第91話 水の精霊界 エピローグ
あれから数日が経ち、全員の治療が何とか無事に完了した所で移動開始をする事になった。毎回思うが、ケガ人多いよな? 次は無事に済みます様に……おい、そこ!フラグとか言うなよ!
「流石に斬り裂き魔の件も有るから全員で移動するが……8人にもなると大所帯だな。」
「精霊入れれば14人だぞ? ある意味一個小隊レベルだな。」
俺のボヤキにレンがツッコミを入れて来るが、俺もそれは思っていた。これは相当やかましくなるのが目に見えている。
「一個小隊って30人前後でしょ、正しくは一個分隊規模よ。間違えているわよ。タツミ君もそこは正しい知識を教えるつもりで突っ込まなきゃダメよ。」
後ろからナギがレンに突っ込んだ。
ん? いつの間に名前呼びになったかだって? 六波羅さんと呼んだら、本人からすぐに名前で呼んでくれと言われた。何やら苗字で呼ばれると仰々しくて嫌だとの事だ。なので俺も名前呼びで呼んで貰ったのだ。
「これからの移動の際の戦闘についてだが、基本的に俺は戦闘に手を出さない。お前ら7人で対処して戦闘技術を磨け。」
タブレスが出発前に俺達に宣言してきた。まぁ、切り裂き魔との戦闘の結果を考えれば、今後の為にも俺達のレベルアップは必須だから仕方ないだろう。
「あ、そうだ。レン、そろそろ月虹丸を返してもらうな。」
俺は再度ルーリア、ハッキネン、ガラントから精霊力をチャージしてもらう為に預けていた。原因はティルが一人でエクスプロージョンの精霊力として使ったからだ。俺自身の出力はそんなに高く無いので、一度チャージして貰えれば当分困らない筈なのだ。
「やっとか。これを持っている間、ずっとガラントからの苦情が凄かったぞ。」
「すまないな。基本的にみんなの力を借りてる状態だから助かる。」
苦笑いしながらレンが俺に月虹丸を手渡してくれた。おれは軽く礼を言って月虹丸を受け取って皆をゆっくりと見回す。
「まぁ、目的は一緒だからな。力を貸すのはレンの為でも有るから気にすんな。」
「もうちょっと考えて精霊力を使って欲しんだよ。特にティルはタツミっちまでケガさせたら意味が無いんだよ。」
「別に構わない。ポンコツに死なれても困る。」
三者三様の答えが声だけ返って来た。精霊達は全員裏に下がっている状態なので、声は多数響くが誰も口を開けていないと言う不思議な空間だった。
そんな空気も相まり、ついつい可笑しくて笑みがこぼれてしまう。
「ま、仕方ないからこれからも力を貸してあげるわよ。もうちょっと感謝の感情を寄越しなさいよ?」
「いやいや、お前は主契約精霊なんだから当然だろうが? まぁ一応感謝はしてるぞ?」
「ねぇ、何で疑問形なの? それっておかしくない?」
「だって、今回のケガの原因ってほとんどティルのせいじゃん。」
「いやいや、必要な火力だったわよね!? そのケガは必要経費よね?」
ティルが一人だけいつもの調子で騒いでいる。俺もいつもの調子で返しているとティルは少しふてくされた表情をしていたが、すぐにいつもの調子の表情に戻ったのが分かった。
「ねぇ、ヒジリちゃん。何かティルの方がタツミ君と仲良くなってない?」
「うん、最初の頃は二人だけで行動してたから余計にね。」
「と言うか、何でティルはヒジリちゃんの方に戻らないの? ティルの2重契約の説明は聞いたけど、主契約はヒジリちゃんの筈でしょ?」
何やら部屋の少し離れた所でヒジリとナギがコソコソ話をしている様だ。女子の内緒話は聞かないのがマナーと兄さんに言われていたので聞かない様にしておこう。
「龍穴内で無茶したから、少しでも水の精霊界の外気に触れたく無いと言って出て来ないのよね。」
「ふ~ん。まぁ自分の精霊が恋敵にならない様にだけは気を付けないさいよ?」
「ナギ、ナギ。流石に精霊が人に恋心を抱くのは無いわよ。似ているとは言っても別種の存在なんだからね? 精霊も恋するなら精霊よ!」
何やらパティスが勝手に分離して話の輪に加わっている……、あのパティスってティル以上に自由奔放だよな……。
「パティ、アンタの恋バナは興味が無いから引っ込んでなさい。ってアンタも恋とかするの?」
「そりゃねぇ……ナギのあんな甘える姿を中から見せつけられたら恋の一つでもしたくなるわよ~。」
パティスが何やらナギを肘でつついてからかっている様だが、ナギの顔が茹でタコの様に真っ赤になっている。
「パティ!? アンタ流石にそれをヒジリちゃんの前で言う!?」
「え? 覗いてたよ? ねぇヒジリ。」
パティスは今度はヒジリの方を見て何やらニヤニヤしている。そうしたら今度はヒジリまで茹でタコになっているのだが……。何やってんだ?
