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第64話 火焔翼

 随分と懐かしい夢を見ましたが……ナギちゃんとレン君は心配してるでしょうね……急に私もタツミ君も精霊界に来て行方不明になっているのでしょうから。


 背伸びをして体をほぐしてから立ち上がってテントの外に出るとルリさんは盾の手入れをしていました。


「おはようございます。」

「おはよう。よく眠れたかい? では行くとしようかい。」


 ルリさんは私の姿を見るとテントを畳み始めました。ルーリアが居ないのでテント等の荷物だけでなく、装備品を身に付けながらの移動になっています。


「こういう時はルーリアの便利さを痛感するね……貸し出すんじゃなかったよ。」


 便利グッズ扱いをしている気がしますが……某ネコ型ロボットのポケットの様な精霊術ですからね、荷物の持ち運びに関しては最強の精霊術だと思います。


「さて、目的地はもうすぐだ。さっさと行くよ。」


 文句を言いながらも準備をして私達は移動を開始しました。別行動を始めて今日で3日目です。目的地の土の精霊界でも特殊な所と言ってましたがどう言う所なのでしょうか?




「さて、着いたね。ここから先が伝承に有る地域さ。」

「こ、これは……ここって土の精霊界ですよね?」


 私の目の前には信じられない光景が広がっています。樹氷と新雪で埋め尽くされた雪山が目の前に広がっていたのです。

 

「ああ、ここだけ何故か雪が降り積もり吹雪が吹き荒れる謎のエリアになっているんだ。違和感が有るにも限度ってもんが有るだろ?」


 呆れた表情で言っていますけど……どう考えても異常ですよね? 誰も調べたりしなかったのでしょうか?


「ちなみにこのエリアに入ろうとしたら火の精霊でも5分と持たない位の冷気を発している。だから今回はコレを使う。無くすんじゃないよ。」


「コレは……火の精霊石?」


 この前私達が拾ってきた精霊石を渡されました。と言うか相性が有利な火属性でも5分も持たないってどう言う事ですか!?

 

「コイツに精霊力を込めれば簡易的な熱源になって身を守ってくれる。氷の精霊界でも必要になって来るから今のうちに覚えておきな。」


 ルリさんはお手本の様に精霊石を光らせ始めたので、私も同じく精霊力を込めて光らせると体を何か温かい物が覆う感覚に包まれました。


「これで冷気を防ぐんですね。」

「ああ、だけど自然気象程度しか防げないからね? 戦闘で使うには弱すぎるから注意しな。」


 ルリさんは盾を構えて歩き出すと雪が積もったエリアへと足を踏み入れました。私も後ろを付いて行きましたが吹雪が凄くて視界が悪いです。盾で風を防いで無かったら吹き飛ばされるでしょう。


 暫く行くと急に立ち止まりました。ルリさんは辺りを見回すと何か納得した表情でコチラを振り返りました。


「さて、まずは伝承通りやって探してみようか!」

「伝承通りですか?」

「と言うか……普通は現場に着く前に説明するもんじゃないの?」


 アルセインが不機嫌そうに抗議していますが、ルリさんは現場で話すの一点張りでずっと内緒にされていたので何か理由が有るのかと思っていたのですが……


「ティルは察しが悪いね……ヒジリちゃんの方はそれとなく理解しているって言うのにさ。」


「どういう意味よ! ……ってヒジリもそう言う感情向けて来るの辞めてもらって良いかしら?」


「どうもこうも……ここまで言われても察しないのはどうかと思うよ?」 


 アルセインが余計にふてくされた表情をしていますが、つまりは絶対に聞かれない場所で話す必要が有ったか、もしくは先に言うと私かアルセインのメンタル的な負荷になるからしか考えられませんでした。


「さて、大真面目な話をしようじゃないか。今回探しているのは『魔槍の騎士(ミストルティン)』の力が封じられていると言う奴さ。一部の精霊では『とある木の枝』と呼んでいる。」


「それって……北欧神話で出て来る神殺しの枝の名前ですよね? 特異能力(セカンド・スキル)って神話で出て来る単語が多い気がしたのですが……偶然なのでしょうか?」


 私がこの前リィムから伝承を聞いた時に覚えた違和感です。人間界に戻った人が口伝で伝えたのでしょうか? 話が飛躍しますが神話の話はもしかして全て精霊界で有った事実と言う事も考えれました。


