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6話 ティルの精霊術

「なぁ、誰かこっちに向かって来てないか?」

「ん? どれどれ……え? 何で氷の精霊が火の精霊界に居て平気なの!?」


 ティルが驚いているのを初めて見た気がする。つまりこれは異常事態か?


「それは有り得ない事なのか?」


「氷の精霊にとって火の精霊界は相性最悪なのよ、だからここに居るだけでも大量の精霊力を消費するし、相性が悪いから精霊力も供給出来ない。同化状態で無いなら普通はすぐに消滅してしまうレベルよ。」


「通常では考えられない様な強い精霊って事か?」


 確認をしているうちにも人影が勢い良く近づいて来る。




「ちなみにこれは安心して良い方? 逃げるべきか?」


「明らかに敵意剝き出しよ。逃げるにしても補足されてるね。下手に逃げると後ろから襲われるわ。」


「戦うか対話しか無いって訳か。話を聞く限りそんな精霊相手に何とかなるのか?」


 覚悟を決めるしかないと思いつつも恐怖の方が勝ってしまう。


「相性有利も有るし、最悪私が表に出て戦うしかないかもね。死なない程度には精霊術も使うから気合入れてね。タイミングを見て逃げる準備も忘れずにね。」


 久しぶりに真面目なティルを見る。これは冗談でもなんでも無いのだと確信すると同時に改めて気合を入れ直す。


 そして人影が近づいて顔が見えて来る。亜麻色の髪が特徴の12~3歳位の少女だった。声をかけようか一瞬悩んだが、少女は右手を手刀の様に構えて突くようにこちらの首筋めがけて突進して来た。



「すぐに横に避けて!」



 まだ少し距離が有るがティルが慌てて叫ぶ。俺は声に咄嗟に反応して横に体をねじって手刀を躱す。


 その時に見えたのは手刀から氷の薄い刃が剣の様に出てて首を切り落とそうとしていたのだった。氷が薄すぎて近づくまで見えないとかどんな暗器だよ。


「すぐに次が来るよ!『身体強化』を最大にして『発火』と『発熱』で体全体を守って!」


 ティルに言われるまでもなく精霊術を即時展開する。少女は突進攻撃が失敗した勢いで少し離れたが、すぐに踏み込み直して手刀で俺の首を狙って来た。


「あの氷の刃は精霊術なら伸縮自在の可能性が有るからギリギリで避けない様にね!」


 そう言われて咄嗟に距離を取り直そうとしたが、つまづいて尻もちをついてしまう。頭上を通り過ぎた氷の刃は俺が避けようとした距離を余裕で超える長さに変化して振り抜かれていた。


「反撃!」


 振り抜いた隙をティルにして指摘されて、尻もちをつきながらも体勢が悪いまま上半身だけの力で拳を腹部めがけて打ち込むと至近距離で爆発が起こる。


 爆発の勢いを利用して立ち上がり少女の様子を確認しようとすると、少女は左手で氷の盾を作り出して防いでいた。盾には傷一つ無く力の差を感じるには十分だった。


「そろそろ自己紹介をしないか? それと少しお話しができると嬉しんだが?」


 警戒は解かないまま声をかけてみると少女は淡々と喋りだした。その水色の瞳には相変わらずの殺意が込められている。


「精霊とは同化中か。お前には死んでもらう。」


「人間だと殺そうとするのかよ? 説明を求めたいんだが。」


 こちらの言葉を無視して再び少女が踏み込んで手刀を繰り出してくる。手刀を躱そうにも刃の部分も含めるとリーチの差も歴然で避け続けるのは難しい!


「リーチも不利ならば前に出るのみ!」


 俺は『発熱』を手に集中させて前に出ると、二人同時に踏み込んで一気に至近距離まで接近する。


 手刀の振り始めを掌底で手首付近狙って受け止め、反対の手で爆発を付与した拳を打ち込むが、相手は先程ので威力を理解したのか、ノーガードで受けて平然としている。


「効かなさ過ぎだろ!」


 少女は防御の必要が無いと判断したからか、今度は両手を手刀にして切り掛かって来た。こちらも両手で何とか捌きつつ回避するが防戦一方に追い込まれる。


 そして当然の様に実力差が有り過ぎて攻撃がかすり始めてきた。


 両手も『発熱』のガードを冷気が貫通して感覚が無くなって来ていた。そして手刀にばかり気を取られていた俺は不意の足蹴りを腹に食らって体勢を崩して膝をついた。


「中々良い動きだったけど、ここまで。」


 すかさず俺の脳天めがけて少女が手刀を突き出される。しかし勝ち確信した表情が次の瞬間、驚きに変わる。氷の刃が爆発と共に粉々に砕け散ったのだ。


「残念でした。出力を抑えた攻撃じゃ私は倒せないわよ。」


 ティルが表に出た。額から出血しているが大したダメージでは無い。10秒と言う制限時間で確実に相手に一撃を喰らわせる為に多少のダメージを覚悟でこのタイミングを狙っていたのだ。


 ティルは両手を少女の方に向けて構えると中央に赤い火種二つが回転しながら前後に出来上がる。


 相手側の火種は異常な熱量を収束させていき炎の色が赤から黄色に変わる。手前の火種も小さいながらも爆発力を高めていく。


そして一瞬で2個の球体が完成した。


「喰らえ! エクスプロージョン!」


 手前の球体が轟音を立てて爆発してもう一つの球体を弾丸の様に弾き出すと、不意を突かれた少女に直撃し後方に吹き飛ばす。そして暫くして骨の髄に響く様な爆発音が遠くから響くと、きのこ雲が吹き上がり強烈な爆風が襲い掛かってきた。


 これが初めて見るティルレート=アルセインの精霊術だった。


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