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第73話 再び別行動

「流石にこのケガは酷いわ。よく動けたね?」


 ヒジリが呆れ顔で治療をしてくれている。当然の事ながら豊穣ハーベストでは完治が不可能なので、コッソリと「再生の炎」を使用して治しているのが分かった。


「と、とりあえず周りに気付かれない様に力を使うと、この速度での治療が限界だからもう数日はかかりそうだね。一番酷い腹部からやってるけど終わるまでは絶対安静だからね!」


 ヒジリから再三の注意が飛んで来た。流石に素直に頷いて安静にする事にした。


「分かってる。皆に心配させない様にする。」

「なら良いけど……私は皆に説明して来るから、ちゃんと寝ててね?」


 そう言ってヒジリは部屋を出て、帰って来た他のメンツに現状を説明している声が聞こえた。俺は治療が効いて来たのか睡魔に襲われて来たので、素直に眠る事にした。





 そして治療が始まって数日後、ようやく完治したのだった。


「どう? ちゃんと手は動く?」


 何度も自分の手を握る感触を確かめる。問題無く力も入るし痛みも無い。完全に元通りだ。


「頬の傷も治しておいたから、これで外傷も全部治った筈よ。」


 ヒジリは笑顔で俺の頬の傷の後を指でなぞる。その仕草にドキッとしたのは言うまでもない。


「頬の傷ももう少し深かったら視力を失ってたわよ。どんな傷も軽く見ないでね?」


 あ、そう言う意味で触ってたのか。一瞬なにかされるのかとドキドキしたんだが自意識過剰でした。


「あ、ああ、気を付けるよ。いつもありがとう。」


 照れ臭かったのでベットから立ち上がって部屋を出ようとする。ヒジリは俺が立ち上がるとベッド横の椅子から立ち上がって一緒に皆の待つリビングへと移動した。


 そこにはルリを含めた全員がテーブルを囲む様に椅子に座っていた。俺の姿を確認するとタブレスがやっとかと言う表情で口を開いた。


「完璧に治ったか?」

「ああ、もう大丈夫だ。ヒジリの精霊術は流石だよ。」


 皆に手のひらを見せながらしっかりと手を握ったり開いたりして見せる。ケガを見ていたリィムは余計にも安堵の表情を浮かべていた。


「レンとガラントにも貴様の特異体質の話を詳しくした。レン的には複数契約は良いそうだが、ガラントはお前の人間性を見てからじゃないとダメと言っている。」


 あ、そっちの話も進めていたのか。相変わらず淡々と仕事をこなす真面目精霊だな。


「分かった。ガラント、その気になったら教えてくれ……ってレンの顔に向かって言うのも違和感有るが……」

「それを面と向かって言われる俺も違和感が酷いがな。」


 俺とレンはそう言うとお互いに笑い合う。懐かしい感覚だ。


「さて、後は『龍穴りゅうけつ』だが、もう少し先の集落の近くに有る事が分かった。そしてここに残るメンバーを決めて移動を開始する。」


 そんな俺達を気にせずに淡々とタブレスが話を進める。相変わらずクソ真面目だ。


「ここに残るのはルリとルーリア、そしてリィムとハッキネンだ。残ったメンツで龍穴へと挑む。」


 ん? 何か想定外の組み合わせだ。てっきり火属性のヒジリとティルの方が留守番だと思っていた。


「兄上、何故私の方が留守番なのですか?」


 リィムが不服そうにしている。まぁ龍穴の様な危険な場所に行くのなら属性的にも適したリィムでは無く、ヒジリを連れて行くのは誰が見ても妙に思うだろう。


「クリューエルが連れて来るナギと言う人間を待っているのだが、待ち合わせ場所に居る筈のレンが居ないとなれば、クリューエルをよく見知ったリィムが残る方が混乱は少ないだろう。」


 そう言われてリィムは相変わらず不服そうだが言葉を飲み込んだ。


「ヒジリ、ルリから話は聞いたがお前はあくまで回復役だ。それは忘れるなよ。」

「解ってます。新しく覚えた精霊術は消耗が激しいので……」


 ん? 何か新しい精霊術を覚えたと言う事か? 気になるので後で余裕のある時に見せてもらおう。


「それにしてもナギちゃんまで来てるなんて、何か偶然とは思えない位に知り合いに会いますね。」


 ヒジリが六波羅さんの名前を聞いて、偶然にしては知り合いが多すぎると思っている様だ。しかし災害が原因なら付近に居た人間なら可能性は有るのだから、考えすぎではと思ってしまった。


