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君が薬(リシュエル視点)

「リシュエル!」


 遠くで君の声がする。


 君と王都で過ごすうちに忘れていた頭痛が、俺を混沌の淵に落とした。


(起き上がるのも、難しい)


「リシュエル!リシュエル!!」


 何度も俺を呼ぶのだから、早く応えてやりたいのに体がうまく動いてくれない。

 庭園のベンチが思いの外硬いということ以外は、感覚が死んでいるように思えた。


(ああ、そうだ)


 俺は不用意に君を傷つけてしまったのだった。世界で一番大事にされていると思って欲しいのに、傷ついた君をこの俺が傷つけるなんて。


(そんな俺を、君が呼ぶ価値などあるのだろうか)


 頭が痛い。


 君が傷ついているのではないかと思うと、頭痛で目も開けられない。


「リシュエルッッ!!」


(ああ、泣いているのか?)


 君が俺のそばで泣くなんてことが、あってはならない。

 その思いだけで、重たい瞼を少しだけ開けることに成功した。


「どうしたの?リシュエル!一体……」

「…マリー……」

「すぐに人を呼んでくるわ!」

「それはいけない」

「…え?」


 指先一つ自分の思い通りに動かすことができない。けれど、それでも君の腕をなんとか掴んだ自分自身を、過去未来含めて一番良くやったと褒めてやりたい。


「…な…いて…いる。マリー…君が俺の……側で泣く…なんて……」

「泣くわよ!!リシュエルが倒れていたら、泣くに決まって…」

「俺は…大丈夫。いつものこと…だから」

「…何を言っているの?」

「君が泣いている…ことの方が…重大、だ」

「リシュエル、まさか頭が痛いの?」

「ああ……」

「すぐに薬を取ってくるわ、だから手を離して」

「させない」


 今にも離れていきそうなマリーアを必死で掴む。ほとんど力は入らないけれど、それでもなんとか留まらせることに成功した。


「離して頂戴!自分の状況が分かっているの!?」

「よく…分かっているさ。薬、なんかよりも…君がここに居てくれる方が…俺にとって何倍も……」


 微睡と現実の間にいる俺に、マリーアはくちづけをくれた。


(夢じゃないのか)


「貴方を、傷つけてしまった。本当にごめんなさい」

「マリーア…?」

「リシュエルが私を誰よりも大切に思ってくれていることは分かっているのに」

「謝らないで、マリーア」

「よく分かったのよ。火傷の痕に囚われているのは、誰でもない、私自身だって」

「っっそんなこと…!」


 気がつくと、俺は起き上がってマリーアを力一杯抱きしめていた。


「リシュー……」

「君は時折、俺をそう呼んだね」

「大丈夫なの?起き上がって」

「…不思議なもので、頭痛は吹き飛んでしまった」

「嘘、そんなはず…」

「マリーアのくちづけにはそういう力があるんだろう」

「ばか!そんな訳ないでしょう!?薬を…」


 マリーアはまた泣き出しそうな顔になった。


「…本当なんだから、こればかりは仕方がない。それより君、なぜ薬のことを知っている?」

「あっ……」

「ヤイルか?キースか?」

「書斎でたまたま見かけて…」

「飲む量がおかしくなっているんだ。薬に頼らず過ごすのを当面の目標にしている」


 ほら、君はまた立っていられなくなってしまう。


(だから言いたくなかったんだ)


 君が笑顔でいれば、薬なんてなくても、いつか頭痛があったことすら忘れてしまえると思ったのに。


(まあ、一緒に暮らし始めたらいつかは知れてしまうことか)


「すまない、心配しないで欲しい。これは身体のどこかが悪い訳じゃない」


 マリーアは俺の前髪を両脇に払うと、額にくちづけを落としてくれる。


「…そんな風に思い詰めさせてしまうなんて、私はどうしようもないわね」

「言っただろう、美しい愛などではないと、君に執着していると。どうしようもないのは俺の方……」


 マリーアは、くちづけで俺の言葉を遮った。


「どうし……っっん……」


 懸命に俺の言葉を遮ろうとする君が、あんまり可愛いから


「リシュエル…」


 芝生の上に、君を押し倒して、思うままに何度も何度もくちづけをした。


 微かに残っていた頭痛も、いつの間にか消失していたが、それすら気がつくことなく吐息が混ざることに言いようのない衝動を抑えることに必死だった。

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