第65話 精霊術の戦型
「ヒジリ! いつまでもボーッとして無いで精霊術を使って見ないの?」
アルセインが上の空のままだった私を急かす様に言って来ました。確かに謎の警告は気になりましたが……今はこの力で『とある木の枝』とやらを探すのが優先でしたね。
「あ、わわ、解ったわ。ルリさんは私から離れ過ぎないで下さいね。」
私はルリさんの前に出ます。吹雪は炎の翼が防いでくれるので問題無く行動が出来ました。ルリさんもその熱量に驚いている様です。
「行きます……『燐羽弾』!」
火焔翼から羽の様な弾丸が全方位に無数に打ち出されます。そして羽は地面に勢い良く突き刺さると、燃えたまま熱量を膨らませて行きます。
「焼夷弾の様に弾けますから盾でしっかり身を守ってください!」
注意を促すとルリさんは慌てて盾に隠れる様に身をかがめました。その様子を見てから私は燐羽弾に弾ける命令をします。
燐羽弾は弾けると同時に大量の燐粉の炎を巻き散らしながら焼夷弾の様に辺り一帯の木々に燃え移ると、氷と吹雪がまるで無かったかのように辺り一帯を紅色に染めていきました。
「な、何だいこの熱量は!? 想像以上過ぎるよ! 普通の精霊術の範疇じゃない!」
驚きの声を上げていますが……私も驚いています。精霊術はイメージしたものしか具現化できない筈ですが、これは私のイメージを越えています……コレが特異能力の力と言う事なのでしょうか?
「ねぇヒジリ。コレって燃え尽きるまで待つしかないのかしら?」
「多分……私も止め方が解らないから……」
アルセインが呆れた顔で聞いていますが……この延焼を消すにはそれこそ水の精霊術が必要だと思います。
「干渉型の能力だけかと思ったら具現化型も出来る上に放出型の能力も得意なのかい……珍しいタイプだね。」
「干渉型と放出型?」
聞き慣れない言葉を聞き返すとルリさんは意外そうな顔をしています。
「何だい、能力の系統も知らなかったのかい? それじゃ火が燃え尽きるまでに少し説明しようか。」
ルリさんは烈震衝を打ち込んで付近の炎を飛ばすと、そこにあぐらをかいて座りました。私もその近くに座って話を聞く準備をします。
「能力の系統は大まかに『強化型』『放出型』『干渉型』『設置型』『具現化型』『特殊型』の6つに分類されるんだよ。私は防御に偏っているけど『強化型』に分類される、タツミのあんちゃんもこの『強化型』だろうね。近接系の精霊術がメインさ。」
「ちなみに私は『放出型』ね。精霊術も遠距離攻撃が主体になるわ。」
アルセインが自慢気に言って来ますけど……どちらかと言うと放出型と言うよりは破壊型と思うのは気のせいでしょうか?
「ヒジリ……何となくだけど酷い事考えているのは解るんだからね? 相方にそれは酷く無いかしら?」
「話の途中で邪魔をするからさ。で、『設置型』はリィムの様に何かを媒介にしてから発動するタイプの精霊術を指す。そして一番多いのが『具現化型』で、これは私の即席模倣鍛造とかが該当する。でも私は強化型寄りだから具現化型の能力は弱めになるから威力も低い。」
ルリさんがアルセインの説明を奪う様に説明を取り返しました。そして説明は続きます。
「そしてヒジリちゃんの豊穣は相手の精霊力の流れに干渉して自己治癒を強化するから『干渉型』になる。光や闇の精霊が得意な精神干渉系もこれだね。そして最後の『特殊型』はどれにも当てはまらないモノの総称だね。ルーリアの大地還元錬成がこれに該当する。」
「そう考えると……ルリさんは強化型メインで具現化も少し使えると言う認識で良いのですか?」
「そうだね、大体は複数使えるが得意型で無い物は伸びしろが悪いし上限も低くなる。だからこそ、干渉型と具現化型、そして放出型の3系統を高レベルで操るヒジリちゃんの才能は異常ってレベルなんだよ。」
えっと……私の能力は豊穣だけですから本来は干渉型しか使えないんです! 具現化型と放出型は特異能力の力で私の力じゃありません!