「私はそんなに学が有る方じゃ無いから知らないけど、あんまりそう言う話はしない方が良いとレピスは言ってたね。理由は解らないがあまり良くない事らしい。」


「そ、そうなのですね……わ、分かりました。」


 ルリさんは私に注意しながらも周りを警戒しつつ話を続けます。


「そして『とある木の枝』の伝承は『火に燃えず、寒さに負けず、どんな荒地でも育つ』と伝えられているんだ。」


 伝承を聞いた瞬間、嫌な予感が頭をよぎりました……と言う事は……


「と言う事で、ティルのエクスプロ―ジョンでこの吹雪地帯を燃やし尽くな!」


「燃やすと言うよりも吹き飛ばすと思うんですけど!?」


 思わず絶叫してしまいました……どう考えてもアルセインの精霊術は『燃やす』よりも『爆発』の方がウェイトが重いです!


「では燃焼系の精霊術は使えるかい? 吹雪に負けない力が必要になるけど。」


「や、やった事が無いので判りませんが……アルセインは使えそう?」


「無理ね~基礎的なものならともかく、爆裂系以外は興味無いわ。」


 何でこの子は破壊衝動が強いのでしょうか? いや、小学時代の負の感情が原因だとしたら思い当たるフシが有るので何とも言えませんが……


「分かりました。私がやってみます……要はイメージですよね? 燃焼系の精霊術を具現化するイメージ……」


「何でも良いからイメージしやすい物を具現化して見なさいよ。ある程度形にした方が楽だからね?」


 集中しているのに少しうるさいです。相変わらず陽気さを少しは私に分けてくれれば良いのにと思ってしまいます。


「私が具現化のイメージをしやすい物……そうね、アレにしてみるわ。」


 私のもう一つの能力をイメージしてみよう! そう決めて目を閉じて集中してみました。


 『大いなる再生者(グランド・リバイバー)』の能力を使うたびに思っていました。他者を治し、傷付いた自分の身を自らの灰で癒す……伝説の生き物を自分の側に寄り添うようにその存在をイメージしてみます。体の中心に力を集める感じで貯めつつ、具現化するイメージをより鮮明化してみます。


「ん? ちょ……、ヒジリちゃん?」


 ルリさんの困惑した声が聞こえてきましたが、集中を切らすとダメだと思って深くイメージを続けます。そう『不死鳥』のイメージを。


「ヒジリ! ちょっとストップ! それ以上は危険よ!」


 アルセインの慌てた声で目を開けると、目の前にはルリさんが驚いた様子で私の後ろを見ていました。自分の背中へ視線を向けると大きな炎の翼が具現化していました。


「これが私がイメージした精霊術?」


 自分でもポカンとしてしまいましたが、羽ばたくイメージをして動かしてみると物凄い熱風が辺り一帯に吹き荒れて吹雪を消し飛ばしたのでした。


「あちゃちゃ! 熱い! ちょっと! 止めておくれ!」


 ルリさんがあまりの熱さに悲鳴を上げました。正直私でも熱いと感じたのですからルリさんは余計に熱く感じたでしょう。


『少し貴方を甘く見てました……まさか私のもう一つの力まで開放するなんて。』


 あの時の声が直接「私だけの頭」に響きました。


『その力は『火焔翼(かえんよく)』と言います。発動した物は止められませんが、使い過ぎると私が出て来てしまう。だから必要な時以外は使わないで……」


 声が聞こえなくなると同時に『火焔翼』の使い方が頭に直接流れ込んで来ました。しかし気になるのは『私が出て来てしまう』と言う所です……


「ヒジリちゃん……ヤッパリ天才か何かかい?」

「ちょっとヒジリ……今のは一体?」


 ルリさんは驚きの表情で、アルセインは焦った表情で語りかけて来ます。


 しかし私の意識はあの声の意味を理解するのに一杯です。あの声は明らかに私の体調を心配していましたし、そして特異能力セカンド・スキルとはただの力では無いと言う事を伝えたがっている様に感じたのでした。



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