第71話 精霊の性格
どこから説明したら良いのかとレンが頭を抱えて悩んでいる。流石にあの軟派な精霊がレンの感情から生まれたと言うのが信じがたい。
「まず、タツミには少し話していたが、俺が気になる子が居ると言うのは覚えているよな?」
レンは顔を真っ赤にしながら自分の恋バナを話し始めた。うん、あの感じは絶対にそっち方面の感情だよな!?
「確か、バレンタインにチョコ貰ってた人か? 一緒にお返しを買いに付き合わされてエライ目に合ったばかりだよな? 後、中学の卒業式でもお前を迎えに来ていた記憶が有るんだが?」
俺も覚えているだけの内容を確認してみる。そして隣で恋バナが始まったと分かったリィムが目を輝かせているのは見なかった事にしておこう。
「まぁ、お互いの好意は分かっているんだが……付き合うのは同じ大学受かったらと言う話になってはいるんだが……。」
ああ! 何この甘酸っぱい雰囲気を醸し出してるこの野郎は! 何かムカつくんだが! さっさとくっ付けよ!
「それは俗に言う『友達以上、恋人未満』と言う事ですか?」
隣りで聞いてたリィムが身を乗り出して興味津々に質問をし始めたよ! やめてくれ! 俺のHPが0になる!
「まぁ……そんな所だな。」
「何故に正式に付き合わないのですか?」
「いや、お互いの性格が束縛が強すぎるって自覚してるから、同じ大学通えないと絶対上手く行かないからという事で……。」
「ナルホド。自己分析はしっかりと出来ていると言う事なのですね。」
男が顔を真っ赤にして言うな! そんな需要無いから! えっと……この質問いつまで続くんですか? そろそろ本題に戻りませんか?
あ、逆隣にいるタブレスは会話について行けなくて無の境地に達したような顔で現場を眺めている……。
「まぁ、そんな約束をしていてだな……精霊界に来た時にナギに……あ、ナギってのはその女の子の名前で、ナギと付き合わないまま死ねるかって感情と、もし俺が死んだらナギを悲しむんだろうと思ったら、そんな思いはさせたくないって感情でアレが具現化したんだ……。」
あ、結局はこの話って全部が繋がっていたのか……つーか9割方ただの惚気を言われただけの様な気がするのは気のせいか!?
「純愛ですね~良いですね~。」
何かリィムがうっとりとした表情で話しを聞いている。何かキャラ変わってませんか?
「で、そんな感情から具現化した割には、随分と軟派な精霊だよな?」
「それは俺が聞きたい位だ。」
話が進まないので冷静に俺がツッコむとレンが頭を抱えている。何と言うか精霊の性格って具現化した人間と一部の性格が正反対になっている気がする。
「そうだろうな。精霊は具現化主の一番抑圧された感情を素直に出す癖がある。お前の場合はその女性との最後の告白の部分での踏み切りたいと言う、抑圧された感情の部分がより顕著に出て来たのだろう。」
タブレスがサラッと爆弾発言をして来た。え? そうなの? 今頃何でそんな大事な事を言うんだよ!? もっと早く教えてくれよ!
