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第9話 精霊の派閥

「さて~、どこまで話したのかしら~。」

「精霊界と人間界の行き来する原因と方法を伝えた。」


 リィムが相変わらず無表情で淡々とレピスに話しかける。


「ん~、リィムちゃん~。タブレスと話すときみたいに~話してくれないかしら~?ツンデレも可愛いのだけどね~。」


 レピスが不服そうな顔でリィムを見つめるが、リィムは無表情を決め込んでシカトする。隣で見てるタブレスがため息をついて若干疲れている様に見えた。この精霊達の関係性がよく解らない。


「あの~、取り合えず、先に質問していいですか? 貴方達の関係ってどういう関係なのですか?」


 場の雰囲気が変わり過ぎているので理解が追い付かない。


「私は~、この子達の保護者みたいな感じかな~?」


 絶対違う! これは近所の過保護なお姉さんが言う感じのセリフだ! こう言われる対象は大体迷惑がっているのがオチだ。


「私は兄上以外の保護者は要らない。」

「勝手に保護者になるな。話が逸れるから黙ってろ。」


 二人が同時にそれぞれ文句を言う。うん、そうだろうね! 何となくそんな感じはした!


「俺から説明しよう。俺とリィムは人間界の自然災害を防ぐ為に、精霊界に入った人間を殺すのを目的に動いてるのは聞いたな?」


 タブレスがレピスに目で圧力を掛けて喋り始める。レピスの方はあらあらと言った感じで相変わらずニコニコしながら眺めている。


「逆にレピスの方は、人間を助けて人間界に送り返すのを手伝っている。失敗しても精霊界の上位精霊が増えるからそれは問題無いと言う理由でだ。」


「上位精霊が増えると何か良い事が有るのか?」


「管理する精霊が増えれば、精霊界のエネルギーは安定するからな。その代わり俺らみたいに意見の対立で争いが起こる場合もある。所詮俺らも人間の感情で成長しているせいか思考も契約者に似るんだ。」


「精霊同士でも戦争みたいなモノが起きるのか。」


 精霊だからと言って争いが無いわけじゃないんだな。元が人間の感情からの存在なのだから人間に近くなるのも頷ける。


「数が増えすぎても減り過ぎてもダメ。増えすぎれば派閥が出来て争いが起きる。減り過ぎるとエネルギー管理が安定しない為に、自然災害で人間が飛ばされて来る。でも人間界の災害のループは止めたい。ジレンマの様なモノ。」


 二人からは何となくだがやるせない気持ちが伝わって来た。好き好んで人間を殺している訳ではないと言う事がハッキリと伝わったからだ。


「それで~私がルールを決めたのよ~。私達保護側が見つける前に~人間を殺すのはOKで~、保護側が人間を見つけたら~その人間は保護する事って~。」


 急にしんみりした空気が台無しだよ! 相変わらず肩の力が抜ける喋り方だな。何故レピスの口調はシリアスな場面を台無しにする破壊力が有るのだろうか……いや、空気が重過ぎても嫌だけどさ。


「だからもう少し黙ってろ、説明が長くなるだろうが……。」


 タブレスがレピスに再度視線を送る。先程ボコボコにされたのに主導権を握ってるのも変な感じだな……


「つまり、そのルールを作って精霊同士の争いを減らしたんだ。保護側の精霊が人間を見つけた時点で手出し無用。その前に抹殺派が殺したらそれは不問にして精霊同士で争わない事と。」


「結局、保護派は人間を返す際の災害を容認。抹殺派は精霊減少での自然災害を容認している。どちらも人間界を守る為の行為。」


「話の腰を折って悪いんだが、さっきタブレスがレピスにボコられてたのって争いじゃないの?」


 質問と同時にタブレスがこちらを睨みつけて来るけど気になるじゃん! 言ってる事とやってる事が違わないか?


「あれは~、ケ・イ・コなのよ~。争いじゃないわよ~。久しぶりに会う弟分の~腕がなまってないか確認しているの~。」


 ぇ? 俺だったら何度も死んでいる様な攻撃をタブレスは食らっていたのに、あれが稽古と言い張るレベルのなのか?


「ボコられたとか言うな。いや、俺としてはアレは稽古じゃなくてシゴキと言うか、一方的なストレス発散としか言えないんだが。」


「レピスの稽古、普通の龍位精霊では耐えられないで消滅してしまう。」


 二人が死んだ魚の様な目をしている。



「えっと……何かゴメン。」



 聞いておいて何だが、二人に申し訳なくなって謝る。


「まぁ~、それでも~、精霊同士争わないと言う事に~反対派は居たのだけど~戦争になると困るから~。」


「結局のところ大掛かりな戦争になる前に、レピスが数十人は居た反対派の集会を利用して一人で全部消滅させたんだ。そしてルールを周知させたのさ。」

 

 タブレスが間延び口調に耐えきれずに割り込むよう続きを言う。それを見てレピスは少しムッとした表情を浮かべている。


「は? 数十人を? 一人で?」


「そうだ、半数は『龍位』精霊だった。中にはその上の存在である『龍将位』精霊も二人ほど居たんだがな。」」


 ちょっとレピスさん規格外過ぎませんか? ティルが『上位精霊』でその上にリィムの様な『龍位精霊』、さらに上がタブレスの様な『龍将位精霊』……そう言えばさっきリィムがレピスは『神霊』に近いと言ってたな……それが最上位か? でもそれ位の実力が無いとルールを制定できないと言う事なのかも知れない。


