第63話 聖と蓮の接点
「えっと、ヒジリちゃんの知り合い?」
「いいい、いえ、な、ナギちゃんの知り合いじゃ無いの?」
二人で顔を見合わせますがナギちゃんも知らない人の様です。二人で不審者を見るような目で話しかけて来た男子の方を見ると……あれ? でもどこかで見た記憶が有る様な?
「不審者を見る目で見るのはやめろ。俺はそっちの子と同じ学校だ。」
男子は私の方を指差しました。とは言っても私にこんな知り合いって居たっけ?
「頼むから首を傾げるなよ。タツミの友達で、一緒に試合に出てた『鳴海 蓮』だ。」
そう言われて私は手をポンと叩いて納得した。
「おおお、お、思い出した。う、うちの剣道部の部長の鳴海君でしたか。」
「ヒジリちゃん。部長とか言うなら顔位覚えてない?」
「お、覚えているのは名前だけね……顔まではしっかりと見て無かったし。」
ナギちゃんが呆れたような顔をしていますが、私はタツミ君が居る中で他の男子に目移りする程器用では有りません!
「何か、扱いが酷く雑な様だが気にしないでおくか。取りあえず俺の事はレンで良い。ちなみに自己紹介してもらっても良い?」
そう言われて、軽く自己紹介をしました。
「で、そのレン君とやらはヒジリちゃんに何の用事なわけよ?」
ナギちゃんに言われて、レン君は何かを思い出したように話し始めたのでした。
「そうそう、本題を忘れる所だった。もしかしてえっと、火神さんだっけ? タツミにバレンタインのチョコを渡したのは君で合ってる?」
「え?」
いきなり今一番バレたくない事を言われて私は硬直してしまった。
「え、えええ、えっと、な、何の事かしら~。」
私は今までの人生で最大に目を泳がせていただろうと分かる位の返事をしてしまいました。ナギちゃんもフォローしようとしているが、そのリアクションはダメだろと言う顔をしています。
「すまないが話は聞いてたんだ。別に言って欲しくないなら黙ってるさ。」
「おおお、お、お願いします! だ、黙っててください! 出来れば他の人にも!」
私は土下座の勢いでレン君に懇願しすると、それを見ていた二人がちょっと引いています。
「いや、大丈夫さ。別に言いふらすつもりも無いから。それよりタツミに上手くアプローチした人がどんな人か興味が有っただけさ。」
「上手くアプローチ?」
その言葉を聞いて私は顔を上げてレン君の顔を見ると、楽しそうに笑っていた。
「ああ、アイツにプレゼント攻撃を貫通させた奴は初めてだったから興味が湧いたんだ。後はメッセージカードのヒントを元に今日が見つけるチャンスだとタツミも言ってたから一緒に探したんだよ。」
「ちょっと、貫通って絶対に私の反射ダメージとかからの返しよね? まぁ意味的に合ってるなら構わないけど、返しが上手いわね。」
ナギちゃんがちょっとレン君に興味を持ったようだ。言葉の返し的に何かを感じた様だった。
「反射と貫通のゲーム用語がすんなり伝わるならもしかしたら似た様なゲームしてるかもな。まぁそれは後でゆっくり話すとして、本題は火神さんの件だけど。」
レン君もナギちゃんに興味を持ったようだが、顔をこちらに向け直して本題を切り出して来た。
「面白そうだから、タツミの情報を君にリークしてあげようか?」
レン君はいたずらっ子の顔でそれを提案して来たのでした。
「で、その見返りは? タダで情報をリークしてくれる訳でも無いのよね?」
ポカンとしている私を置いてナギちゃんが質問してくれた。確かにそうです、世の中タダほど怖い物は無いとよく聞きますね。
「見返りねぇ。ぶっちゃけタツミが右往左往しているのが見れれば良いかな?」
「「え?」」
「いやね、俺としては友人には幸せになって欲しいけど、それはそれで何かムカつくから手助けはしたく無い。でも、火神さんのキャラは話を聞いていて気に入ったから手伝って言う事。」
友達なのになんと半端な手伝い方なのでしょうか? 本当に友達なのかしら? しかしこれが本心かはまだ判りませんね。まだ裏に何か思惑を隠し持っている様にも感じるのですが……。
「その言葉をそのまま受け取ると、あんまり良い趣味じゃないように聞こえるわよ。本当に理由はそれだけなの? 本音で言われない方がモヤっとするわ。」」
ナギちゃんがジト目でレン君を問い詰めると、レン君も少し悩んだ様子で言葉を紡ぎ出した。
「まぁ、タツミとは小学のスポ少からの付き合いなんだが。あいつは兄貴のせいで恋愛に関して鈍感になったと言うか、先読みし過ぎて自らフラグをへし折っているんだが……そこまでは良いか?」
私とナギちゃんはそこまでは頷く。
「それなのにモテたいとか言ってるのが腹立つんだ。いやいや、少なくとも俺が知ってる限りでは5~6回は自分からフラグをへし折ってる。」
あ~、そのうち3回以上は私も目撃しているなぁ……でもそれを言ったらストーカー扱いが悪化しそうだから辞めておこう。
「ヒジリちゃん。多分その現場見てるわよね?」
「え? えええ!? ナギちゃん何で知ってるの!?」
そう言ってナギちゃんの方を見るとニヤリとした顔をしています。しまった! これは誘導尋問です!
