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第79話 決め手に欠ける戦い

 オオミズチへ跳ね返した水鉄砲が直撃すると、足元の氷を一直線に砕きながらオオミズチは壁際まで吹き飛ばされたのだが、その巨体は無傷でダメージなど無い様子だった。


「追撃だ!」


 レンはそのまま水圧弾を斬霊刀から地面に打ち出すと、反動を利用してオオミズチの方へと飛ぶように突っ込んでいく。


「斬霊刀・二の太刀『円舞十文字斬り』!」


 加速したままオオミズチへと壁ごと斬る様に斬霊刀を横に体ごと回転させて薙ぎ払うとオオミズチはキレイに真っ二つになった。


 そして勢いそのままに今度は体を捻じりながら一回転させて上段からまさに十文字になる様に斬霊刀をミズチの脳天から打ち下ろして十字に斬り裂いたのだ。


「よし!完璧じゃないか! これなら女子にモテモテ間違い無しだな!」


 ガラントの声が聞こえて来たが……ここで見ている女子ってティルしかいないんだが? そもそもモテモテって今時言う奴いるのか?


「う~ん……いくらカッコ良く決めてもセリフで台無しね……、何でナギちゃんはこんな潜在感情を持っている男に……。」


 ティルが何か言っているがナギちゃんってレンの友達以上恋人未満の人だっけ? 是非とも今のガラントのセリフを聞かせたいものだな。


「タツミ、ナギちゃんはヤンデレに近い部類らしいからやめておいて。本気で刺しかねないわ。」


 俺の感情を読んで来たのは解るが、本当にヤンデレなの? って刺すって何だよ!? 物騒過ぎないかその彼女未満の人!


「お前らそんな事より自分の仕事をしろよ! まだ終わって無いからな!?」


 レンがツッコむ様に全員に注意する。そしてよく見るとオオミズチは千切れた体の断面から水の触手の様な物が出て来たかと思うと、それがくっ付き合って体を再生させていく。


「あ、ヤッパリまずは水を無くさないとダメか。」


 俺は最後の出入り口へと、今までと同じように駆け出す。ティルも表情をすぐに引き締めて気合を入れ直した様だ。


「さて、まずは補給を断たせてからになるが、斬るだけでコイツを最終的に倒せるのかが疑問だな。」


 レンがつぶやきながら斬霊刀を構え直すと、再生途中のオオミズチに次々と斬撃を加えて体をぶった切って行く。オオミズチも自分の体の再生に力を使っているのか攻撃はしてこなかった。


 オオミズチの回復力とレンの体力の勝負の様な感じだ。見ただけなら膠着状態だが、実際には体力が有限のこちらの方が圧倒的に不利だ。

 

「ガラント! お前は周囲を警戒しろ! どんな仕掛けが有るか解らないからな!」

「え? あ、ああ、解った! 周囲を警戒だな。」


 斬るのに一生懸命なレンのフォローをする様に言うと、ガラントの気の抜けた返事が返って来た。おいおい、コイツ大丈夫か? 一応ここは相手が有利なエリアだぞ?


 俺も自身の周りを警戒しながら3つ目の入り口を塞ぐために再び壁を使って走り出す。すると目前に奇妙な波紋が広がるのに気が付いた。


「ミズチが入って来てるのか!」


 最後の出入り口付近に上層で見たサイズのミズチが三匹、姿を現すのが見えた。


「このまま撃っても倒せるか? 強引にかいくぐって出入り口だけ塞ぐか……。」


 あまり時間は無い。こいつらをどうにかしないとレンの方へと行ってしまう。そう考えてシンプルな答えにしがみ付こうとする思考をティルが一喝する。


「またケガをする気! 自分も大事にしなさい!」


 怒声を出すと同時にティルが表に切り替わる。そして壁に立った状態で月光丸を壁から引き抜いて空洞の中心部へと剣先を向ける。


「悪いけど貯めた力を使わせてもらうわよ!」


 剣先に火球が二つ作られた。そしてどんどん大きくなって行くのが見える。炎の色は青色だ、これはまさか。


「ちょっと待て! その火力はエクスプロージョンじゃない! お前ここでそれを撃つ気か!」

「安心しなさい、この前の一段階下の精霊術よ。スターライト・エクスプロージョン!」


 この前より一回り小さい青い火球が打ち出されると空洞の中心部へと即時に着弾する。そして物凄い熱風と爆音、振動が空間内に反響する。


 水を空洞内から弾き出したり蒸発させながら土煙と水蒸気が辺り一帯を包み込む。

レンとオオミズチも吹き飛ばされたのか、壁に打ちつけられていた。


「タツミはすぐに最後の出入り口を塞いで! 今なら水が吹き飛んでるのと高熱で奴らの動きも弱ってるわ! レンはすぐに立って! 大してダメージは無い筈よ!」


 ティルがすぐに指示を出す。俺が表に戻ると辺りは水が吹き飛んでミズチの姿も見えない。急いで月虹丸を壁に刺し直して助走を開始する。


 空洞の外側から吹き飛んだ水が戻ろうとしているのが見える。その中にミズチ達が潜んでいるのも何となく解る。水が戻るのが早いか俺の移動が速いかの勝負だ。


「ティル! 疲れているだろうがもっと加速だ!」


 今のままだと塞ぐための溶岩の量が足りない。もっと助走距離が必要だ、そしてそれを補うために更にティルに加速させながら蛇行して距離を稼ぐ。


「しっかり耐えなさいよ! 相棒!」


 ティルが気合を入れて加速する。出入口まであと数メートル、そして押し寄せる水も目の前だ。


 俺達は壁から水の吹き飛んだ地面へと戻り最後の直線へと進む。そして水が押し寄せると同時に貯めた溶岩を放出する!


