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マリーアは理想の相手

 深淵の中からひょこりと顔を出したような気分で目が覚めた。

 目を開いてからしばらくは視界が歪んでいた。最悪の目覚めだ。


「ははははは!!!」


 突然響いた笑い声にびくりとする。破裂音かと思った。

 いきなり頭を動かすと酔いそうだ。視線だけを動かす。私が横なっているベッドの向こうに、ダステムやダナエ子爵令嬢、それから四、五人の紳士がソファに座って談笑している。


(ここは、一体?)


 天井や壁紙の色味に慣れない。どうやら我が家ではないらしい。


(ああ、そうだわ、トネリー伯爵邸でワインの試飲会を…)


 頭がくらくらする。思考するのに随分と時間を要した。


(そうか、私、倒れたのだわ)


 ならば、倒れた私は客間に運ばれたのだろう。余計な者が何人も付いて来ているが。


(試飲会は終わったのかしら。お父様はきっとまだ会場にいるわね)


 はあ、とため息をついて、起き上がるか、寝たふりを続けるか考える。


(それにしても、この人たちは寄ってたかってなぜここにいるのよ…)


 ダナエの耳につく甘い声と、紳士達の大きな笑い声が目眩を増長させた。

 一人の紳士が「ダステム」と婚約者の名前を呼んだので、勝手に身体が固まる。


「以前から不思議だったのだが、君はダナエ殿のような女が好みなんだろう?なんだってマリーア殿に求婚を?」


(なぜ…?なぜって…)


 気を失う直前に聞いたあの言葉が思い出されて、吐き気がする。身を固くして目をぎゅうと瞑る。

 ダステムは笑って言った。


「なぜ地味なマリーアに求婚したかって?君、失礼なことを聞くな」


(え?)


 まさか、と思う。質問者を窘めるような一言に、救われたような、知らなかった一面を知ってホッとしたような気持ちが訪れた。

 それも束の間、ダステムは吐き捨てるように言った。


「失礼だなあ。マリーアは従順を絵に描いたような女だ。どんなに浮気をしても許してくれる理想の相手なんだぞ!わはははは!!!」

「おいおい、言うねぇ」

「当たり前だろう?マリーアは女として見れば、妥協という言葉がピッタリなんだ」

「下衆だなあ」

「なんとでも言うと良い!ロメリアとの浮気現場を見られたけどな。ちょっと"教育"してやったら、ちゃあんと黙ったぞ。今日だってダナエと腕を組んで歩く俺の後ろをすごすご着いてきただろ?」


 教育。


 その言葉に、額が疼く。


(ああ……)


 随分と舐められたものである。ダステムにも、ダナエ子爵令嬢やロメリアにも、この人達にも。この社交界にも。


(私、こんな人たちに萎縮していたの?)


 意を決してむくりと起き上がる。げらげらという下品な笑い声がピタリと止んで、皆一斉に私を見た。


(こんなに品のない人たちに見下されて萎縮していたの?)


 一拍遅れてダステムが私を見ると、冷めた顔で「ああ、起きたのか」と言った。


(心底馬鹿みたいだわ。私)


 その瞬間、私は何かの線がぷつりと切れたのを、確かに感じる。


「…ダステム、この人たちは?」


 この男は、都合の悪い時はへらっと笑う。


「なんだよ、怒っているのか?」

「……」

「おい、聞いているのか?こっちはせっかくいい気分で試飲会に参加していたところに、水をさされたんだぞ」

「…ですか?」

「ああ!?」

「私に求婚したのは、女遊びをするためですか!!?」


 男性陣はダステムを除いて全員が、私の大声に引いてしまっているようだった。

 ダステムは少したじろいだ後、鼻で笑った。


「ふん。なんだよ。それ」

「私の質問に答えてちょうだい。返答次第では…」

「返答次第では、なんだ?」


 格好つけたい人たちの前で、私が大声をあげたのが気に入らなかったらしい。

 ゆらりと立ち上がったダステムが私の髪を掴んで、無理矢理ベッドから引き摺り下ろした。


「っ!!!」


 さすがにやり過ぎだと思ったのだろう、ダナエ子爵令嬢が「ちょっと、酔っ払いすぎだわ!」と言った。


「うるさい!触るな!売女!!」

「なっ!!!」


 手を払われたダナエは唇を戦慄かせると、力任せに扉を閉めて出ていってしまった。

 思い切り叩きつけられた扉は、反動で跳ね返ると、少し開いたところでぴたりと止まった。


 興奮冷めやらぬ様子のダステムは、鼻息を荒くして捲し立てた。


「この俺が、お前で妥協してやると言っているんだよ!!弁えろよ!!」

「っっ!!!」

「本当に結婚してやらないぞ!?良いのか!!?」

「いっ…やめっ!!!っっ!!」


 ぶちぶちと髪の毛の切れる音がする。

 ぱっと手が離れると、私は床に倒れた。


「おい!ダステムやめろ!!」「やり過ぎだぞ!!」「誰か止めろ!!」


 そんな声がして見上げると、ティーポットを持ったダステムが私を見下ろしていた。

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