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第76話 蒸発させる程の力

 しばらくすると2層への降り口が見つかったが、入り口と同じような滝の様な状況になっていたので再びタブレスが重力壁を作って下へと降りて行く。


「しかし本当にあちこちから水が落ちて来てるな。これっていきなり水没とかしないよな?」


 落ちて来る大量の水を見ながらレンが不安そうに言うが、お約束のフラグだから思っても言葉に出すなと言いたい。


「その時点で生き残れないから、冗談でも不安にさせる様な事を言うのは止めておこうか?」


 俺が釘を刺すとレンは慌ててヒジリの方を見て様子を伺った。しかしヒジリは気にしている様子が無かった。


「ん? お、起きるか解らない事を心配しても仕方ないから。むむ、むしろ下位精霊の方に気を付けた方が現実的だと思うんだけど……。」


 全くの正論が帰ってきました。意外にヒジリってこういう時は冷静なのだなと思ってしまった。


「こういう時に有りもしない事で騒ぐのって、男の方が多い気がするわね。」


 ティルが追加でツッコんで来ましたがその通りだと思います。レンはそこまで言われて少し肩を落としていた。


「まぁ、何にせよ警戒するのは正しいだろ。一応周りだけじゃなくて頭上も注意しろよ。滝に紛れて下位精霊が出てくる可能性もゼロじゃない。」


 フォローと言わんばかりにガラントが警戒する様に呼び掛けて来た。確かにそっちの可能性は無きにしも非ずなので正しい意見だと思う。


「いや、レンが言ったのは正解だぞ。ここは水没する。」


 いきなりタブレスが真顔でレンのセリフを肯定してきて俺達は全員唖然とした表情でそちらの方を向いた。


「さっき言っていただろ。流れた水がどうなるのか。」

「つまり、下に貯まった水が一度全部上に噴き出すって事? 間欠泉みたいに?」


 思っていても口に出さなかった事をティルがサラッと言うと、タブレスは無言で頷いた。


「ほら、聞こえて来ただろ? あの音が来る前兆だ。」




 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……




 奥の方からと段々と何かの音が近づいて来るのが聞こえる。早速のフラグ回収かよ! どうすんだよコレ!


「全員、重力壁の中に入れ。」


 タブレスが再び重力壁を作って俺達を中に入れると、先程よりかなり大きい範囲で壁の範囲をドーム状に広げた。多分空気を確保する為に広くしたのだろう。


 それと同時に大量の水鉄砲の様な水流が龍穴内を満たして行った。どう考えても普通に巻き込まれたら溺死か壁に打ち付けられて圧死のコースしか考えられない勢いだった。


「こう言う事は先に言って欲しいんだが?」


 俺がタブレスに苦情を言う。しかし相変わらず気にしない様子で答えて来た。


「言ったところで対処方法は変わらん。これ以外だと貴様が土壁を作って安全エリアとしての空間を作るか、レンが水を操作して流れを操作するしか方法は無い。」


「いやいや、あんな水鉄砲みたいな水流を操作できるわけ無いだろうが!」


 レンが即時にツッコミを入れていた。しかし俺的にはヴァイの作り出した水の渦巻を考えると龍位精霊レベルなら可能な気がしなくもなかった。


「精霊術はイメージだ。出来ないと思った時点でそれは不可能になる。逆に出来ると思えばイメージ次第で力さえ有れば何でも出来ると思え。」


 タブレスはレンに教える様に説教を始めた。しかし大前提に『力が有れば』と言う所が問題な気もするのだが。


 10分程すると水流が段々と落ち着いて来た。水の流れが収まると、タブレスは重力壁を解除すると同時に周囲を警戒する。


「そしてこの水流と一緒に、下層から稀に精霊が流されてくるから気を付けろ。」


 だから! そう言う危険な事は先に説明しろと何度言えば! ……あ、コイツにとっては問題無いと言う事か? 


「ん? な、何かあそこの水の動きが変じゃない?」


 そう言うとヒジリが水が流れて来た方を指差すと水面から何か水の塊が浮き出て来たかと思うと、段々と蛇の様な形をして行くのが見えた。そして結構でかいのだが。


「アレは水の蛇か? と言うか見た目は(ミズチ)って感じだな。」


 レンが見た目でそう言うが、確かにどこぞのゲームで見たような水の蛇だな。蛇自体にも水の流れが有る様で、体の表面にハッキリと分かる程の水泡がチラホラと見えた。全長はおおよそ5メートル位か? 太さは首周り位は有るだろうか。


「確か水がある限り体を再生し続ける奴だ。ちなみにあいつの体の表面は水のヤスリの様な物で、触れると肉を削られる。巻きつかれたら終わりだから注意しろ。」


 水が有る限り再生ってどうやってこんな所で倒すんだよ! そして触れたら削られるって何!? 大根おろしみたいになるって事かよ!


「丁度良い、ヒジリ。やって見ろ。」


 タブレスがヒジリに戦いを促しているけど……ヒジリはちょっと嫌そうな顔をしたがタブレスの表情を見て諦めた様だ。


「わ、解りました……危なくなったら助けてね?」


 俺の方をチラッと見る。いや、むしろ俺もどうしたら良いか解んないぞ? でも不安にさせてもダメなので頷いておく。最悪の場合はエクスプロージョンを撃つ準備をティルに心の中で伝えた。


「いきます……『火焔翼かえんよく』!」


 ヒジリが火焔翼を展開すると猛烈な熱風が辺り一帯に発生する。そして足付近の水が煮立ち始めてあまりの熱さに俺は地面を隆起させて土の上に逃げた。当然の事ながらレンとタブレスも同じく避難してきた。


「なぁ、さっき見た時よりも熱量が上がってないか?」


 ハッキリと地上で見た時よりも熱い! 何で龍穴入って水の精霊力が濃い場所になっているのに火の精霊術の出力が上がるんだよ!


