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第80話 月穿鞭

「コレが水の精霊力の力か。」


 ガラントと同化して、自分の中に入って来る水の精霊力の感覚を確かめていた。火の精霊力と相殺しないか心配したが体の中での反発作用は無かった。


「感心している時間は無いぞ! すぐに先程の胴体を始末するぞ! 水の精霊術の基礎は『水生成』と『水操作』だ。」


 俺が感心しているとガラントがそんな暇は無いと言わんばかりに声を掛けて来ならがら基礎能力の説明をしてきた。


「そうだったな、行くぞ! お前の水の力と氷の力を合わせる!」


 数メートル程離れた所に有る、うごめきながらも断面から水の触手の様な物を出している先程の胴体へと走り出す。


 月虹丸から水が湧きだすと刀身に絡まるのが認識出来た。


「水の生成って思ったよりもイメージしやすいな。」


 レンの様に水圧を刃にするマネは出来ない。練度が低い俺の場合は最初から氷の精霊術を混ぜるしかないと判断して月光丸を振り抜くと同時に絡まっていた水を三日月状にして撃ち出す。


 撃ち出す瞬間に氷属性を付与すると瞬時に凍ると刃となって胴体へと飛んで行く。氷の刃が直撃するとオオミズチの胴体から出ていた触手の様な物が凍って砕け散るのが見えた。


「凍らせるには足りないか……だったら!」


 俺は月虹丸に再び水を絡ませると今度はそれを剣先から鞭の様に伸ばすイメージする。水の帯の先端だけを凍らせてサソリの尻尾の様な形状にした。


 鞭を扱う様にオオミズチの胴体目掛けて先端の棘を刺すように振り抜くと、イメージ通りの軌道を描きながら棘は目の前の胴体に突き刺さった。


 そのまま精霊力を流し込むとすぐに胴体の動きが鈍くなり、凍らせる事に成功した。


「本体から離れているからか抵抗が弱かったな。次々行くぞ! ティルちゃんも俺の活躍見ててくれよ!」


 ガラントが得意そうに言って来た。いや、そこでティルに格好をつけるのは止めておけ。ティルが余計に気怠そうな顔になっているんだが?


「ガラント! ふざけてないで仕事しろ! 次々投げるからな!」


 レンが俺よりも早く怒りながらオオミズチの斬った胴体を斬霊刀に器用にくっ付けけてはこちらへと連続で飛ばして来た。


 今度は地面に落ちる前に鞭を振るって氷の先端を突き刺すと、一気に華が開く様にオオミズチの胴体が凍り付かせる事に成功した。


「よし、何となく解って来た! ドンドン行くぞ!」


 凍らせたのを確認してから鞭を一度月虹丸から外して再度新しい鞭を作りだす。そして別の胴体へと突き刺すのをくり返す。鞭もイメージ通り動いてくれるので次々と斬り飛ばされた胴体を凍らせれた。


「おいおい、段々と俺が斬るよりも早く凍らせて来てないか?」


 レンがこちらに投げ飛ばさなくても、俺の方で切った端から水の鞭を使って次々と凍らせることが出来る様になって来た。


「段々と扱いに慣れて来たぞ! 水の精霊術って面白いな! よしこの精霊術は『月穿鞭(げっせんべん)』と言う名前にしよう!」


 妙にテンションが上がっているのに自分でも気が付いた。だってイメージどうりに動いてくれるのって面白いんだ!


「タツミ、テンションが高いって……むしろサソリの尾で良いんじゃないか?」


 レンが呆れた顔で言って来た。オオミズチの体もだいぶ小さくなって来て余裕が出来てきた様だ。


「タツミ! そろそろ回収して!」


 数分が経過しオオミズチも小さくなった所でティルが限界の合図を送って来たので、ガラントと分離してティルの方へと向かう。ガラントもそのままレンの方へと向かい、お互いにすぐに同化した。


「大丈夫か?」


 ティルは同化する時には既に顔は真っ青だったので正直かなり焦ってしまった。調子乗ってしまったが、ちゃんとティルの方も気にするべきだった。


「大丈夫よ、タツミの中に戻れば少しづつだけど回復もするし。最悪月虹丸のストックしている精霊力を貰うから安心して。」


 気怠そうだが、先程よりは顔色が良くなっている様子がうかがえたので一安心だ。そしてすぐにオオミズチの方へと意識を向けた。


 オオミズチは小さくなっており、太さも最初の半分以下の1メートルも無い位まで細くなっていた。


 レンは息が上がった為に距離を取り直して斬霊刀を構えている。オオミズチも水鉄砲を跳ね返されたのを警戒してか、レンを睨みつけたまま威嚇の様に口を広げてその場から動かずにいた。