「まぁ、災害が原因って言うなら可能性は無い訳じゃ無いだろう。ナギだって偶然だろうし……。」


 俺はレンの目が泳いでいるのに気が付いた。もしかしてコイツ……


「なぁレン。お前、精霊界に来た時に『誰』と『どこ』にいた?」


 俺の質問にレンがビクッと体を震わせた。それで俺は何となく答えを察したが、ヒジリや他の人は意味が分かって無い様だった。


 このままは可哀想かと思って、俺は無言でレンの隣まで行き腕をレンの首に回して小声でつぶやいた。


「六波羅さんと当日一緒に居たな?」

「あ、ああ、あの、いや、そうだけど、勉強会をしていただけだ。決してやましい事はして無いぞ。」


 レンは慌てているが、この表情はウソは無い様だ。長年の付き合いからウソをついているかお互いにすぐに解ってしまう。


「そう言う事にしておいてやる。一応まだ友達以上恋人未満なんだろ?」

「そうだ、ファーストキスだってまだ何だから信じろ!」


 うん、最後の下りは逆にイラつくからむしろ要らなかったと思う。取りあえず俺は納得してレンを開放して会話に戻る事にした。


「さて、それでは龍穴に行く際だが。タツミはそのままティルと同化しておけ。最悪戦力は俺一人で何とかする。お前はトドメ役で付いて来る気持ちで良い。」


 タブレスの発言が酷い! いや否定は出来ないんだけど! 解りましたよ、大人しくしておきますから!


「ま、まぁ。タツミさん兄上の戦闘力は確かですから、下手に一緒に戦うと巻き添えを喰らうからという意味も込めている筈です。」


 リィムが慰めてきたが本当だろうか? 疑いの眼差しを向ける。


「事実だ、毎回イジけるな。ウザい。」


 ハッキネンの冷静な突っ込み来ましたー! 解ってるけど心のダメージがエグイ!


「なぁ、火神。いつもこんな感じなのか?」


 その様子を気の毒そうな顔で後ろで見ていたレンがヒジリに小声で訪ねていた。


「そうね、いつもこんな感じよ。周りに居る人や精霊が強すぎるだけだと思うんだけどね……。」

「そうか……俺も気を付けて行動するか。」


 おい、しっかり聞こえてるからな。龍穴ではお前の実力を見せてもらうからな! 内容次第じゃこっち側(役立たず)の世界だからな!


「レンの実力が楽しみだなぁ。」


 振り返ってレンに視線を送ってやった。イジられ耐性の無いレンはこの環境に耐えられるかな? 今から楽しみだぜ。


「安心しろ、レンは強い。精霊の俺が言うんだから嘘は無いぞ。むしろ貴様よりは全然強い。」


 不意にガラントの声が聞こえた。俺の心情を読み取ったのか、少し不機嫌そうな声だった。流石に俺とレンの間ならいつもの悪ふざけだが、ガラントにとってはそうでは無いらしい。


「あ、すまん。別にそう言う意味で思ったわけじゃ……。」

「やれやれ、これがレンにとってのライバルとか本当なのか? 正直に言って下手な精霊よりも弱いじゃないか。」


 それを言われると何とも否定しがたいので困ってしまう。


「しかも何だお前は? あんな可愛い精霊に抱きつかれて羨ましいにもほどが有るだろうが! むしろそっちの方がムカつくんだよ! ちゃんと俺にも紹介しろ!」


 え? そっちの方にイラついてたの? 軟派精霊様は伊達では無いってか? この空気の中でティルを紹介するのは嫌だなぁ……。


 ティルはあの後は俺から出る事も無くずっと同化中なので、ガラントには直接会っていない状態だ。


「わざわざ出るのも面倒だから嫌よ。それに私がそう言う事をするのは契約者だけよ。一応は私のご主人様ですからね!」


 ティルが声だけで反応して来たのだが、その言い方! ガラントだけじゃなくてリィムやヒジリの視線も少し痛いんですが! レンやルリに至ってはドン引き顔をしてるんですが!


「だから、お前のその誤解を招く様な発言はやめようか? そろそろ俺は慣れて来たけど他の皆の視線が痛いんだが?」


 ティルに意識を向けると楽しそうな顔で様子を伺っている。こんなやり取りも久しぶりな日常と言う気がして、ちょっと和んでしまった。


「そこでニヤケてると本当に変態に見える。」


 ハッキネンが和んでいる俺を見てツッコミを入れて来たが、この流れが日常と言う気がしてしまっている。いや、冷静に考えれば宜しくは無いのだが!


「変態じゃねぇ! この流れがいつもの日常だなと思っただけだ!」

「それが日常って……かなりアルセインに毒させてると思うよ。」


 ヒジリが微妙そうな表情で後ろでつぶやいた。他の皆も無言でうなずいているのが視界に入る。


「まぁ……あれだ。頑張れ。」


 レンが目を背けながら俺の肩に手を乗せて来た。そう思うならフォローの一つでも入れて欲しいものだと思うのだが? と言うか全員揃うとこの流れがお約束なのをどうにかしてもらいたい。


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