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アンチ娘

友人への嫉妬から、悪意をばら撒く咲子。

ある日、飲んだ水のあとに口から溢れたのは

不気味な“文字”だった。

甘美な悪意を飲み干した代償は、命そのもの。



『かわいいー。でもね、スッピンは可愛くないらしいよ。みんなだまされてるね。顔もよくなければ性格もやばいらしい』

 『かわいそうな子。親が商品にしちゃってる。子供はあなたの所有物ではありません。みなさん、どう思いますか?もう虐待と同じですよね』

 

 乗客ほとんどがイヤホンをし、スマホを見ている。もし、この状況で気の狂った殺人鬼が襲ってきたら、逃げ遅れてしまうだろう。みんな他人に興味などないのだ。私は違う。アンチに生き甲斐を感じている。身体的なことを書いた時には、アカウントを止められた。それは、さすがに反省した。

 『アンチをするやつは最低だ』『顔が見えないから言えるんだ』『卑怯なやつだ』『頭がおかしいんだよ』

 

 何とでも言え。そんな事は知ってる。逆に投稿してる奴は、何のリスクもないと思っているのか。その思考の方がよっぽどおかしいだろ。晒すということに対しての考えが甘い。

 

 食堂でパスタを食べていたら愛菜がやって来た。

 「咲子、またアンチ?」

 「違うよ。もうとっくにやめたわよ。あんなダサいこと。興味がなくなったの。画面の中の人間が何をしていようと、私には関係ないって気が付いたの」

 嘘をついた。毎日、百件近くものアンチをしているじゃないか。もう私は病気だ。

 「たらこパスタ美味しそう。迷ったんだよねぇ。結局、鯖の味噌煮にした。一口ちょうだい」

 「う、うん。別にいいけど」

 「アンチはやめて正解よ。勝手にやらしておけばいいの。咲子はさ、投稿者に偏見持ってない?意外と生活で役立つこともあるよ。大量に買った野菜の消費の仕方とか、ヘアゴムがなくても髪を上手に纏める方法だったり」

 「偏見なんてないわよ。ただ面白半分で書いてただけ」

 「そう。……咲子には言いにくかったんだけどね、実は私インフルエンサーとして仕事の依頼が来たの」

 「まじ?すごいじゃん!おめでとう!」

 「愛菜はビジュもいいし、需要ありそうだもんね」

 「それ、本心?なんか咲子に言われると、裏があるのかと思っちゃう」

 「はぁ?ひどくない?」

 「冗談だよ、冗談」

 表面上は笑顔でやり過ごしたが、心にどす黒いものが広がった。

 

 「簡単収納を動画で投稿し続けてたらさ、幅広い年齢層にフォローしてもらえて、あっという間にすごい数になってね。それで、某家具メーカーから直接オファーがきたの。ほら、見て」

『現役大学生。美人が教える収納術』

 ダサ。何このキャッチフレーズ。センスなさすぎ。

 「このまま芸能人の仲間入りとかしちゃうんじゃない?」

 「そんなことある訳ないでしょ」

 「応援してるから、頑張ってね」

 

 自慢かよ。何が言いにくかっただ。別に羨ましくないし。きっと私にアンチされるのが怖かったのね。だから探りを入れてきた。お望み通り、書きまくってやるわよ。

 「ご馳走様でした。明日は絶対、パスタにしよっと」

 こいつが箸で何回もパスタを取るから、鯖の味しかしなかった。

「私、今日はもう出席する講義がないから帰るね」

 

 早速、愛菜のチャンネルをクリックした。確かに収納技術はすごい。一工夫するだけで倍位以上に収納できたりするらしい。

 でもこの女は、自分を売ることを忘れていない。まさに策士だ。

 自分は可愛いと絶対に思っている。垣間見えるその仕草が腹立たしい。

 「さてと、至福の時間がやってきた」

 コメント欄に文字を打ち始めた。

 『顔がすごく可愛いですよね。とっても羨ましい。さぞかしモテるんでしょう。私、愛菜さんの趣味知ってるんです』

 『人のものを取ることなんです。物だけじゃ満足できないようで、男も取るんですよ。しかもすぐに飽きちゃうから、平気で捨てちゃう』

 後は勝手に負の連鎖が始まる。

 『わぁ。やっぱりそうだったんだ。なんとなくそう感じる時があったんですよ』

 『勘違いしてるところありますもんね』

 『そんな、ひどいですよ!事実かもわからないのに』

 もっと、もっとみんな書け。書け。

 火のない所に煙は立たないのだから、炎上すると言うことは事実も含まれているのだろう。

 

 愛菜から着信だ。

 「もしもーし。どしたの?」

 「ねぇ、咲子でしょ」

 「何?何?話が見えないんだけど」

 「分かってるくせに。このアンチ女。お前しか考えられないんだよ。お前と別れた後、コメント欄が荒れ出したの。今まで一度もこんなことなかった」

 「そんなこと知らないわよ」

 「あっという間に広がったの。さっき、先方から企業イメージが悪くなるので、白紙に戻させていただきますって言われたのよ」

 「それは、残念だったわね。大丈夫?」

 「白々しい。お前が犯人なのに。絶対許さないから」

「なんの根拠もないじゃない。勝手に決めつけないでよ」

 ほんとに嫌な女。前から気に入らなかったのよ。自分は特別だって思ってるのが全面に出てるのよね。

「もういい。話しにならない。さようなら」

 はい。さようなら。

 

 愛菜のチャンネルを開いた。一度アンチを書かれると、怒涛のように書き荒れる。

「ざまぁみろ。最初にアンチを楽しんでいたのは、愛菜だったくせに。自分のチャンネルが注目されるようになった途端、非難し始めた。『言葉は凶器になるのよね』なんて正義感たっぷりに言いやがって。自業自得だろ」

 電車内でブツブツと独り言が止まらなくなってしまった。

「そういえば、喉が渇いた。感情的になりすぎて水分補給も忘れちゃってた」

 ペットボトルを出しキャップを捻った。

「あれ?買ってから飲んでなかったっけ」

 未開封に違和感を感じたが、喉の渇きを我慢出来ず飲み干した。

 さっきから男の子の視線を感じるのは何故だろう……。

 

 何かがおかしい。吐き気けと同時に、喉を裂くような痛みも伴っている。

 『ゲッ』うそ。なにこれ...。字?「密」という字に見える。

 『ウゲッ……ゲッ。』ゴボ...。「人」

 ゴボ、ゴボ……。「不幸」

 ズル……「味」ビチャ……「人」

「ぐ、苦しい……。やだ、やだ」

 次から次へ吐き出されてくる。

「も、もうダメだ……。息ができ……」


 女性に近づくと、また字がたくさん溢れていた。

「まただ.……。こないだの爺さんと同じだ。うそだろ...」

 爺さんの時と違うのは、文字の色がピンク色だった。

 吐き出された文字を何個か読むと『人、不幸、密、味』微かに甘い匂いもする...。

 

「何でその子、泡吹いちゃってるんだよ」

「赤堀さん、彼女は泡を吹いてますよね。字ではないですよね?」

「字?何変なこと言ってるんだよ。どう見ても泡だろ。康太、頭大丈夫か?」

 「あ、はい……」

 やっぱり、僕にしか見えていないんだ……。どうして、僕だけなんだ」


 

 

 

 

 

 

 




 

 

 

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