反吐が出る(前半、ダステム視点)
「ロメリア、ちゃんとワインの瓶はとっておいてあるんだろうな?」
「…ええ。私の部屋に保管してある…あるけれど…」
「なんだよ」
「カビ臭くて堪らないの。クローゼットの中のドレスまでカビてしまいそうだわ。ダステムのところで引き取ってよ」
「そんなことしたら、僕が糸を引いていることがバレるじゃないか!」
突然あげた大声に慌ててロメリアは僕の口を両手で塞ぐ。
彼女が住む屋敷の裏庭、そこが僕たちの逢瀬の場所だ。
「…お父様やお母様に知られたら大変よ」
「僕と会ってることが?」
「ねえ、こんな風にコソコソ会うのはもうやめましょう?私、堂々と手を組んで歩きたいの。マリーアさんとは婚約を解消したのでしょう?」
面倒なことを言われそうな気がして、口付けで続く言葉を塞いだ。
なのに
「っ……。ねえ、求婚、してくれるのでしょう?」
「はあ?」
「は?って…だって、私たちは恋人同士でしょう?マリーアさんとの関係が解消されたなら、きちんとしたいわ」
(けっ。誰がお前みたいな面倒な女に求婚するかよ)
もっと従順な女がいい。都合のいい女がいい。地味で目立たず、何も欲しがらず、僕の女遊びを笑って許すような、そんな女でなければならない。
(浮気は男の甲斐性なんだ)
そう、だから流行りの化粧をしたがらないマリーアはちょうど良い。
ねっとりとまとわり付くように腕を絡めるロメリアから、苦手な白粉の匂いがする。思わず顔を背けて適当に返事をした。
「…ああ、そうだなあ」
「私、ロマンティックな求婚に子どもの頃から憧れているのよ。薔薇の花を千も集めたような素敵な場所で求婚して欲しいわ」
反吐が出る。お前如きにそこまでかける金などはない。
もちろん、マリーアの父親から賠償金が支払われたら、回収して縁切りするつもりである。
(この女は、自分がただの遊びなのも分からなかったのか…)
面倒だなと思って、脱ぎ捨ててあったジャケットを羽織った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
朝、鏡を覗いて驚いた。
「赤みが…薄くなってる」
鏡の前で、右を向いてみたり、左を向いてみたりしている私を見て、リーンが笑った。
「久しぶりに心躍らせているマリーア様を見ることができて、私も嬉しいです」
「今日は包帯を巻かないで過ごしても良いかしら?外には出ないから」
「どうでしょう…医師から十日は着けるように言われておりますから…」
「そうよね…」
落ち込む私を見て、リーンが「例えば、お昼までとか時間を限定したらどうでしょう?」と言った。
「ありがとう、そうしても良いかしら?」
「そのかわり、絶対に肌を擦らないで下さいね」
「勿論だわ」
リーンはラベンダーオイルを数滴手に伸ばすと、優しく私の顔に塗り広げてくれる。
(リシュエルが見たら、驚くかな)
ラベンダーの香りに包まれて、会えない友人のことを想った。
「リーン、後でリシュエルに手紙を届けてくれる?」
「かしこまりました」
まだ何日と経っていないのに、逢いたくてたまらない気持ちを心の奥に隠して、ペン先をインクに浸す。
(ラベンダーオイルのお礼と、それから…昨日の返事……)
宛名を書いてペンが止まった。私はリシュエルとどうなりたいのだろう。
(わからない、けれど…)
ただ、無性に逢いたくて堪らなくなってしまった。
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