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7話 龍と祀られる精霊

 凄い威力だった。


 前に言っていた通りコイツは強い。爆発の威力も桁違いだが一番凄いのは発射に使った術の方だった。爆発に方向性を与えて、尚且つ発射方向以外は力が拡散しない様に回転を加えて銃の様に力を無駄なく伝える精密な制御をしていたのだ。


 とても俺には出来ない芸当だ。下手すれば弾丸の方が暴発して自爆してしまうのがオチだ。


「今よ! 急いで逃げて!」


 特大の精霊術が決まった筈なのにティルが血相を変えた表情で言って来る。気が付くと既に俺が表に出ていたが術の反動だろうか? 倦怠感が物凄い事になっていた。


「今ので倒せてないのか?」


 倦怠感と戦いながら身を隠せるところを探して逃げ出す。そしてあれ程の威力の精霊術で倒せないものなのかと疑問を問いかける。


「あれは上位精霊どころじゃ無いわ。さらに上の災害級の精霊『龍位』精霊よ。今の私の攻撃なんかじゃ足止めが精一杯よ!」


「上位のさらに上? 『龍位』精霊?」


「人間界では自然災害が起こると昔は自然を『龍』に見立てて祀っているでしょ。あれはそういうのと同格の存在なの。普通の精霊とは規格が違う存在なのよ。」


 つまりこの前の戦闘で言うなら今の俺の立場は下位精霊レベルか。これはヤバいな、全力で逃げよう。そう決心して身体強化で加速して逃げようとした瞬間にそれは不意に訪れた。


「リィムに何をした。」


 真後ろからいきなり男の声がしたと思ったら後頭部をいきなり手でわし掴みにされて地面に顔面から叩きつけられた。その直後に体が地面にめり込むほど重力が襲って来た、身体強化を全力で使っても指一つ動かせない。


「な……、こっちも『龍位』精霊!?」


 ティルから絶望的な言葉が聞こえる。一人でも手に負えなかったのに二人もだと? 明らかに絶望的だ。どうにか少しでも相手の手が止まる一言を考えないと!


「お仲間が大事ならすぐに助けに行った方が良いんじゃないか?」


 潰れそうな肺に息を吸い込んで何とか言葉にする。すると男は一瞬悩んだのか手が少しだけ緩む。その隙を逃さずにティルが表に出て抑えつけられていた手を跳ねのけて距離をとる。


「チッ、貴様が精霊の方か。思ったよりは力が有るが……どういうことだ?」


 男が怪訝な表情をしている。どうにも理解できないと言った顔だ。


「それに答えている余裕も時間も無いのでノーコメントで。」


 そう言うと同時に再び俺が表に出る。しかし入れ替わるたびに疲労感が蓄積されていく。正直もう逃げる気力もない位だ。


 改めて男の方を見ると、黒い服で統一された背の高い明らかにイケメンな男だ。雑誌のモデルに居ても不思議じゃない位だ。こんな時だが ちょっとイラっとする!


「俺達で疑問でも有るのか? それよりどうするんだ? 俺達に質問するのか仲間を介抱に行くのかどっちにするんだ?」


 不自由な二択と言うやつだ。俺達を倒して仲間の元に行くが向こうの選択肢で最良なのだろうが、敢えてそれ以外の選択を二つ上げてどちらかに思考を誘導する。少しは回復する時間を稼げれば逃げる方法が見つかるかもしれない。


「貴様は先程の精霊と本当に契約したのか?」


「どういう意味だ?」


 質問の意味が理解できずに問い返すと、男は少々イラついた顔になり質問を繰り返してくる。


「そのままの意味だ。本当に貴様があの女の精霊に名前を与えて契約したのか?」


「ああ、そうだ。俺が名前を付けて契約した。どうしてそんな質問をしてる?」


 俺の返事に男は不思議な物を見るような顔をした。そして全身を殺気にみなぎらせ始めた。


「次は貴様ではなく精霊に質問だ。出てこい、分離は出来るだろう。出てこなければこの場でこの人間は殺す。」


 拒否権が無い殺気だ。ティルも察したのか分離して現れた。


「私の契約主は見ての通り、まだ弱っちいから体の負担が大きいの。質問は手短にお願いするわ。」


 ティルが開き直った態度で悪態をつく。何かイラついているのが解る。


「聞かれたくないのだろうが、そうも行かない。貴様の『本当』の名前は何だ?」


「私はティルレート=アルセインよ。それ以外の何物でもないわ。貴方も名前を聞いたんなら名乗りなさいよ!」


 男はティルの返事を聞くと俺の方を見て表情をうかがう。俺のリアクションを見ている様だ。


「名前はそれで間違いないようだな。俺の名前は『タブレット=ヴェネガー』闇の龍将位精霊だ。」


 闇の精霊なのか、闇って重力系扱うんだな……って今なんて言った? 『龍将位』精霊? ティルの表情が更に強張ったのが理解出来た。


「ならば貴様の『最初に付けられた名前』は何だ?」


 タブレットが先程よりも険しい目つきで質問を繰り返してくる。と言うか、『最初に付けられた名前』ってどういう事だ? 俺よりも前にティルに名前を付けた奴が居るのか?