「アハハ……あんまり人前で使い過ぎない方が良さそうですね……。」
今は愛想笑いで誤魔化すしか出来ませんが……アルセインは気付いているので敢えて黙っている様です。まぁこの子はしゃべると高確率で口を滑らせるでしょうから考えての行動なのでしょう。
「そうだね……力が有ると余計なトラブルに巻き込まれやすくなるだろうからね。あ、でも例外として神器の力でその型の力を得るって方法も有るようだね。」
「神器の力でですか?」
「そうさ、神器は自然法則を無視する力がある。タブレスの『シナイの外套』は制御系の干渉型の神器になる。レピスの六冠翼も具現化に見えるけどアレは強化型の神器だね。自分の持ち合わせていない系統の力を得る事で死角を無くす事も出来るんだ。」
(ねぇ……ヒジリの特異能力って神器の力に似ているかもね? 自然法則を無視するって所が回復性能を考えれば一緒よね。)
説明を聞き終えたアルセインが私にだけ聞こえる様に話しかけて来ました。
(あのね、さっきの火焔翼も特異能力の力なのよ、私の力じゃないの……あんまり使うなって言われたから出来るだけ使わない様にするわね?)
(え? ちょっと待って。特異能力の力って再生能力だけじゃないの? 何そのチート能力! 私の立場が無いんですけど! と言うか使うなって誰に言われたのよ!?)
(だから攻撃はアルセインに任せるから! 私は今の力を使ったら疲労困憊になった事にするから……上手く合わせて!)
(あ~もう! ちゃんと私にだけは説明してよね! 何か有った時にヒジリを守るのは私の仕事なんだから!)
そう言うとアルセインは強引に表に出ました。
「何かヒジリの調子がおかしいから引っ込めたわ。恐らく威力は出せても得意じゃ無いせいで消耗が激しかったみたい。」
ルリさんは急に出て来たアルセインに驚きながらも、説明を聞いて妙に納得した様子でした。
「ナルホド、そう言う事かい。初めて発動した精霊術に興奮したせいで、しばらくしてから疲労を感じたんだろうね。」
「その様ね、さて……だいぶ鎮火して来たけどこの後はどうするの?」
「この後は私の出番さ! 土壌を木にとって有害な物に変化させて残ったのが恐らく『とある木の枝』だろうからね!」
何か物凄く物騒な事を言ってませんか? と言うか……既に周りの光景が自然破壊し過ぎで心が痛むのですが……
「木を燃やしたりした事を気にするんじゃないよ? その後の対処さえしっかりやっていれば自然はちゃんと答えてくれる。」
回りの光景を見たルリさんが気を使ってくれてます。
「いや、しかし自分であれ程の自然破壊をすると……良心が痛むのですが……。」
「そんな事言ったら、山の木は伸び放題で荒れて行くだけよ? 一定の間隔で間引いたり、伐採して植え直したりしないと自然のサイクルが狂ってしまうのさ。」
ルリさんはアレが自然破壊では無く自然のサイクルと言います。確かに学校で人の手の入らない森はダメになって行くと聞いた事が有りますが……
「木が生い茂ったままだと地面付近の植物が衰退し過ぎる。そう言うのも含めてのサイクルなのさ。まぁ無意味にやる物じゃないけどね。」
「分かりました。もう気にしないようにします。」
「そうそう、燃えた木が次の植物の肥料になって命が循環していくんだ。まぁ今回は目的が目的だけに、少しは気が引けるけどね。」
ルリさんは立ち上がると強い精霊力を込めて勢い良く盾を地面に叩きつけました。精霊力が辺り一帯に流れていくと嫌な臭いを感じました……これは硫黄の臭いですか?
「ねぇ!? 何で硫黄を生成したのよ!? 爆発するんじゃないの!?」
ルリさんは不敵な笑いを浮かべていますが、アルセインの絶叫が辺りに響いたのでした。




