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第82話 凪とパティス

 暇です! じっと家に籠っていて喜んでいるのはルーリア位だと思います!


「心の中で叫んでも何も変わらない。諦めろ。」

「流石にずっと家に閉じこもっているのは暇すぎます。兄上から外出するなと言われているから出かけられませんし、体調は回復しきったから寝るのも飽きました。」


 ハッキネンが返事を返してくれますが、本当にやる事が無くて暇なのです。最近までは皆でガヤガヤと騒いでいたせいか、余計に暇と言うか寂しいです。


 私はリビングのテーブルに頭を乗せて横目でルリの方へと視線を送ります。


「リィムも諦めるんだね。ルーリアは出てこないだろうし、私は試作品の暗器を作るので忙しいからね。」


 諦めろと言わんばかりの表情をしながら、家の一角で鍛冶道具を出してナイフの様な刃物を打っているルリもどうかと思うのですが……


 加熱済みの炉の中身を容器に入れて、それを使って叩いてますが……ルーリアって過熱状態の炉の中身まで現状維持でしまえるのですか? 流石は「記録還元錬成アース・ストレージ」に能力全振りしてるだけの事はありますね……。


「と言うか暑いです! 家の中でまで鍛冶をしないで下さい!」

「ん? リィムも言ってだろ。暇なんだから良いじゃないか。」

「どういう理論なんですか!」


 このやり取りも既に何回目でしょうか? それ位暇です、暑いです。でも全く話さないのも暇なのでリビングでルリの鍛冶を見ている状況です。


 そんな惰性なやり取りをしていると入り口の方に誰かが駆けて来る足音が聞こえました。ルリも足音に気が付いて入り口の方へと視線を向けます。


 そして足音が入り口前で止まると勢い良く扉が開いて、一人の少女の姿が見えたと同時に大きな声が室内に響きました。


「レン! 愛しのナギちゃんが会いに来てあげたわ……よ……?」


 小柄な方で身長は私より少し大きい位でしょうか? 髪はセミロング位の長さで、後ろ髪はお団子ヘアーにしていました。少しクセ毛なのでしょうが、逆にふんわりとした感じで良い感じのクセ毛です。


 見た目可愛らしい方ですが……同じ小柄なのに胸が大きい……え? 別に敵意剥き出しにしてませんよ!?


「え……っと……し……失礼しま……した……。」


 強張った表情のまま言葉が尻すぼみになりながら、ナギさんはゆっくりと扉を閉めました。その直後外から大きな怒声が聞こえてきました。


「ちょっと! クリューエルさん! ここにレンが居るって言ったわよね!? 全然知らない可愛らしい子と綺麗なお姉さんしか居なかったわよ!」


 あー、後ろにエル君が居るのですね。まぁ仕方ありません。確かにレンさんはここに居ましたが、エル君が迎えに行ってから私達が来ましたからね。


「え? 確かにここだった筈……ちょっと見て来るからナギさんは待っててください。」


 外からエル君の声が聞こえたので、今の子が風の精霊界に迷い込んだヒジリとレンさんの知り合いの子なのでしょう。そんな事を考えていると再びドアがゆっくりと開きました。


「えっと、レンさんは居ますか……ってリィムさんとルリさん!? 何でここに?」


 扉から入って来た男性、エル君こと「クリューエル・ノバンス」は驚いた表情を浮かべています。

  

 エル君と会うのは久しぶりです。前に有った時はまだ私の方が大きかったのですが、今ではエル君の身長はタツミさんと同じ位の170㎝を超えた位だでしょうか? 年齢的にはもう同じくらいに見えます。


 アッシュグレーの髪を自然に伸ばした感じで耳が少し隠れる位に伸びています。目は穏やかで少しだけ中性的なイメージを受けるのは母親に似たのでしょうか? 幼さが抜けきって無いだけ? 体の線は細い訳では無いが、ガッチリとしている訳でも無く標準的な体格に成長していました。 


 私とルリは軽く手を挙げて会釈すると状況を説明する為に、まずは中に入る様に促して二人を家の中に招き入れました。





「と、言う事で。レンさんは私達の仲間と一緒に水の龍穴に行ってます。」


 ルリは相変わらず鍛冶中は手が離せないので軽く自己紹介だけしてました。


 仕方ないので詳細は私が説明しましたが……途中で止めれないのは解るのですが鍛冶を早く止めてください! 真面目に暑いです!


「暑くてゴメンなさいね……。」


 私が申し訳なさそうに謝ると二人は首を横に振っている。エル君はともかくナギさんにまで気を遣わせて申し訳なくなります。


「大丈夫です。ルリさんの性格は解ってますから……」


 エル君が相変わらず穏やかな口調で語りかけてくれます。本当にこの子は昔から優しいし気遣いが上手な子なので皆から好かれていましたね。


「ところで、レンが一緒に行動しているヒジリちゃんやタツミ君って本当に私が知っている二人で間違いないんですか?」


 ナギさんが不思議そうに質問してきました。それはそうですよね、偶然にもたくさんの知り合いが同時に精霊界に飛ばされた訳ですから。


「そうですね、レンさんやヒジリの話だと間違いないようです。多分余程大きな自然災害だったのでしょう。広範囲で知り合いが複数も精霊界に来る事という前例も有りますから。」


 私の返事を聞いてナギさんはどことなく嬉しそうな表情の反面、不安そうな表情も浮かべていました。


「人間界の状況が解らないから何とも言えないけど、少なくともご両親とか家族はこっちに来てない。今回の自然災害で精霊界に来た人間の確認は全部終わりましたからね。」


 エル君がナギさんの不安を察して説明してきました。


 ん? 今回の災害で来た人間の確認が全て終わった? エル君は保護派で行動していた筈だからレピスがそう言ったのでしょうか?