「その後の精霊減少による自然災害は酷いモノだった……、ある意味、過去一番の厄災を引き起こした張本人がレピスだ。」


 そう言ってタブレスはレピスの方を指さす。レピスは相変わらずニコニコしながら話を聞いていた。その様子を呆れた様子で二人は見ながら話を続けた。


「あの時は規模が酷かったのも有るが、精霊が減り過ぎたので生き残った精霊は全員保護活動に回った。例外的に全精霊が協力して保護したのはその時だけだ。」



 要するに大きな意味で人間を守りたいと言う事か。救うのが目の前の人間か、まだ見ぬ被害者かの違いだったと言う事だ。行動の仕方に問題は有るような気がするが。基本こいつらは良い精霊と言う認識で問題無い気がする。


「取り合えず、今の話をまとめると、俺の当面の身の安全は保障されたと思って大丈夫なんだな?」


 3人に向かって確認をとると、揃って首を縦に振る。


「ただし、どこにもルールを守らない『はぐれ精霊』みたいなモノは居るからそれは注意。油断してると死ぬ。」


 リィムが念を押すように注意してくる。


「さて、話はこれ位だな。俺はこのまま他の人間を探しに行く。」


 話の区切りがついたと思ったのかタブレスが移動しようとするとリィムも立ち上がる。しかし二人の肩をレピスがガシッと掴んだ。


「二人とも~、タツミちゃんが今のままだと弱いから危険でしょう~? 保護者が必要じゃないかしら~?」


「「エッ!?」」


 二人はレピスの方を振り向いて唖然とした顔をする。レピスはにこやかな表情だが圧が凄い。


「リィムちゃん~。貴方は~タツミちゃんの護衛をしながら~修行をつけてあげなさい~。」


 そのセリフを聞いてリィムが絶望的な表情になる。


「断る。私は兄上と一緒が良い。せっかく久しぶりに会ったのだからゆっくりしたい。」


「タブレスと~私は~他の人間を探す続きが有るから~適任者はリィムしか居ないわよね~。ルールは~保護側が見つけた人間は保護するだったわよね~? 保護者が居ないのはダメでしょう~?」


 レピスの圧がドンドン凄い事になっている。タブレスは顔は引きつってるし、リィムはもはや涙目だ。


「リィムちゃんが~、さっき言った『はぐれ精霊』に~もしタツミちゃんが殺されたら困るのよ~。お姉ちゃんからの~お願い~。」


「何がお姉ちゃんだ、姉じゃなくてバ……」


 あ、またタブレスが余計な事を言おうとしたと思った瞬間。レピスの手がタブレスの顔面を再び捕えて恐ろしい握力を発揮した。


「いだだたぁぁぁ! やめ……やめろー! 何も言って無いだろう!」


「言いかけた~時点でアウトなのよ~。何かいう事は~?」


 タブレスの絶叫が響き、レピスが額に青筋立てながら笑顔で言う。先程もだがタブレスはレピスのお姉さんと自称した時にツッコまなければ良いのに。


「スミ……マセン……でした……」


 弱々しい声でタブレスが謝罪すると、レピスは手を離す。リィムがうずくまってるタブレスを心配そうに声を掛けている。


「兄上、大丈夫? レピス! もう少し加減と言うモノを覚えろ! 稽古も含め、兄上に対して厳しすぎ!」


「悪い子には~お仕置きも大事でしょ~? しかしリィムちゃんは~相変わらずタブレスが絡むと~感情が普通に戻るのよね~。」


「余計なお世話! 兄上も何故ツッコむ! もう少し自重して。」


 リィムが心配そうにタブレスに話しかけている。一連の会話で初めてリィムの感情が表に出た言葉を聞いた気がする。リィムってブラコンか?


「おい、タツミ。今、何か失礼な事思ってないか?」


 何故かこっちをリィムが睨んでくる。コイツ表情読むの得意なのか?


「いいえ、全然。」


 俺はそっぽを向いてごまかす。レピスの禁句はアレだが、リィムはブラコンが禁句だな。


「さて~、そういう事で~。リィムちゃんよろしくね~。」


 そう言うとレピスは翼を出して空に飛び上がるとすぐに見えなくなっていった。


「相変わらず自由奔放な奴だな。リィム、済まないがそいつの面倒を頼む。次に会った時、一緒にいなかったら色々厄介そうだ……。」


「ぇ……兄上ぇぇ……。」


 リィムが泣きそうな表情でタブレスの服の袖を掴んでる。こうしてみると本当に仲の良い兄妹だなと思える……って精霊なのに兄妹? 後で聞いてみるか。


「今回の災害の件を追って行けば、すぐに会えるだろう。その時はゆっくりとしよう。約束だ。」


「解った……、今は我慢してあのポンコツのお守をする。」


 タブレスがリィムの頭を優しくなでると足元に闇の渦が出来てその中に入って行く。先程の不意打ちもこの渦から出てきた所をやられたのかと納得する。


 しかし、さらっと最後にポンコツとか言わなかったか!? 元々辛口だった気がするが、むしろ毒舌になってないか? まぁ勝てる気もしないから文句言わんが!


「行くか。私の体に良くないので火の精霊界から移動する。」


 リィムがいつもの口調と無表情に戻る。そして、先程からずっと黙っているティルも気になるが不機嫌モード継続中なのでどう声を掛けたものか悩んでる。


「別にタツミ位、私が守るんだから……。」


 ティルが最後にボソッと呟いたのが聞こえた。

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