「つまり、軟派な部分はクソ真面目に硬派な所の裏返し部分って事なのか?」
俺は衝撃を受けているレンを無視してタブレスに確認してみると、無言で頷いていた。確かにレンはかなり恋愛に関しては頭が固い所が有る。
まぁ、ほとんどレンは姉の影響で恋愛に無関係とばかり思っていたが、いつの間にか例の子と仲良くなり出し、さっさと付き合えば良いのにと言った時には順番と言うものが有るからとか言っていたな。
「つまり本音では、もっと気楽に声を掛けたいと言う事か……。」
レンの方を振り返って言うと、レンは机に突っ伏したまま動いてない。一気に即死クラスの心のダメージを負った様だ。
「あれ? つまりハッキネンの性格は……。」
「私の場合は生い立ちも関係して、相手にハッキリと物事を言えないと言う感情の部分が出た様です。」
リィムの方を見ると、特に気にしてない様子で説明してきた。確かにリィムの場合はそうだろうな。ではタブレスの場合は……
「俺の場合は少し複雑で説明が難しいが、もっと素直に生きたいと言う願望がこの性格の原因だろうな。」
タブレスはこちらの視線に気が付いて説明してきた。何でコイツは精霊のくせに自己分析してるんだよ。いや、元の契約主がそう言ったのかも知れないな。
「そうなると、ティルの性格は……。」
「火の精霊の陽気さも有るでしょうが、恐らくはもっと人と上手く接したい、人と仲良くなりたい。そこら辺があの人懐っこさの原因だと思います。」
リィムが説明をしてくれた。確かにヒジリは初対面の人と話すのが苦手と言ってたし、未だにたまに緊張してどもってしまう時があるもんな。
「で、ルーリアの場合は……」
そう言って自分の中に居るルーリアに意識を向けてみる。ルーリアはとても面倒臭そうな顔をしてた。
「そうだよ、私の場合はルリが命令で軍刀を作らされてた時の感情の産物だよ。意味の無い、自分のやりたくも無い作業を続けさせられて、命令を言いに来る奴を無視したい。自分の心を守る為に殻に閉じこもりたいと思ったそう言う感情だよ。」
「なるほど、教えてくれてありがとう。」
恐らくだが、出来れば話したく無かったであろう負の感情の話をしてくれたルーリアに礼を言うと照れ臭そうにしている。
「ち、違うんだよ。勝手に想像されてルリが間違った認識をされるのが嫌なだけなんだよ、勝手に……ちょ、そんな温かい目で見ないで欲しいんだよ! や、やめるんだよ!」
思いっきり照れてやがる。別に仲間のピンチの時は文句も言いながらも頑張ってくれているのは解っているから気にしなくて良いのに。
「何だかんだ言っても、ルーリアも良い精霊だって解ってるから大丈夫だ。性根の部分は具現化した時の感情次第なんだろ?」
「そうだ、性格の一面として出るだけで、本質的な行動は具現化した時の具現化主の性格が全てだ。性格が悪いからと言って本質が悪い訳じゃない。」
タブレスが頷きながら言う。性格の悪さ……か、ガラントもハッキネンと良い勝負な気がするがレンの相棒なのだから大丈夫だろう。
「ポンコツ、私とアレと同じに考えるな。」
「相変わらずツッコミが早いな……。」
「そうだな、俺としても性格が同じや、似ているとで一括りにされるのは気に入らないな。」
黙っていた筈のハッキネンとガラントがツッコんで来た。そう言えば水と氷の精霊だから「心理投影」持ちか! 色々と面倒になりそうだな。
「さて、次はタツミ。お前の精霊を見せてくれよ。」
一通りの騒がしいやり取りが終わるとレンがこちらを見て言って来た。さて、どう説明すれば良いのだろうか?
「契約精霊は居るんだが、自分で具現化した精霊が居ないんだ。」
「どう言う事だ? 自分で具現化した精霊しか契約出来ない筈だろうが?」
レンよりもガラントの方が驚いて声を上げて来た。レンはそうなのか? と言った顔で混乱している様だ。
「話すと長くなるし、当事者が居ないので説明が難しいが、俺は最初にティルレート=アルセインと言う精霊と契約を結んだんだ。具現化主はさっき話したヒジリだ。」
「え? 待て、では火神の契約精霊は?」
レンが不思議そうに言って来た。まぁそりゃそうだよね。
「ヒジリも同じ精霊と契約している。名前を半分づつ与えて契約したんだ。」
そう言うとレンは驚いた顔をしている。それ以上にガラントが困惑した声で質問してきた。
「それは無茶苦茶過ぎるだろう? だったら最初の精霊力の調整は? 二人同時に一人の精霊と同化出来る訳が無い。」
あー、またこの説明をする事になるのか。取りあえず面倒だからルリが納得した時の話を再びする。そして俺の特異体質についても合わせて話した。
「つまり、タツミは自分の精霊が無いかわりに3精霊と契約したって事か? 意味が解らん。何かズリーな。」
レンが羨ましそうな表情で言って来たが、個人的にはどれも中途半端だから逆に単独属性のお前の方が戦闘力は高いのではないかと疑っている。
「いや、コイツの場合は生命力が低い。そのせいで精霊の力を十全に引き出せてない。だから弱い。」
ハッキネンがバッサリ言ってくれました。もう分っているので反論もしませんし、先日もまた死にかけましたからね!
「え? そうなのか? 何かお前がそんなだとは……意外過ぎる。」
レンは困ったような表情で俺を見て来た。頼むからそんな目で見るな! もう次の戦闘はお前に任せるよ。俺は影に隠れてますから……。