「ちょ! パティちゃん!?」
「まぁ、ヒジリの天性の潜伏スキルばりの気配の消し方をしても、パティちゃんは気付くのだ! 索敵はナギの方が得意でもニオイが基準だからね。あの状態じゃあ索敵できないよね。」
「パティ!? ちょ!? アンタもう引っ込んでなさい!」
ナギはパティスの手を掴んで強制的に同化した。本当に便利で良いなぁと思う。強制的に分離と同化ってたまにやりたくなるんだが。
ん? 何の為にかって? ティルやハッキネンに物理的にツッコミ入れたい時だけど!? 後は面倒臭がってルーリアが動こうとしない時とかな!
ガラントは基本的に必要な時以外はレンから離れようとしないので被害が無いから気にして無いが……こう考えるとパティスも含め、うちの女性精霊陣の問題行動の多さをどうにかしたい。
ぇ? 精霊全員が問題行動だらけだって? アーアー、キコエマセン。
「ヒジリちゃん……見てたの……?」
「あはははは……ドアの隙間が空いてたんでちょーっと気になっちゃって……。」
声は聞こえないが、ナギがヒジリにジト目で詰め寄っているのが見える。これは余計に触れないでいた方が良い空気だろう。
「今度、絶対に逆のパターンしてやるんだから覚えておきなさいよ?」
「ナギちゃん、それはいつになるか本当に解らないわよ?」
「人間界に帰ったら、強制的にダブルデートしてヒジリちゃん達を観察してあげるわよ。覚悟しておきなさい。」
「え……え? えええぇぇ!? あの時の計画をやるの!?」
うん、今度はナギの方がニヤニヤしてヒジリをからかっている様で、ヒジリが慌てふためいている様だ。
「相変わらずあの二人は仲が良いな。」
「あの二人って付き合い長いのか?」
「そうだなぁ、確か中学3年からの付き合いだから、そろそろ丁度3年って所か?」
隣りで見ていたレンがつぶやいたので何気なく聞いてみると、意外な答えが返って来た。
「同じ中学だったのか? 今回の災害で精霊界に来たから近所だとは思っていたが。」
「いや、ナギは別の中学だぞ。お前卒業式でナギを見たの覚えてるって言ったじゃ無いか。」
「ん? どう言う事だ? 俺はヒジリとナギが同じ中学だと思って言ったんだが?」
俺が疑問に感じてレンを方を向き直すと、レンは余計な事を言ったという様子で目を背けて来た。
「その言い方だとナギだけ別の中学って事だよな? ヒジリって俺達と同じ中学校だったのか?」
「あ……いや、それは火神本人から聞けよ。」
怪しい。何で出身中学の話をするだけなのにわざわざ本人から聞けと言うんだ? つまり、同じ中学だと言う事に何か後ろめたい事か秘密にしておきたい事が有ると言う事だろうか?
「雑談も程々にして行くぞ。戦う際は前衛後衛を意識しておけよ。」
タブレスが俺達の雑談を中断させてドアを開けて外へと歩いて行く。すぐ横に控えていたリィムもその後を付いて行った。
「まぁ、歩きながら聞こうじゃないか。」
俺はレンに言うと外へと歩き出す。次は氷の精霊界だ、これで全精霊界の半分を巡る事になるが……まさか帰るまでに全部の精霊界を巡るハメにならないよな?
流石にさっさと神器持ちの人間を見つけて人間界に帰りたいし、タブレスの話が本当なら兄さんに会えれば帰れる可能性も高い。
早く人間界に帰れます様にと祈りながら、増えた仲間と共に俺達は氷の精霊界へと歩を進めた。




