第74話 特異能力のリスク
結局あの後はいつものボケツッコミが炸裂しまくった(ほとんどティルとハッキネンが悪い)話し合いとなり、翌日から移動開始となった。
レンやガラントの能力の話や、ヒジリの新しい精霊術に関しての説明は時間切れになったので、移動しながら話す事になった。まぁ人数が減る分少しは静かになる事を期待したい。
え? ティルが居るから無理だって? 俺もそう思うけどな! ケガのせいで最近静かだったけど、回復したら前の調子に戻りやがった!
「早くしなさい。女の子を待たせるんじゃないわよ!」
「分かってるって、急かすなよ。」
いつもの感じの会話をしながら部屋を出ると、リビングには皆が既に待っていた。
「相変わらず騒がしいが、準備は出来たのだろうな?」
タブレスが確認をして来る。準備と言っても就寝用の道具と簡易テントだけだ。後は元気な体さえあれば問題無い。
「それは物理的な意味か? それとも心の方の意味か?」
「それ位軽口が叩けるなら大丈夫だろう。」
ちょっと皮肉を交えて返してやったが、タブレスにはこう言うのは効果が無いらしく普通に返されてしまった。
「ま、今回は俺も居るから少しは任せな。 精霊術だけなら俺の方が上らしいしな。」
代わりにレンが嫌味を返して来た。まぁここでいつものノリで話しても良いのだが、話が終わらなくなるしタブレスの真面目な回答が来ても疲れるので適当に返事をしておこう。
「ああ、頼むな。一応は病み上がりだから無理はしないようにする。」
俺達は外に出て次の目的地へと歩き出した。留守番組のリィムは最後まで不服そうな顔をしていた。
しばらく歩いてから俺は3人の精霊術について聞いてみた。
「レンとガラントの精霊術ってどんなのが得意なんだ?」
横を歩いているレンに聞いてみると、レンは右腕を前に伸ばして手で何かを握る素振りを見せると、そこから水が溢れて日本刀のような形状になった。
「これが俺の精霊術で『流水刀』だ。」
俺に見せる様に流水刀を見せて来た。よく見るとただの水の刀身の様に見えたが、耳を澄ませると勢い良く流れる様な独特の高音を発していた。
「もしかして、刀身部分が高速回転しているのか?」
気が付いて問いかけると自慢気に胸を張って頷いた。
「よく気が付いたな。高速回転で水圧を上げて切れ味を良くしているんだ。だがそれだけじゃ無いぞ。」
レンがそう言うと流水刀は形状を変化させた。刀身が体以上に大きい……まるで斬馬刀の様な形状だった。
「これが流水大太刀『斬霊刀』、当然の威力重視型だ。そして……」
更に形状が変化すると、今度は小ぶりな刀二本に形を変えていった。
「流水二刀『坤龍刀』と『乾龍刀』だ。合わせて『乾坤刀』と呼んでいる。受け流しの乾龍刀と返しの坤龍刀ってやつだな。」
「最後はカウンター型の剣道をやるお前らしい性能だな……」
レンの剣道はカウンター型なので最後の形態は納得したが……斬霊刀は随分とスタイルに合ってない様にも見える。
「ちなみにどの形態でも精霊術を表面張力の様にくっ付けて、そのまま円を描く様な剣閃で相手に打ち返せる。相手に合わせて形態を変える感じだな。」
「うわ……打ち返すとか、相手にしたく無いタイプの精霊術だな。」
要するにどの形態でもカウンターしてくる訳か……ティルの様な遠距離型の精霊だと相手にしたく無いだろうな……。
「後はガラントとの合わせ技だな。ガラント!」
そう言うと一瞬だけレンの髪と瞳が青色に変わった。ガラントに切り替わったのだろうがすぐに元に戻るとレンの手の上に拳大の水球が出来上がっていた。
「コレが、俺らの技だ。」
レンは腕を伸ばして流水刀の切っ先を遠くの方へと向ける。そして水球を掴んで刀身の峰の根元部分に置くと水球が刀身の沿って物凄い勢いで発射され、砂浜で炸裂すると水球の大きさからは考えられない程の大量の水飛沫を上げた。
「これが俺達の精霊術『水圧弾』だ。ガラントは圧縮水球を作るのが得意なんだ、それを俺の流水刀で撃ち出す。接近戦になったら俺の流水刀の出番と言う事だな。」
リィム達と同じで二人組での戦い方と言うのを見せられている様でちょっと羨ましくなった。
「本当にコンビと言う感じの戦い方をするんだな。」
俺がボソリとつぶやくと、レンは不思議そうな顔をしていた。
「自分で具現化した精霊なんだからコンビネーションの息を合わせるの何て朝飯前だろうが?」
「レン、コイツは自分の具現化精霊が居ないのだから、その説明では理解できないだろう。羨ましがる気持ちも分からなくは無いけどな。」
ガラントが冷静に俺の感情を説明した。ちょっと鼻につく言い方だが間違ってはいない。本来の人と精霊の合わせ技を見せられると半端な自分が悔しい気持ちになる。
