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第78話 流水刀

 オオミズチが水面から顔を出してこちらを見ている。


「なぁ、あの質量相手にレンの技って通用するのか?」


 俺は先程までの下位精霊の様にレンの水圧弾や流水刀が効くイメージが出来なかった。


「単純だ、相手の防御力よりもこちらの精霊術の出力が大きければダメージを与えられる。だから試すしかない。」


 ガラントが説明すると、俺とレンはお互いに視線を送り合うと同時に左右に分かれて攻撃をしようと素早く移動を開始する。


「ギャシャァァァ!」


 それを見たオオミズチは叫ぶと同時にレンの方に向かって直径1メートル程の水鉄砲を吐き出して来た。


「ぬお! ハヤ!」


 鉄砲水の速さにレンは避けきれないと判断したのか、流水刀を地面に突き刺して水圧弾を地面に向けて発射すると、その反動を利用した加速で避ける事に成功した。


 鉄砲水は壁に当たると、爆発でも起こしたような音と水しぶきを上げて壁を深く削っていた。


「アレは……即死するな。」


 レンが後ろを見て唖然としていた。


「レン! 前を見ろ! 次が来るぞ!」


 ガラントが叫ぶとオオミズチは再び口を大きく空けて鉄砲水を吐き出した。レンは流水刀を水面に突き刺しながら水圧弾を発射した加速を利用して、回避しながら距離を詰めていく。


 レンの方にオオミズチの気が行っているうちに俺も距離を詰める。地面を凍らせている時点で地摺り残月は使えない。ならば凍らせるのが最大の攻撃手段だろう。


 レンが回避に専念しつつ距離を詰めて来るのに気を取られているオオミズチの背後まで近づくと月虹丸に冷気を纏わせて斬りつける。


「あ……。」


 次の瞬間、俺の間抜けな声が出てしまった。ええ、俺の精霊術じゃ凍るどころか表皮の水流に弾かれて吹き飛ばされてましたが何か!?


「表皮が激しい水流で守られている? まさに攻防一体の皮膚かよ。」


 オオミズチがレンばかりを狙っているのは脅威になるのはレンだけだからか! 俺は敵にすらならないと判断されて無視されていたのだ。


「タツミ! ヘコむのは後にしろ! 取りあえず何とか隙を作ってくれ。このままじゃジリ貧だ!」


 レンは回避を続けながらも一定距離から近づけない様だ。


「状況がよろしく無いわね。取りあえず状況を観察し直しなさいと。」


 ティルに言われて改めて周りを見回す。先程は慌てていたので確認が甘かったが、ここの空洞はおおよそ直径30メートル程の空間だ。


 オオミズチの大きさからすればかなり狭い空間だ、逃げ回るのにも不向きだから恐らく狩場がここと言う事なのか? そしてこの空洞に入る為の出入り口らしきものは3つだけで、容易に逃げ道を塞ぎやすいように見えた。


