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潔白に、乾杯

 ダステムが運ばれ、動揺が流れるホールで、国王陛下は「参ったな」と溢した。


「折角の建国祭が台無しだ。ドマーニ、お前にも責任の一端はあるのだからな」

「…恐れながら。陛下もトノール家のワインの隠れファンであったはず」


(か、隠れ…?)


「んッッ!!ゲホンゴホン!!…それがなんだ」

「建国祭で熟成ワインが振る舞われなくなって一番残念がっていたのは他ならぬ陛下であったかと…」

「なっ!!!ドマーニ、貴様…!」


 顔を赤くしている国王をニヤリと見てから、ドマーニ公爵は並んでいるワインを指し示した。


「さて、ここに栓を開けてしまったワインが数百並んでおります。殆どが私が所有していたものです」

「そ、それが…?」

「何の問題もなかったワイン、栓を開けてしまったからには……飲むしかありませんなあ」

「ここにいる全員にそれを振る舞おうと?」

「もちろん、飲みたくない者に無理矢理飲ませるつもりなど毛頭ございません。…ただ、ワインのない建国祭など、未だかつてありましたでしょうか」


 今度は国王がニヤリと笑って見せた。


「ふむ。ドマーニ、お前さてはここまで織り込み済みだな?」

「はっはっは!」


 ドマーニ公爵は、ワインの香りを嗅いで恍惚とした表情を浮かべている。

 国王にもワインが手渡され、左右に座る王妃と王太子にも同様にワインが渡された。


「では、俺もいただこう」


 リシュエルが進んでグラスを受け取ると、国王がそれを認めた。


「…ふむ、リシュエル・ハイデンローか」

「ご無沙汰しております。ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません」


 国王は左手をひらひらさせると「よいよい」と言った。


「ベストブルム殿は息災か?」

「変わらず過ごしております」

「それは何よりだ」


 リシュエルの登場で、俄かにホールが騒がしい。先の騒動でそれどころではなかっただけで、本来ならば彼は私の隣にいて良い人ではないのだ。

 その証拠に先ほどからご令嬢達が浮き足立っているではないか。


「ハイデンロー伯爵だわ」「なんて美しいのかしら…」「浮いた話を聞かないわよね」「抜け駆けはやめてちょうだい」


 リシュエルは相変わらずのポーカーフェイスで何を考えているのか分からない。

 国王が「ふむ」と考え込んだ。


「…そなたがシューリムから足を運ぶのは珍しいことだな」

「離れがたい故郷ですので」

「それが今年はなぜ……まさかワイン騒動に因果があるのか?確かマリーア嬢が幼い頃長くシューリムに滞在していたことがあったと記憶しているが…」

「ええ、そうですね…」


 きゃあきゃあと黄色い声が上がっていたご令嬢達がぴたりと静まった。

 リシュエルはすっと目を閉じて頭を下げて言った。


「想い人を迎えに」


(リシュエル…)


 呆然とするご令嬢達をよそに、ドマーニ公爵が大きな声で言った。


「今年の熟成ワインはまた格別だ!きっとまたこのワインは流行る。その味わいを再び知った時、今この場で飲まなかったことを一生後悔するだろう!」


 紳士たちは、ごくりと喉仏を上下させて、わあ!とワインに群がった。

 国王は満足そうにワインを掲げると、「その手を挙げよ」と言った。


「この国の繁栄と、トノール家の潔白に、乾杯!」


 再び大歓声が上がって、あちこちから「うまいうまい」と声が上がった。

 国王も満足そうにワインを楽しんでいる。


 父と母は、ほっと胸を撫で下ろす私を見て、こくりと頷いた。よく見れば涙目である。

 なぜだか私まで釣られて泣いてしまいそうで視線を逸らせた。


(駄目だわ…)


 ぽろり、


 一つ涙が溢れると、もう止まらなかった。


「マリーア嬢、辛い思いをされましたね。これを」

「すみません、助かります」


 誰かが差し出したハンカチで涙を拭いた。


(こんなことで泣いて、人に気を遣わせるなんて)


 気丈にパッと視線を上げて「ありがとう」と言いかけた時だった。

 ハンカチの持ち主は、レベット・カシリオン伯爵であり、私は動揺して固まってしまう。


 だが、それ以上にレベットの方が動揺していた。


「き、君、そ、その顔は…?」

「……え?」


 涙の筋に沿って、顔が冷たく感じる。視線を落とすと、ハンカチにはファンデーションが付いていた。


「…騙したのか?」

「わ、私…」

「その醜い痕を隠して、我々を騙していたのか!」


 あちこちで「なに?」だの「なんだなんだ」だのという声が上がった。


「求婚は取り消しだ!誰がお前なんかと…」


 その求婚を断ったはずなのに、おかしな話が進んでいく。レベットが私の手からハンカチをぶん取った時だった。

 リシュエルがレベットの手を掴む。


「な、なんだ…貴様」

「マリーア嬢が、君のような下賎な輩の求婚を承諾するわけがないだろう。聞いていて恥ずかしいから、外に出てくれないか?」

「なに!?」


 リシュエルは私の前に立ち、全員の視線から私を庇った。

 事態に気がついたリーンが、私の手を引いて連れ出してくれる。


「リ、リーン!」

「今はリシュエル様にお任せしましょう。すぐに化粧を直します。こちらへ」

「っっっ……」


 私は俯きながら、長い廊下を走った。

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