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第57話 水と氷の戦い

「さてさて、普通の精霊と精霊使いの人間に興味は無いのですが、邪魔をすると言うならば容赦はしませんよ。」


 ヴァイは腹部に突き当てられた手槍を握って砕くと体勢を立て直して、ゆっくりと立ち上がる。そしてハッキネンが来るであろう方向に視線を送る。


「油断している奴に私達が負けるとでも?」


 ヴァイは後ろから声がすると同時に首筋に冷気が襲って来るのを察知して咄嗟に前に倒れ込む様に前転しながら回避する。


「いつの間に? そして髪の色が先程と違うようだ、精霊の方ですか。」


 後ろを振り返ると冷たい殺気の纏った視線を送るハッキネンの姿が有った。そしてそのままユラッと動いたかと思うと姿が見えなくなる。


「これは一体?」


 ヴァイは不思議そうな表情を浮かべると、先程と同じ事が起こらない様に全方位に水を生成して自分を中心に大きな渦巻を発生させる。


「これならば姿を隠しても近づけないでしょう。さぁどうしますかな?」


 ヴァイは渦巻を維持しながら周りを警戒する。すると予想外の方向からの攻撃が飛んで来た。


「頭上がガラ空きで偉そうに。」


 ハッキネンが渦に触れる事無く頭上から現れると、手刀に纏わせた氷の刃でヴァイに襲い掛かって来た。


「何と?」


 一瞬焦ったように見えたが冷静にそれを回避して再び距離を取りフライクーゲルを構えるが、振り返るとハッキネンの姿は既に見えなくなって攻撃が出来なかった。


「また消えた? いや、移動が速いのですか? 中々面白い、少しは貴方に興味が湧いてきましたよ。」


 ヴァイは不敵な笑みを浮かべながら今度は水の帯を作り出し、自分を中心に水の螺旋を描くと今度は頭上までを防御するドーム型にしたのだった。


「次はどう来ます? この水の帯が捉えた瞬間に弓の餌食にして差し上げましょう。」


 水の螺旋のどこかに触れれば少なくとも姿が見える筈、規模を考えれば十分に弓を引く時間は取れるとヴァイは踏んでいた。


「そんな単純な事しか出来ないのですか? 神器のアドバンテージを利用してるだけではダメですよ。」


 今度は付近にリィムの声が響く。


「今度は人間の方の声か、どうなっている? 何故に姿が見えない。」


 その直後、周りの景色に同化していた氷が砕け散ると同時に氷の巨大な棘が飛び出して螺旋のドーム目掛けて襲い掛かって来た。


 氷の棘は水に触れると一気に氷結させて螺旋の動きを無効化すると、そのまま貫通してヴァイを目掛けて襲い掛かる。


「ナルホド、透明な氷板を何枚も作り出して光を屈折させて見えない様にしていたと言う事ですか。」


 ヴァイは足元に水を生成してその水圧を利用して自分を上へと逃がした。そして地上の氷の棘の発生源に居ると思われたリィムを探すが、罠の発生源には魔法陣の様なトラップが起動している痕跡が有るだけで誰も居なかった。


 ヴァイはすぐに現状を理解して背後に大きな水の渦を作り出して盾代わりにする。


「チッ、反応が早い。」


 ハッキネンの悔しそうな声が響くと同時に、盾代わりの水の渦にハッキネンの氷刃が刺さると凍ってその役目を果たす。ヴァイは凍った渦の盾を蹴って地面へと戻り上空へと向けて構える。


 しかしその視界には既にハッキネンの姿は見えず、代わりに氷の塊や凍った渦が地面に落ちると盛大に砂ぼこりを上げた。


「小賢しい、氷を空中で具現化して疑似的な足場にしていると言う事ですか!」


 落ちて来た氷の塊を見て、空中を含めた縦横無尽に駆けるハッキネンの精霊術に気が付いたヴァイだったが、それと同時に脇腹に氷刃が突き刺さり赤い鮮血が氷の刃を伝って地面に落ちる様に見えた。


「水で作った偽物か!?」


 勝負が有った様に見えたがハッキネンが刺したヴァイは水で精巧に作られたダミーだった。


 すぐにハッキネンは手刀を引き抜いて姿を隠そうとするが既に遅かった。そしてヴァイが隠れる場所は一カ所しかない。凍った水の渦が落ちて出来た砂ぼこりの中だ。


「あんな無防備に呆然としている訳が無いでしょう。罠と気が付かないとは何たる物足りない旋律でしょう。」


 砂ぼこりからフライクーゲル構えたヴァイが突進しながら姿を見せたのだった。


「フュンフ・プファイル!」


 姿を隠しそこねたハッキネン目掛けて5発目が発射される。放たれた5本の矢は物凄い回転音を響かせると球体に変形した。


「な、なんだこの不規則な軌道?」


 ハッキネンはその不規則な高速移動を見て表情を少し困惑させていた。球体に変化したことによって一直線に動くのではなく、前に進みながらも上下左右に少しずつブレながら進んできたのだ。


「チッ、どこまで完璧に誘導されてくるか確認してやる!」


 ハッキネンは可能な限り後退して再び姿を隠して回避しようとする。しかし放たれた5発目の矢は屈折用に作られた氷板を破壊しながら見えないハッキネンの正確な位置へと追いかけていく。


「無駄ですよ一度狙われたら最後。必ず当たるまで止まりません。」


「ナルホド、話に聞いた4発目までの様に少しだけ触って命中判定を拾おうとすると、不規則な動きで無理やり引き込まれると言う事か。」


 ハッキネンは回避しながら球体の動きを観察してその性能を確認している。壊れた氷板を見ると全て球体の内側に引きずり込まれて粉々になって行くのが見えたのだ。


「さぁどうします? 諦めて砕かれるか体の一部を犠牲にするのか。選択の時間ですよ。」


 ハッキネンはヴァイの言い方に苛立ちを隠せない表情をすると、四方から逃げ場を無くすように飛んで来る5発の球体を見据えた。


「久しぶりに本気でムカついた。リィム、新技を試すから生命力大量に使うかもしれない。」


 ハッキネンの額に青筋が立っていた。かなり苛立っている、いや怒っている様だ。


「良いですよ。私も怒ってるから遠慮無くやってください。」


 リィムがハッキネンに許可を与えるとハッキネンの周囲に異常な冷気が集中していく。


「ポンコツと同化して何となく理解した。行くぞ『疑似限界突破』!」


 そう、ハッキネンは以前にタブレスが言っていた様に精霊力の総量に対して出力量が少ないと言う弱点が有った。なので継戦能力は高いのだが火力不足になり戦闘スタイルが必然的に暗殺型に近いものになっていたのだ。


 しかしタツミと同化した際に火特性の『限界突破』の使用を何回か内側から見て大雑把だが自分への負荷を上げて出力を上げると言う感覚を覚えたのだった。


「解る、今の万全な体調ならこの力を充分に使える。」


 うっすらとハッキネンの体が青色の光に包まれて水色の目がほんのりと光を帯びていた。今まで使用できていなかった全開の力を発揮しようとしていたのだった。

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