「あ、後、レピスさんからの伝言です。『調査は終わったから気にせずに人間界に戻りなさい』との事です。タブレスさんにも伝えて下さいだそうです。」


「あ……終わっているのですね。相変わらず早いのですね……それで兄上もこっちに合流していると言う事ですか。」


 相変わらず仕事熱心ですね……、まぁルールを作った張本人ですから頑張って当たり前に感じますが、少し頑張り過ぎな気もします。


「それで、ナギさんも無事に精霊と契約出来たのですね。問題無ければ能力等も含めて教えて頂きたいのですが。」


 保護の話は取りあえず置いておいて、ナギさんの精霊と能力を確認したいと思います。これから行動を一緒にする訳ですからね。


「えっと、リィムちゃんだっけ? そんなに敬語使わなくても大丈夫よ。お姉さん気にしないから。」


 ハイ! またこの流れですね! もう流石に慣れて来ましたよ。ここは年上の貫禄を見せてあげようじゃないですか!


「一応、私は精霊界に来て百年は超えているので貴方より年上ですよ?」

「え? あ……ごめんなさい。一応おいくつなんですか?」


  うん! 言っておいて何ですが、自分でも笑顔が引きつっているのが解ります! ナギさんは凄く困った顔をして恐る恐る聞いて来ました。そして一応で年齢の確認ってどう言う事なのでしょうか?


「人間はこっちの世界じゃ歳を取らないんだよ。だから百年以上生きているが、肉体年齢的には16歳のままだよ。ちなみに私は27歳だからお姉さんで合ってる。」


「え!? 同い年!?」


 ルリ! 何でそう言う所は返事をキッチリと返すのですか! この流れはお約束すぎて面倒臭いです! ナギさんの驚いた表情と、何と言ったらいいか解らなくて困っている表情が交互に入れ替わってます。


「もう、どうでも良いですよ……ロリっ子でも何でも好きに呼べばいいじゃないですか……」


 私が斜め下を向いて遠い目をしているとナギさんが慌てふためいてエル君に助けを求める目をしているのが解りました。


「リィムさん、別に見た目がどんなでも貴方は俺にとって優しくて大事な姉の様な人です。それは変わりません。」


 くぅ! この子は!? そうですよね。エル君にしたら私は小さい頃から面倒を見てあげたお姉さんですからね! あまり落ち込むのは止めましょう、姉の威厳を見せないといけません!


「ありがとうエル君。大丈夫です、最近ちょっとこの手の話が連続し過ぎて……疲れただけだから。」


 そう言っていつもの表情とペースに自分を戻します。さて、脱線した話を元に戻しましょうか。


(相変わらずチョロい人だなぁ……)

(この子チョロそうね……)


「で、ごめんなさいね。お互い敬語は無しにしましょう。私は元々この口調なので気にしないで大丈夫です。後、実年齢はタツミさん達と同じなら年齢は近いので呼び捨てで構いません。」


「わ、わかりまし……、いえ分かったわ。その方が気楽でいいわよね。宜しくねリィム。私もナギって呼び捨てで良いから!」


 ナギは笑顔で手を差し出して来ました。この子はこう言う気軽さな所が魅力なのでしょうね。何となくレンさんが惚れるのも分かる気はします。


「分かりました。宜しくお願いしますね、ナギ。」


 握手した後、精霊の話にもどりました。


「えっと、私の精霊の名前は『パティス=ミュート』って言うわ。今入れ替わるわね。先に言っておくけど、ちょっと性格は変わっているわよ?」


 そう言うとナギさんの黒い髪と瞳が、淡い薄緑色へと変化しました。この子がパティス=ミュートですか。


「あ、初めまして~パティスです。呼ぶときはパティって読んで貰えると嬉しいかな? あ、皆さんの自己紹介は中から聞いてたので大丈夫だよ!」


「あ、はい。宜しくお願いします。」


 何だろう、変な性格と言ってたけど口調がかなり軽い位で別に普通に見えますが……どこが変わっているのでしょうか?


「どこが変わっているんだ? 普通に見える。」


 同じく疑問に思ったハッキネンが中から声を出しました。思っていても言わなかったのに……。


「リィムの精霊さんね、良かったら精霊同士でお話しませんか? ルリさんの精霊さんも一緒にいかがですか? むしろお話しましょ! ルリさんお借りしても良いですか? 良いですよね?」


 うん……訂正します。物凄い押しが強いですね……。


「ちょっと、パティ! 少し静かに! スミマセン。この子絡み癖が凄くて……、そして思いっきりカマチョなわけよ。」


 ナギがすぐに表に出て来てパティを強制的に黙らせましたが……。


「カマチョって何なのですか?」


「構ってチョーだい。の略語よ、ちなみに放置すると物凄く、面倒臭いまでに絡み続けて来るわよ。ちなみにメンタル鬼強だからイジケる事も無く絡み続けるわよ。」


「「面倒臭そう……」」


 ハッキネンとルーリア! そこで声を揃えて言わなくても良いです! 


「精霊のお茶会♪ 女子会♪ さぁ! 折角だからやりましょ♪ あ、精霊界だからお茶は無いか♪」


 ナギの言葉を無視する様にパティは強制分離して、私とルリの服の袖を引っ張ってハッキネンとルーリアを引っ張り出そうとしてます。


 ええ、この二人にとっては相性が悪そうですね。頑張ってくださいと心の中で応援だけしておきます。


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