださっているのですよ、マリーア様。見てください、庭仕事用のこの手袋を誕生日にプレゼントしてくださいました」
「ああ、使ってくれているのか」
「生涯大切にいたします」
「大袈裟だな…」
胸の前で手袋ごと両手を組んでいる。まるで神に祈っているような姿にさえ見えた。
サモワは私ににこりと微笑むと、「二年前、リシュエル様が私を拾ってくれなければ、きっと私は今頃断頭台の上です」などと言ったので、思わず言葉を飲み込んでしまった。
(何が…あったのだろう?)
庭師のサモワは、いくつかの花や葉を摘むと、小瓶の中に入れてアルコールを流し込んだ。
「…これがヒース、こっちがユキノシタです。さらにこちらが…十日ほど前に漬け込んでおいた物ですね」
カチャカチャと音を立てて差し出された小瓶は、中の液体が茶色味を帯びていて、ラベルにはヒース、ユキノシタとそれぞれ書かれてあった。
「このヒースとユキノシタを混ぜて、更にシューリムの湧き水を加えます」
美しい青色のボトルにマリーアブレンドとラベリングされて手渡された。
「この化粧水を、朝晩患部に塗り込んでください」
緊張しつつそれを受け取って、リシュエルを見た。彼は一つ大きく頷いて「サモワの薬草の知識は、本当に素晴らしい」と言った。
「サモワの入れたハーブティーがなければ、一日中頭痛で動けないかもしれない」
「お役に立てて何よりです」
「そうだ、火傷の痕に効くハーブティーはあるか?」
「勿論ございます。ローズヒップとラズベリーリーフにハイビスカスをブレンドしたものを既に用意してあります。他にもローズマリーやカモミールをブレンドしたものも作りましたし、それから……」
リシュエルは、ははっと笑ってから耳打ちした。
「サモワはハーブのことになるとおしゃべりが止まらなくなるんだ」
「す、すごい知識量なのね…」
サモワは、ハッと気がついて頭を掻いた。
「どうもすみません。熱弁してしまい、お恥ずかしい限りです」
「良いのよ、好きなことがあるのは素晴らしいことだわ、ましてやそれが人の役に立つなんて」
「そんなふうに言っていただけるなんて、私は幸せ者です。…祖父がワ国の薬師で、ハーブの知識を叩き込まれて育ったので、こうしてリシュエル様のお役に立てることが何より嬉しいのです」
ぺこりと頭を下げると、仕事熱心な青年は、再び草花の世話を始めた。
時に「もっと栄養価を高くできないかい?」「君は少し育ちすぎだなあ」「次は君を使いたいんだ、明日までに酸味を強くできるかい?」などと草花に向かって喋っている。
「…まるで草花と対話しているみたいね」
「面白いだろう?ああやって育てたハーブは本当に効果覿面なんだ」
「あら?なら、頭痛薬は必要なの?」
「随分と頻度が減ったんだから、効果は目に見えてあったと言えるだろう」
私は手のひらに転がる小瓶を見つめた。不思議となぜかきらきら光って見えた。
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