「地摺り残月!」


 溶岩と水がぶつかり合う。水の先頭にはミズチ達が数匹隠れていた様で、溶岩に触れて気味の悪い悲鳴のような奇声が聞こえた。


 しかし、溶岩はミズチ達に負ける事無く水を押し返すと、無事に出入口を溶岩で塞ぐことが完了した。


 そして俺達は一息つく暇もなくレンの方を振り返る。いくら先程のエクスプロージョンで水を吹き飛ばしたとは言えども油断は大敵だ。


「タツミ! 大技を使うなら言えよ! 熱いだろうが!」


 レンはすぐに体勢を立て直してオオミズチを斬り裂き続けていた。苦情は後でティルの方に言ってくれ。しかし付近の水は無くなってもオオミズチは相変わらず再生をくり返している。


「さっきの熱量でも全然小さくなってない……、ヤッパリ集合精霊レベルだと相性不利は大きいわね。」


 ティルが悔しそうに言っている。まぁ相性もだし、回復も考えれば仕方ない事なのかもしれない。しかしこのままだと決定打が無いままだ。


「おい、タツミ。お前は氷の精霊術も使えるのだよな? オオミズチの切り飛ばした部位を凍らせる事は出来るか?」


 ガラントが確認する様に聞いて来た。ナルホド、凍らせて少しづつ力を削いでいくと言う事か。


「やって見る、レン! 適当なサイズに斬れたらこっちに飛ばしてくれ!」


 レンは斬霊刀を勢い良く振り回し続けているので下手に近づくと俺が斬られてしまう。


「この状況で注文付けるなよ!」


 悪態をつきながらも斬った部位を器用に斬霊刀の横腹部分に乗せる。そして振る動作を利用してこちらに投げて来た。


「アイツ、相変わらず器用な剣捌きだな。」


 呆れながらもグニョグニョ動くオオミズチの一部を見る、胴体の太ささが2メートル程か? 厚さは50㎝位と言ったところか……これでもデカいのだが、それを違和感無く斬る斬霊刀の大きさに呆れてしまう。


「再生する前に凍らせてしまえば……」


 俺は月虹丸に冷気を纏わせてオオミズチの切れ端に刺し込み凍らせようとしたが、オオミズチ自体の精霊力が強くて凍らせる事が出来なかった。


「ヤッパリ精霊力が通った水だから、凍らせるならそれ以上の氷の精霊力か、地摺り残月の様な複合属性技を使うかね……でも氷と相性が良い属性は……」


 ティルが現状を見てつぶやいた。確かに複合属性技は威力が跳ね上がるのは間違いないのだが、手持ち属性で氷と相性が良いのは無い。


「まぁ、要するに……俺の力が欲しいという事で良いかな? ティルちゃんの頼みなら聞いてやらない事も無いぜ?」


 ガラントが状況を察して話しかけて来たが……ティルがお願いしたら良いのかよ!? どんだけ女に甘いんだよ!


「仕方ないようね……ガラント、お願いだからタツミに力を貸して……お・ね・が・い。」


 ティルが聞いた事も無い様な甘えた声でガラントにお願いした……いや、それは悪ノリなのか? ヒジリが聞いたら絶対に怒りそうな言い方だったぞ?


「し、仕方ないな……レン。少しだけ離れるぞ! お前の親友の力になって来る。」

「かなり文句を付けたいところだが……行ってこい! 斬霊刀の維持はお前無しでは5分が限界だからな! それまでに戻って来い!」


 レンが叫ぶとガラントが分離してこちらへと駆け出して来る。流石に今の流れには文句を言いたいが、状況的にそんな時間は無かった。


 見た目一緒で髪と瞳の色だけが違う親友の姿を見ると違和感を覚えるが、俺もガラントの方へと走り出す。


「タツミ、私もこの空間では存在維持は長く出来ないから。早く私を回収してね?」


 ティルが分離して俺から離れた。確かに前にハッキネンが火の精霊界に居た時に言っていたが、消滅属性の世界で精霊が存在を維持する方が異常と言っていたな。更にここは精霊力が濃い龍穴内だ、思ったよりも時間が無い事を再認識させられる。


「分かった、絶対に消滅するなよ!」


 ティルに声を掛けると同時にガラントと向かい合う距離になる。そして握手をして口上を述べた。


「俺は『工藤 辰巳』、全員で生きて帰るぞ! よろしくな。」

「俺は『ガラント=イノディテンス』だ、皆を助けるためだ。宜しくな。」


 俺達は全員が助かる為と言う心のベクトルを合わせる。そして次の瞬間にガラントは水の泡沫の様に姿を変えて俺の中へと入って来た。

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