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星の返却要請

人を死へ追いやる赤い棘の文字。

謎を示す灰色の文字。

康太と先輩は、少年と母親の影を……

そして星型キーホルダーに隠された真実を追う--


「俺が太ってるからなんだな。そうなんだろ、答えろよ!」

 平らな皿を勢いよく滑らせ、テーブルから落とした。今にも殴りかかりそうな勢いだ。

 「すみませんでした。タブレットにて、二人前のご注文でしたのでご用意させて頂きました」

 「じゃあ、仮に細い女が二人分を注文しても同じ様に持ってくるって事だな」

 「はい。おっしゃる通りです」

 「納得がいかない。一人で来た客が、同じ物を二人分頼むわけないだろうが。確認しに来いよ。まぁ、俺の場合は太ってるから『あの体型を維持するには二人分くらい食べるよな』って思ったんだろうけどよ」

 あと数センチで店員の顔に触れそうな距離で言葉を発している。

 「ですから、その様なことはございません」

「金は払わない。精神的に傷つけられたんだ。こんな大勢の前で自分の事を、太ってると言わなければならない状況にされたんだからな」

「……はい。お代は結構です」


 僕たちは相変わらず静止画のように動きを止め、目だけを動かし状況を把握していた。

 「恥をかくのが嫌なら黙って食えばいいのにな」

 先輩だけは周りの空気など気にすることなく、流れ作業のように食べ物を口に運んでいる。

 「この状況でよく食べられますね」

 目線をあのテーブルに戻した瞬間……。

 

 …………少年だ。

 「せ、先輩」

 目も動かさず蚊の鳴く様な声で呼んだ。

 「今、呼んだか?」

 僕の目線を追い、目玉を動かした。箸を持つ手が止まり、その代わりに喉仏が上下に動いた。

「も、もしかしてあの少年か」

「はい。ボーダーのタンクトップ……それと、マスクをした母親らしき女性もいます。絶対そうです」

「あの子は寒さを感じないのか?……水……置いたぞ」

 

 喚いてる男はグラスを手に取り、一気に水を飲み干してしまった。

 すると予想通りの展開になり、店内は再生ボタンを押されたかの様に一気に動き出した。様々な音階の悲鳴に圧倒され耳を塞いだ。

「止めらなかったな」

 微かに聞こえた言葉で、忘れてはいけない事を思い出した。僕は何度かこの様な状況と対峙し、麻痺していたのかもしれない。

 奪われていい命など一つもないのだ……。


 太った男は猫の爪研ぎを連想させるかの様に、胸を掻きむしり『食』『無銭』『恥』『罵』などの赤色の棘がある文字を吐き出した。

 「血も吐き出してないか?」

 「はい。今回は字に棘がついてるので、もしかしたら食道が傷ついてしまったのかもしれませんね。やっぱり、泡に見えますか?」

「泡にしか見えん……」

 

 男から攻撃を受けていた男性は、抜け殻のように座り込み、他の店員は客の対応に追われている。また今回も、しばらく自由を奪われるだろう。小さな体に大きなメガネをかけた探偵でもあるまいし、事件現場に遭遇するのはこれで最後にしてほしい。

 「……灰色の文字もあります。『星』『返』『読』『絵』『小』『館』……」

 手の震えを抑え、ナプキンに殴り書きをしながら伝えた。

「その、『星』と『返』の二文字、やばいな。キーホルダーを返せって事じゃないのか?」

「え、そんなまさか……」

「昨日俺が死にかけた時に見えた文字も、灰色だっただろ。確信なんてないが、少年からのメッセージに感じるんだ……」

 たまに驚くほど的確な事を言ったりするので、妙に納得してしまう。

 僕はあの時、なぜ直感的に『捨てたらダメだ』と思ったのだろう。

 

 レシートとナプキンの文字を改めて二人で凝視した。

 『図』『学』『聞』『星』『返』『読』『少』『館』『絵』……。

「やっぱり俺には、全く縁のない文字だ」

 キーホルダーの絵を書きながら呟いている。暖かさを感じる絵を書ける事に面食らったが、今は自分の怒りを優先してしまった。

「僕は腹が立ってます!こんなに文字を見せつけといて、何で謎解きの様な事をさせられてるんですかね。文章にしてくれたら手っ取り早いのに」

「盗んだから意地悪されてるのかもな」

「人聞きの悪い言い方しないでくださいよ。拾ったんです」

 ファミレス内は警察が到着し、爺さんの時と同様に迷惑そうな顔をしている人ばかりだ。こんな事なら食事を頼むべきだったと後悔した。腹が減って頭が回らない。

 ……しかし突然、この空腹感と『絵』『読』の字をがリンクし、幼い頃に感じた様な懐かしさが胸に広がった。窓に西陽が差し、夕飯を想像する自分を思い出した。すると芋づる式に繋がり、点が線になった。

「先輩!僕、分かりました!」

 思わず立ち上がり、周りの視線を集めてしまった。

「急にびっくりするだろ」

 先輩はペンを拾いながら眉間に皺を寄せた。

「小学一年生の夏休みに、ボランティアで読み聞かせをしてくれるイベントがあったんですが、突然打ち切られてしまって……。理由は分からないですけど、大人達のただならぬ雰囲気を感じ取ったことは覚えてます」

「どういう事だよ。それが何で康太と関係あるのさ」

「僕にも分からないですよ!文字から連想する出来事を考えてたら思いだしたんです。っていうか、さっきから話し聞いてます?僕の顔も見ずに、真剣に絵を書いてますけど」

 八つ当たりをした。僕にはない才能にも嫉妬しているのだと思う。

「絵、上手いですね」

 本心だか一応、フォローした。

「ドラマみたいに、調べてみるか。その時何があったのか」

「……あ、はい」

 どうやら僕は、小さな体に大きなメガネをかけた少年の真似事をする事になりそうだ……。

 

 

 

 




 

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