「まぁ、こっそり覗いてる分には罪にはならないから大丈夫だわよ。多分。」
ナギちゃんが笑顔で私の肩に手を乗せますが……ちょっと待ってぇぇぇぇ! 目の前にはレン君も居るんですが!? 学校に変な噂が流れたらどうするの!
「まぁ、見てるだけは自由だしな。しかも学校と言う公的な場所なら見られる方が悪いと言う事だな。」
レン君も何か勝手に納得しています!
「じ、実は二人は知り合いなの? 随分と息が合ってるように感じるんだけど。」
「「いや、全く。」」
本当かしら……息の合い方が初対面とは思えないのですが……
「で、話を戻して。そんなアイツが初めてフラグをへし折る事無く、自分への好意に気が付くプレゼントを出したと言う人が気になったと言うのが一つ。」
「初の成功例だった様ね。良かったわねヒジリちゃん。」
「不気味がってませんでした? そ、そそ、その……、ストーカーみたいに思ってたりとかしてませんでした?」
「いや、むしろ普通に喜んでいたぞ。そのまま告っちゃえば?」
取りあえず不安していた事は起きてない様で一安心しました。でもサラッと告っちゃえばと言われてもそんな度胸有りません!
「ムリムリムリムリ! 私の心臓が色んな意味で持ちません! そそそ、それにいきなり告白したって、フラグをへし折られる方が可能性高いでしょう?」
「ん~、大丈夫そうな気もするが、取りあえず火神さんは知り合って友達になるステップから行きたい訳なのか?」
じれったそうにレン君が問いかけて来ますが、実際はその通りです。失敗は許されません。三上さんの様に一度勘違いされたら誤解を解くのは困難でしょうから。
「まぁ、俺としてはその過程を楽しんで見てみたいと言うのがもう一つの理由かな? 趣味が悪いとか言うのはナシだぜ? 俺は情報を渡す、火神さんは進捗を教える。ギブ&テイクだろ?」
レン君が意地悪そうなガキ大将の様な顔で言って来ました。
「もし、断ったら?」
私はツバを飲み込んで聞いて見た。
「今すぐタツミを呼んで来て火神さんの事をバラす。」
「それって拒否権無いわよね。ある意味サイテー。」
ナギちゃんがジト目でレン君にツッコむが、当の本人はどこ吹く風だ。
「解りました。交渉成立にしましょう……恥ずかしいですが失敗するよりはマシです。」
私は諦めてレン君の提案を受け入れました。別に悪い事だけでは無いのでしょうから……
「よし、それじゃ、お互いに連絡先を交換しようか。」
そう言って連絡先を交換すると、レン君はナギちゃんの方を向いて連絡先を交換しようとした。
「何で私も? ヒジリちゃんだけで良くない?」
「え? これって3人の秘密の共有じゃ無いのか? 友達なんだろ? 協力するんだよな?」
レン君が不思議そうな顔でナギちゃんを見てる。友達と言っても今なったばかりなんだけど……ってそれは流石に今は言いづらいです。
「ヒジリちゃんに協力するのは良いけど、何でアンタとも協力しなくちゃならないのよ?」
「一応? 何か作戦を練るなら2人より3人だろ? 3人寄らば文殊の知恵って言うだろ?」
いつの間にか情報共有だけから、共同作戦のレベルまで協力体制のレベルが上がっているのはどういう事でしょうか?
「はぁ~構わないけど変な文章とか送って来たら速攻でブロックするわよ?」
ナギちゃんは警戒の眼差しでレン君を睨みつけながら連絡先を交換しました。
「取りあえず、先に火神さんが聞いておきたい事は有る?」
「彼女は居ないのは解ってるけど、誰か気になっている子とか居ます?」
「無いな。あいつは理想は語るけど具体的な女子の名前は上がった事が無い。むしろ今はバレンタインの子が気になっていると言った方が正しいだろう。」
ナルホド、取りあえず効果は有った様なので一安心ですが油断はできません。どんなに気になっていても好みの子じゃ無かったら流石に断るでしょう。
「じゃあ、タツミ君の好みのタイプは? 友達だもん、知ってるわよね?」
私が悩んでいるとナギちゃんが質問をしてくれた。
「あいつが具体的に言ってたのはキレイな髪のロングヘア―の子が良いと言ってたのは覚えているが……男なんて大体そんなモノじゃ無いか?」
「抽象的過ぎるわよ! もっと具体的に!」
「後は、一緒に居て落ち着く子が良いとは言ってたな。」
「うん、ゴメン。そこら辺は全部知ってたよ……既に情報収集済みです。」
私は真新しい情報が無くてガックリして呟く。
「「え?」」
二人がこちらを不審者を見る目で見ています。いや、もうこの流れは要らないです。
「では、新しい情報をお待ちしております。もしくわ作戦の立案を。ではお帰りはあちらです。」
そう言って私は会場の入り口の方を指差す。そろそろ食べ終わらないと補助員の集合に間に合わない時間になっていました。
「わ、分かった。今度は新情報を入手して来る。」
そそくさとレン君は会場へと戻って行きました。残ったナギちゃんは面白そうなものを見る目半分、ストーカーの本領を見たような目半分でこちらを見ていた。
「ヒジリちゃん。やっぱりアナタって最高に面白いわ。」
「そ、それって誉め言葉?」
「もちろんよ! これからも仲良くしましょ!」
ナギちゃんはとても楽しそうにクスクス笑っていたのでした。