「だから、ティルレート=アルセイン以外の名前なんて持ってないわよ。精霊ならウソはつけないって知ってるでしょ?」


「確かにな……なら人間、貴様に聞こう。貴様が契約した時の空間に他に人間は居なかったか?」


 急に俺の方に質問が飛んで来たのでビックリしたが、下手な嘘は時間稼ぎにもならないと思い素直に答えた。


「いや、俺が気が付いた時には誰も居なかったな。これはウソじゃない。」


 その答えを聞くとタブレットが顎に手を当てて考え込んだ。


「質問を変えよう。貴様のどんな感情で精霊は具現化した?」


「気が付いたら既に具現化していたぞ? 俺は死にたくないとかそんな無意識な感情で具現化したと思っていたが。」


「具現化した瞬間は見てないのだな?」


「見てない。回りくどい事を聞いているが何が言いたい?」


「一つの仮定の話だ、お前は精霊は具現化した種族に似るのは知っているな?」

「ちょっと待ちなさい、貴方が質問したいのは私じゃないの? 話が違うじゃない。」


 ティルが遮る様に会話を止めた。時間稼ぎとかを考えてる感情じゃない、本気でそれ以上聞くなと言う殺気を感じる。


「貴様はどうせ答えないだろう。ならばこの人間から聞いて推測した方が速い。狩り残しをして災いの種を残すわけにはいかないからな。」


「狩り残し?」


 どういう事だ? 先程の少女の仲間なら「人間なら殺す」と言っていた。つまり……


「それ以上しゃべるな!」


 ティルが激昂してタブレット目掛けて殴りかかろうとするが、返り討ちにされるだけだと判断してティルを後ろから羽交い絞めにして取り押さえた。





 その次の瞬間、俺達とタブレットの間を光のレーザービームの様な攻撃が空から降ってきて横薙ぎに地面を削っていく。


「あら~、間に合ったみたいね~。」


 声がした空を見上げると六枚羽の天使が居た。ん? 天使なんて精霊界に居るのか? やっぱりあれも精霊?


「チッ、レピスか。話をし過ぎたか。」


 タブレットが悔しそうな顔をするのが見える。これは助かる可能性が出てきたかと思い期待する。


「やっぱりタブレスね~、ダメよ~むやみに人間を殺しちゃ~。」


 レピスと呼ばれた精霊がゆっくりと俺達とタブレットの間に降りて来た。


 見た目は20代半ば位の金髪金眼で髪型はショートボブのまさに天使と言った雰囲気の女性だった。


「相変わらずイラつく話し方だな、直らんのか。」

「ん~、直らないと思うわ~。」


 うん、聞いてて思った! 何かこの話し方は苦手! タブレット改め、タブレスにこの点は激しく同意したい。




「タツミ、もう落ち着いたから離して。同化して体力回復を優先させないと。」


 気が付くとティルから殺気が消えている。しかしいつもの陽気さは無かった。


 ティルは離されると俺の方を向き直して手を握って来た。そのまま同化すると思った時、下を向いて俺の胸元に頭を押し付けて来た。


「ゴメン、ちゃんと話せる時が来たら説明するから。」


 そう言って再び俺の中に戻る。声をかけるがティルの反応は無い、暫くして


「ちょっと休ませて、そうしたら元気になるから……。」


 らしくない反応が返って来たので、とりあえずそっとしておく事にした。




「私が来たからは〜、もうあの子達には危害は与えられ無いわよ〜。」


 間延びした口調は気になるが、どうやら俺達を守ってくれる様だが……話し方に全くと言って緊張感が無い。レピスと言われた精霊が来てから場の空気が別の意味で妙なモノに変わっている。


「解っている、お前とやり合うつもりは無い。リィムを連れて退散するとしよう。」


 タブレスが素直に引こうとしている。つまりレピスも龍将位精霊なのだろう。


「あらあら~、また逃げるの~? 稽古をつけてあげるのに~。相変わらず子供ね~。」

 

「貴様に子供扱いされる覚えはない! いつまでも昔の話を持ち出すな!」


 タブレスが明らかに苛立ちながらレピスを睨みつける。しかしそれとは対照的にレピスは口調と同じのんびりとした雰囲気を崩さない。


「私から見たら~、みんな子供よ~。あの頃はあんなに素直だったのに~。」


 レピスはず~っとにこやかな口調のまま話し続けている。


 そうするといつの間にかタブレスの後ろの方に先程の亜麻色髪の少女が歩いて来るのが見えた。少女は少し離れたままタブレスに声をかける。


「兄上、ゴメン。手間取ったせいで。」

「リィムか、気にするな。怪我は無いか?」


 タブレスがリィムと呼ばれた少女の方を向いて返事をした。リィムの方は服が土埃で汚れているだけで、外傷は全くと言って見られなかった。


「多少服は汚れたけど、全然平気。」


 あの威力の精霊術を食らって平気なのか、次元の違う強さだと痛感させられる。


「どうする? すぐに撤退する?」

「いや、アレは見逃してくれそうにもない。いつもの事だがいい迷惑だ。」


 タブレスとリィムはレピスの方を向き直す。


「では~、リィムちゃんも危ないから~彼の近くで待っててね~。」


 そう言うとレピスの六枚の羽根のうちの1枚が抜け落ちたかと思うと俺の方に飛んできて半円状の結界みたいなモノに変化した。


「これは……?」


「レピスの結界、この中は絶対に安全。」


 不意に横から声がして顔を向けると、いつの間にかリィムと呼ばれていた精霊が横にいた。


「安心しろ、もう危害を与えない。レピスに出会った時点でお前に手は出せない。」


 俺が驚いていると、リィムは無表情で淡々と俺に話しかけて来た。


「そこの彼も安心して良いわよ~。少~し待っててね~。」


 そう言うと二人の次元の違う戦い? 稽古? よく解らないモノが始まった。

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