「さて、ここまで小さくなったら斬霊刀じゃない方が良いな。流水二刀るすいにとう乾坤刀けんこんとう。」


 肩で息をしながら流水刀を再び変化させると、刀が二本に増えていた。


「タツミ、隙を見てトドメを頼むぞ。」


 レンは右腕を前に出し切っ先をオオミズチに向けて水平に構え、左腕は下段に構えてすぐに振り上げれる体勢を取る。大きく深呼吸をして呼吸を落ち着かせ始めた。


 レンの得意分野はカウンターだがいつの間に二刀流の動きも練習していたのか? そんな事を考えていると戦況が動き出す。


「ギシャァァァァ!」


 力を削がれ、補給断たれたオオミズチが怒りながらレンに向かって行く。小さくなったとはいえ普通のミズチの数倍はまだ大きい。


「シャァァァア!」


 オオミズチは今度は返されないと思ったのか水鉄砲を再び放った。しかしその水鉄砲も先程までの大きさと威力ではなく、体と同じく半分以下の大きさになっていた。


「ここまで威力が下がってるなら乾坤刀でも返せる!」


 レンは右手で構えた刀の先端に水鉄砲が当たる瞬間、刀を器用に手首で返すとそのまま上に振り上げる。すると水鉄砲も軌道を変えてまるで刀の剣先に付いて行くように動くとそのまま右腕を一回転させて水鉄砲をオオミズチに撃ち返した。


 オオミズチは自分の放った水鉄砲で再び壁まで飛ばされる。レンもそれに合わせて間合いを詰める様に構えたまま走って行く。


 そして一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくの間合いまで詰めると、オオミズチも体勢を立て直してレンに噛みつく様に襲い掛かる。


乾龍刀けんりゅうとう流麗りゅうれい!」


 右手の刀の切っ先をオオミズチの首元に軽く刺すと同時に、クイッと言う言葉が似合う感じで手首を返すとオオミズチは返した刀の方へと流していく。勢いを利用したレンは後ろの方へそのまま地面へと叩きつけた。


 乾龍刀を突き刺したまま、今度は左手の坤龍刀の切っ先を一度地面に当ててから一気に振り上げる。


坤龍刀こんりゅうとう(のぼ)水月すいげつ!」


 振り上げると同時に三日月の様な水刃が坤龍刀から放たれて、オオミズチの胴体を真っ二つにした。


「まだだ! 乾龍刀の能力は吸い寄せだ! まだ離しちゃいないぜ!」


 レンは乾龍刀にくっついたままのオオミズチの頭部を、そのまま勢い良く一回転しながら俺の方に放り投げた。


「タツミ! そいつの頭を砕いてやれ!」


 声を聞いて月虹丸を構えてティルに合図する。


「アイツ本体のトドメは凍らせるじゃダメだ。多分結合結晶が有るなら取り出せないし破壊も難しい。だからお前の力をもう一回借りるぞ!」

「でしょうね! 凍らせた胴体も全部爆散させるつもりで良いのよね?」

「ああ、出し惜しみは無しだ! 月虹丸の残っている全部の精霊力を放出するぞ!」


 月虹丸の先端から再び水の鞭の作り先端を凍らせる。そしてオオミズチの頭目掛けてソレを飛ばした。


「残った胴体の方も細切れにして投げてくれ! 爆散させるから何とか防げよ!」

「はぁ!? 人使いが荒いな! しっかりトドメを刺せよ!」


 レンは坤龍刀で次々と残った胴体を斬っては乾龍刀でくっ付けてはこちらの方へと投げ出して来る。


 俺はその様子を見ながら氷の先端を突き刺したオオミズチの頭部に氷の精霊力を流し込む。そして鞭を操って俺の足元へと叩き落した。


 同時に細切れにされたオオミズチの残った胴体が壁の様にこちらへと向かって来る。


「行くぞ!」


 水の鞭を解除して月虹丸をオオミズチの頭に刺し込む。全力の火の精霊術を練っていたティルと切り替わると、その瞳と髪は真紅に染まって目は紅い光を灯していたのは言うまでもない。


「ゼロ距離のプロミネンス・エクスプロージョンだぁぁぁぁぁ!」


 打ち込こんだ直後に再び俺が表に出ると急いでオオミズチとの距離を取る。そこへ放り投げられた残った胴体が次々と落ちて来た。


 オオミズチの頭部の温度が上がり始めて沸騰し始める。青い火球はオオミズチの体内で弾けようと暴れる様に動いているのが見えた。


 「レン!伏せろ!」


 言うと同時に俺達は地面に伏せた。次の瞬間、オオミズチの断末魔の様な叫び声と共に辺りが爆炎と轟音に包まれたのだった。


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