父と母(前半、リシュエル視点)
瓶から、ざらざらと錠剤を手のひらに落とし、よく数えもせずにそのまま水で流し込んだ。
「っっっ…はあ、」
「リシュエル様!」
「っっ!うっ!」
頭が割れてしまいそうだ。
「何か、あったのですね?」
「構うな」
「マリーア様付きの侍女に会ってきたのですよね?一体何が?」
「構うなと言っている」
キースは温かいハーブティーを差し出すと、ばさりと音を立てて書類の束を机に置いた。
「これは?」
「マリーア様が婚約破棄に至った、その経緯を王都で調べた報告書です。なかなか調べが進まなかった理由も中に書いてあります」
「随分と分厚いが…」
「正直あまり読むことをお勧めしません。現在進行形でトノール家を巻き込んでいる問題もあります。これを読んだら、リシュエル様がどのような行動を取るのか考えると…執事としては重要事項を抜いて渡した方が良いのでしょうね」
「キース」
「そんなことはしません。ご安心を」
俺が書類の束を手に取ると、執事が手を置いて柔らかく制止した。
「本当に、読まれるのですね?」
「ああ」
「…分かりました。今日はもう休んで欲しいのですが、仕方がないですね」
「すまない」
初めから止める気のない手を退けると、キースは「今日は僕も寝ずにお供しましょう」と言った。
「お前は休め」
「きっと二杯目のハーブティーが欲しくなるでしょうから」
「……好きにしろ」
一枚目を捲る。
そこには、デビュタントを迎えた頃のマリーアが、妙な事に巻き込まれ始めたことから始まっていた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
王都の風はシューリムよりも冷たい。馬車から降りて肌で感じる。
玄関先で到着を待っていたらしい父が駆け寄って来た。
「ただいま戻りました、お父様」
「良かった…一時はどうなることかと思ったが、随分良くなったな」
すっかり癒えた火傷を見て、父が目を細める。
「…しかし、額と頬に痕が残っているな…」
「先ほど医師に診て頂きましたが、徐々に薄くなるのか、一生残るのかは分からないとのことです」
「…そうか。シューリムではゆっくり過ごせたのか?」
「お陰様で」
久しぶりに会ったというのに、父は随分と浮かない顔をしている。
(多分一向に馬車から降りようとしないお母様に困っていらっしゃるのね)
「お父様。お母様が建国祭に合わせて王都に帰ると言い出したのですよ。出て行った手前気恥ずかしいだけで…」
「分かっている」
父は、母が乗る馬車まで歩むと「フェリア」と母の名を呼んだ。
がちゃりと扉を開くと、中の母が「貴方は時折大胆ね」と言ったが、ただまっすぐ前を見つめていた。
「…お前が出て行った後、色々と考えた。どうも私はこの性格を今よりほんの少しマシにする以上に直すことは難しい」
「それで?」
「お前達が一緒に暮らしたくないというなら、甘んじてそれを受け入れるつもりだ」
「…貴方は?貴方はどうしたいの?」
「私…?」
父は、馬車の前で跪くと頭を垂れて行った。
「戻って来て欲しい。今の私の願いはそれだけだ」
「全く、本当に仕方のない人だわ」
「すまない」
「実を言うとね、貴方がいないと本当に楽しくないのよ。確かに初めはのびのびしたわ?けれど…やっぱり寂しいのよね」
「フェリア…」
少し泣きながら母は降りてくる。父の手を取りながら。
(きっと、なんだかんだ言って想い合う二人、なのよね)
シューリムに滞在したことで、家族の仲が深まった気がした。
「さあ、今日の建国祭のために支度をしなくては!早く荷解きをしてしまいましょう」
急に張り切り出した母とは対照的に、父はやはり表情が暗い。
私は父に頭を下げた。
「お父様、ごめんなさい。私自分のことばかりで…。トノール家のワインが試飲会で選ばれたなんて知らなくて…」
「そのことだが……」
きょとんとして目を見合わせる私と母は、父から思いもよらない言葉を耳にした。
面白かった!続きが読みたい!と思ったら、
ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!