「恐らく使い慣れて来たと言う事だろう。慣れて練度が上がれば出力も上がる。」


 タブレスが納得した様に説明してきたが、それだけでは無い内容だと思うんだが?


「すぅー……」


 ヒジリが大きく深呼吸する様に息を吸い込む。そして溜め込んだ息を吐くと同時にミズチとヒジリが同時に動き出した。


 ミズチはその巨体をくねらせながら、不規則な動きで上下左右に動き回って距離を詰めて来る。対してヒジリはミズチに向けて火焔翼から燐羽弾を撃ち出すが、器用に避けながらミズチは接近してくる。


「動きが素早い!」


 ヒジリは焦りつつも後ろに下がって距離を維持しながら羽を撃ち続けるが、ミズチの近づく速度の方が圧倒的に早かった。


「ヒジリ!」


 俺が月虹丸を取り出して駆け付けようとすると、タブレスが俺の前に手を出して制止してきた。


「大丈夫だ。勝負にすらならん。」

「巻きつかれたら終わりなんだろ! 助けに行かないとすぐに巻きつかれるぞ!」


 タブレスの発言に後ろで慌てているレンが俺の代わりに文句を言った。俺も同意見だったがタブレスは落ち着き払っている。


「ミズチが巻き付いたら確かに終わりだ。ただし、向こうがな。」

「それは一体どう言う……?」


 話しているうちにミズチは既にヒジリの眼前へと迫っており、すぐにヒジリに巻き付くと異様な光景が目の前に広がった。


 巻きつかれる瞬間、ヒジリはしゃがみ込むと火焔翼がヒジリの体を覆い隠す様にその体を包んだ。そしてミズチは火焔翼の炎ごと消さんとばかりに巻き付いて行った。


 ジョリジョリと聞くだけで鳥肌が立つような音が聞こえて来るが、段々とそれは音を変えて来た。そう、電子ケトルのお湯が沸きあがる瞬間の様な勢い良く沸騰する音が。



 ゴポゴポゴポゴポ!



 次の瞬間ミズチの体が爆発する様に湯気と共にぜた。飛び散る水滴も空中で蒸発し、辺り一帯にはスチームが噴き出したような湯気が覆う。


「キシャー!」


 ミズチは残った水で体を再生させると、再びヒジリの方を向いて威嚇の様な鳴き声を出した。ヒジリも既に立ち上がってミズチを見据えており、そしてつぶやく。


燐羽弾りんうだんぜなさい。」


 ヒジリの声に反応して、先程撃ち出した地面に突き刺さっていた羽が次々に爆発する。大量の熱風と爆炎で付近の水分が一斉に蒸発を始めるのが肌で感じ取れた。


 俺達は慌てて作った土壁の陰に隠れて熱風の直撃を避けたが、余波だけでも火傷しそうな勢いだ。


 そして熱風が吹き止むのを確認してヒジリの方を見ると、水蒸気すら消え去る程の乾燥した空気が辺りを包んでいる。ミズチは水の龍穴内だと言うにもかかわらず完全に蒸発したのが理解できた。


「無茶苦茶な精霊術……特異能力とは言え、人間の出せる火力を超えている気がするのだけど。」


 ティルがあまりの光景に思わず口を開いた。


「アルセイン、今のはどう言う意味? まるで化け物を見た様な口ぶりじゃない?」


 ヒジリがそれを聞いてこちらを笑っていない笑顔でティルに文句を言って来た。同時に回りから水がゆっくりと流れ込んで元の水位へと戻って行く。


「いや、流石に今の火力は俺も驚いているんだが……一応ここ水の精霊界だからな? 他だともっと火力が上がるって事だろう? どうやったらそんな火力出せるんだよ?」


 俺がそう言うとヒジリはショックを受けたような顔でこちらを見て来た。


「な……た、タツミ君までそんな事言うの……。」


 ヒジリが若干涙目になっている。いや、褒めているんだよ! 別にイジメてる訳じゃ無いからな!


「あーあ、タツミが火神を泣かした。」

「女性を泣かせるとは、何て言うクズ野郎だ。」


 レンとガラントがここぞとばかりに突っ込んで来た。いやいや、そう言うオチは要らないからな!


「いやいや、事の発端はティルだろうが! それにあれは誉め言葉のつもりだ!」


 俺が反射的に叫ぶと、レンはニヤニヤしながらこっちを見ている。


「女に責任を擦り付けたぞ、どうするよガラント。」

「本当に最低だな。そこは男が罪をかぶって女性を助ける所だろうが。全くもって女性の扱いが出来てねぇな。」


 コイツら! いつものノリなのだがヒジリが居る状況では止めて欲しいのだが!


「タツミ君、罰として後で何か言う事一つ聞いて貰います。」


 振り返るといつの間にか俺の真後ろに来ていたヒジリが怒った顔で俺を見上げていた。有無を言わさない迫力が有るが、最初に言ったのティルじゃん!


「わ……解りました。」

「よし、では許してあげます。」


 そう言うとヒジリはニッコリとして振り返って先へと進もうとする。しかし数歩進んだ所で立ち止まる。


「アルセインは別で帰ったらお説教だからね? 覚悟しなさいよ。」


 今まで聞いた事の無い様な低い声でヒジリはティルに語り掛けた。ティルが恐れおののいた表情でビクビク震えているのが分かった。


(流石に女性に対して化け物扱いは失礼過ぎたな。次からは気を付けろよ。)


 俺は心の中でティルに語りかけた。たまにはこう言うお灸を据えられるのもコイツにとっては良いだろう。


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