「逃げずらい状況を作っているな、この空洞全てを凍らせるとなると俺の力じゃ無理だ。」


 足場として凍らせれるのは空洞の半分が良い所で、反対側に居るレンは既に水上歩行をしながら戦っている。


「ねぇ、タブレスはミズチは水が有る限り倒せないと言っていたでしょ?」


 ティル悩んでいる俺に思いついたように声を掛けて来た。


「そうだが、何かいい案でも有るのか?」

「まずは出入り口を溶岩で塞いで、水が入って来ない様にしたら? そして後は時間をかけて全部の水を凍らせれば?」


 ナルホド、逃げるのでは無くて相手の補給を断つのか。それにヒジリ達なら溶岩が固まっても岩肌の違いで違和感に気付くだろうから援軍が来る妨げにはならないだろう。


「分かった、やって見よう。レン! 少しの間何とか頑張って避けてくれ!」


 叫ぶとレンは無言で頷いて回避を続けている。流石は親友だ、意思疎通がしやすいし無言で信じてくれている。


「ティル、行くぞ! 地面が使えないなら……。」


 俺は左手に月虹丸を逆手に構える。右手を後ろに突き出してティルに一瞬変わってもらって加速用の火球を出してもらい、一気に壁へと移動する。


「行くぞティル。この前の様に加速しながら一気に全部の入り口を塞ぐぞ!」

「ほいほい、行くわよ!」


 楽しそうなティルの返事が返ってくる。俺は壁に月虹丸を刺して右手を後ろに向けたまま、火球を爆発させて加速していく。前程の加速では無いが今はこれで十分だ。


 当然、火球を出すたびに一瞬だけティルに切り替わるのを高速で続けているのだが、何と言うか意外と出来るものだな。


「ギャシャァァァァ!」


 オオミズチが爆発音に気が付いてこちらを見て来た。流石に何かを察したのかこちらに向けて鉄砲水を噴き出して来る。


「ティル! 角度を変えながら壁面移動するぞ!」

「はいな!」


 俺は自分の体を浮かせると、足先だけ氷の精霊術を使って壁にくっ付きながら加速を維持しつつ走り続ける。火球の出力は全てティル任せで調整してもらった。


 オオミズチの水鉄砲は俺の不規則な動きを捉えられずに空振りをくり返している。

 そして今度はオオミズチが俺に気を取られているうちに、レンが至近距離で流水刀を脇に構えて力を貯める。


「浮気性な奴は手痛い目に合うぜ!」


 レンは水圧弾を発射させてその反動を利用して高速でオオミズチを薙ぎ払う。そして勢いに体を委ねてそのまま回転して何度も切りつける回転斬りをくり出した。


「おぉ、何か解らんが凄い連続攻撃だな。」


 俺は遠めに見て感心しているとティルは冷静にオオミズチの姿を確認していた。


「ダメね、斬撃が浅すぎるわ。せめて両断できる位の刀身が無いとダメージにならない様ね。」

「確かに斬った跡がすぐに元に戻っているな。」


 ティルに言われてよく見るとオオミズチは無傷の状態に戻っていたのだ。流石にレンもすぐに気が付いて再び距離を取る。


「普通に斬るだけじゃダメか! 攻撃が浅い!」

「ならば俺の水圧弾で撃ち抜いてみるか? 弾を大きくすれば真っ二つに出来ないか?」


 レンとガラントはすぐに現状を把握して、いかにしてダメージを与えるかの検討をし直し始めた。


 だがこれでオオミズチのヘイトがレンに再び移った様で、俺への攻撃が止まった。この隙に出入口の1個目を塞ぎにかかる。


「まずは一つ目! 地摺り残月!」

「どっちかと言うと壁摺りだけどね?」


 余計なツッコミは要らんから! 緊張感をもう少し持てよ!?


 ティルのツッコミを余所にしてまずは最初の出入り口を溶岩で塞ぐ。流れる水に冷やされて勢いよく溶岩が固まって行くのが分かった。一番上までは塞げなかったが水が入って来ない状況に出来れば良いのだ。


「よし、次に行くぞ!」


「はいはい、せっかちな男は嫌われるわよ。もっと落ち着いて行動しなさいよ。」


 ティルは念の為に足場を凍らせておけと頭の中で目くばせをして来たのだ。確かに念の為に足場の確保も大事だと思って足元一帯を凍らせてから次の目標へと目を向けると、再び加速しつつ月虹丸の助走距離を稼いで溶岩を剣先に貯めていく。


「レン! 塞いだ所を破壊しない様に戦えよ!」


 俺が大声で叫ぶとレンはオオミズチから目を放さずに大声で返事だけする。


「ガラント、水圧弾はダメだな。下手に撃つとタツミが折角塞いだ水の出入り口が壊れる可能性が有る。ここは接近戦一択だ! 行くぞ! 流水大太刀るすいおおたち・斬霊刀!」


 レンが構え直すと流水刀はまるで斬馬刀の様な形状へと変化した。レンの身の丈の倍は有る大剣だ。


「ギャシャァァァァ!」


 オオミズチは相変わらず水鉄砲をレンに向かって放つが、レンは避けずに真正面から斬霊刀を正面に構えて大きく振りかぶる。


「チェストォォォォ!」


 大声で叫ぶと同時に大きな斬霊刀が水鉄砲を正面からぶつかり合う。そして力ずくで叩き斬るのかと思った瞬間、俺は自分の目を疑う光景を目の当たりにした。


「これが斬霊刀・一の太刀『流転』だぁぁぁぁ!」


 叫びながらレンの斬霊刀は水鉄砲とぶつかり合った瞬間、刀の軌道を流れる様に縦から横に切り替えると、水鉄砲がまるでくっ付いた様に斬霊刀の刀身に密着していた。


 そのまま斬霊刀を横薙ぎに一回転しながら振り抜くと、水鉄砲は刀身から離れてオオミズチの方へと向かって飛んで行ったのだ。


「え? あの大太刀で受け流してカウンター系の攻撃するのか? 無茶苦茶過ぎないか?」

「力を殺さずに円の回転で術のベクトルだけを操作してるわね、何て器用なのかしら。」


 俺とティルはそれを見て呆れていた。元々カウンター系が得意な剣道をしているし、受け流す技術が卓越していたのは知っているのだが……


「それを精霊術相手でも出来るのが凄いな……。」


 素直に感嘆の声を上げながら俺は二つ目の目標へと溶岩を打ち込んだのだった。


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