「そう思っているなら二人で特訓でもする? 何か私達も合体技を作ってみようか?」
ティルが中から言って来たが、俺は少し冷静に考えてみた。
「お前の場合は爆裂弾を撃つしか技が無いと思ったんだが間違ってないよな? どうやって合わせ技にするんだよ。そもそもヒジリとも合わせ技が無いだろうが。この前みたいな加速用や発射用の弾を作る位じゃないか?」
「そう言われると……そうね。」
俺とティルが二人で考え込んだが答えは出る気がしないので次の話題に切り替える事にした。
「で、ヒジリの新しい精霊術ってどんなのなんだ?」
逆隣に居たヒジリに今度は声を掛けてみるとヒジリはちょっと困った顔をしながら返事をして来た。
「まだ制御が上手く出来てないから少し離れて。後、熱いと思うから気を付けてね?」
ヒジリは前に出ると目を閉じて意識を集中し始めた。するとヒジリの周りに淡い炎が発生した。それは段々とヒジリの背中に集まり出して1対の翼になったのだ。
翼が出来上がると同時に辺りの気温が一気に引き上がるのを感じる。熱量が物凄いのだ、これは至近距離だと味方も被害が出そうだな。
「何度見ても違和感が凄いわ。」
その翼を見たティルが不思議そうな声でつぶやいた。気になったのでそのまま聞いて見る事にした。
「何に違和感を感じるんだ?」
「ここは水の精霊界なのに、あの炎の翼はその影響を受けてる気配が無いのよ。」
「単純に出力が高いとかと言う事じゃ無いのか?」
「いえ、人間だと感じずらいでしょうけど、精霊から見れば影響を受けていないのがハッキリと分かるわ。アレは精霊術の理から外れている気がするの。」
ティルが難しそうな顔をしてるのが解る。精霊術の理から外れていると言うのはどう言う事なのだろうか? タブレスなら何か解るだろうか? そう思って見ると納得している様な顔をして見ていた。
「ナルホドな。『大いなる再生者』の『火焔翼』か……久しぶりに見た。」
「あの精霊術も『大いなる再生者』なのか? 本当にチート能力って感じがするな……って知っているのか?」
「当然だ、むしろ過去の所持者にも何度か会った事が有る。この力はトラブルを招きやすいからな、下手に言わなかったのは正しい。今後もそうしておけ。」
タブレスは色々と察したようで特に黙っていた俺達を攻める様子は無かった。
「で、火神。その翼の能力は?」
俺とタブレスが話しているのを横目に火焔翼を消したヒジリにレンが聞くと、炎の羽を打ち出せる事や消耗が激しい事などを教えてくれた。
その後、タブレスが追加で攻防一体の『火焔翼』と回復能力の『再生の炎』と自己回復の『不死鳥の灰』と言う術名を教えてくれたのだ。そして特異能力の力は術者の精神を削る性質が有る事、そして使い過ぎは精神の摩耗を早めるのだそうだ。
「以前の使い手が言っていたが、むやみに使わない様に気を付けろ。」
「そそ、そ、それでリバティは使うなと……」
リバティ? 聞き慣れない名前が出て来たな? タブレスの方を見ると驚いた顔をしていた。
「既に会ったのか? 特異能力の人格部分に接触して無事だというのか? ……いや、まだ大人しい方だからか?」
「え? あ、あの……リバティで良いのか解りませんが、この前遭遇した『白い死神』って人がそう呼んでいたので。たまにアルセイン以外の声が頭に響いて来る時が有ったので……きっとその事かなと思って。」
「死神に遭遇しただと!? よく無事だったな……特異能力者達は神器持ちよりも厄介な存在だ。遭遇して生きているだけでも奇跡に近い。そしてたまに聞こえる声か……意図的に自分の存在を抑えているのか。」
タブレスは色々な情報が一気に出されて混乱しているが、こちらは全く理解できない。頼むから説明をして欲しいと思っていると深刻そうな表情で口を開いた。
「特異能力は人格を持っている。そしてスキルを与えた者が力を使い過ぎたり、時間経過で精神が摩耗した時に肉体の支配権を奪い取るんだ。ただし、スキルの力に耐えられなくてその前に肉体が崩壊する者もたくさん見て来たがな。」
その言葉を聞いて俺は血の気が引くのを感じた。明らかに俺が一番ヒジリに特異能力を使わせてしまっているのだから。
「い、今の所は大丈夫です。それに疲れても『不死鳥の灰』でしたっけ? あれでちゃんと回復出来ましたし……」
「『大いなる再生者』は自己回復も有るからか比較的安全な方だが気を付けろ、人格部分の『リバティ』は温和な性格で、出来るだけ人間には危害を与えない様にしていると前の術者から聞いた事は有るが油断するな。」
タブレスの説明を聞いた俺はケガに気を付けて、ヒジリに無茶をさせてはいけないと心に誓ったのだった。




