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第55話 必中の抜け道

 考えろ、必中と言う事は避けられない。


 しかし受けると言う選択肢も無い、当たるまでホーミングの能力は消えないのだろう。2発目の時に見た様に軌道を変えて飛んで来る。


 つまり的である俺に直撃しなくても体のどこかに触れれば命中判定になると言う事の筈だ。現に3発目の矢は全てどこからしらに当たったのでホーミングして戻って来てない。


「ちょっと、タツミっち。何か物凄く無茶な事考える気がするんだよ。」


 俺は迫り来る4発目の矢の渦に正面から向き合う。そして月光丸を腕輪に格納して両手に防御強化と爆破の精霊力を集めて迎え撃つ体勢をとった。


「ルーリア。上手く回避出来たらお前は目くらましでも何でもしてタブレスとリィムの所へ逃げるんだ。良いな?」


 俺は一か八かの賭けに出る。考える時間が長くなればなるほど、この渦の様な矢は加速して威力を跳ね上げて行くのが容易に想像出来たからだ。


「ほほう、判断が早いですね。ですが、それが蛮勇か策なのかは結果のみが語る事になるでしょう。その覚悟の旋律を楽しませてください!」


 相変わらず癇に障る様な言い方をして来るが俺だってこんな所で死ぬ気は無い! 取りあえずこれを凌いで逃げ切りさえすれば何とかなるんだ。


 覚悟を決めて前へと飛び出す。目指すのは渦のギリギリ側面をかすめる位置で爆発の精霊力を打ち込むのだ。


「渦は中心に引き込む様に回転しているから、一瞬でも爆発が遅れると巻き込まれて死んじゃうんだよ! 気を付けるんだよ!」


 ルーリアのアドバイスからするとタイミングはかなりシビアだと言う事だ。



 渦との距離が近づく、後3メートル、2メートル……時間が長く感じる……1メートル! 


 体を横向きにして跳躍する。渦を描く矢の側面ギリギリを飛ぶと同時に両手を矢に向けて突き出す。


 物凄いドリルの回転音の様な物が耳に響いて来る。次の瞬間、その音は振動となって俺の両手に伝わると同時に大きな爆発音が辺りに鳴り響く。


 大量の水と砂の飛沫が辺り一帯に飛び散りながら俺も一緒に吹き飛ばされた。


 渦の矢にぶつかった両手は盛大に皮膚と肉を削られたが何とか原形を留めているうちに離すことが出来た様だ。


 そして吹き飛ばされて尻もちをついた俺の目の前に予想外のモノが飛んで来たのだった。そう、当たっていない残り3本の水の矢が3発目と同じ形状になって飛んで来たのだ。


記録還元錬成アース・ストレージ!」


 気が付いた瞬間にルーリアが表に出て格納していた20㎝はあろう分厚い大型盾ラージシールドを地面から目の前に出した。倒れない様に一部だけ地面に刺さったまま出している。おそらくこう言う時の為に作った盾なのだろう。この大きさと厚さは普通に扱うような代物では無かった。


 そして水の矢が盾に突き刺さり、ドリルで金属をえぐる様な掘削音を鳴らしながら少しだけ勢いが殺される。


「今のうちに矢の後ろでも良いから防御を強化して触るんだよ!」


 ルーリアが裏に引っ込む。俺は先程同様に手に防御強化と爆発を付与して盾の正面に回って刺さっている矢尻を触ると同時にすぐに爆破させて手を強引に引き剥がす。


 そして無事に3本とも触った後、矢は盾を貫通して地面に突き刺さるとその姿を消したのだった。


 何とか矢はしのげたが、代償として両手はボロボロにえぐられている。もはや感覚が残っていない状況だし骨もやられているだろう。後は逃げるだけだが、すでに精霊力の操作も怪しいのでルーリアに交代する事にした。


「爆破の土煙が残っているうちに土壁で身を隠せ!」


 ルーリアが表に再び出ると地面に手を当てて体を隠せる位の土壁を辺り一帯に大量に作り出す様に指示をする。


「本当に普通の精霊術は得意じゃ無いんだよ、急いで集落まで走って逃げるんだよ!」


「土壁もどんどん増やせよ! おそらくだがアレは狙撃するものだから目標が視界に無ければ必中対象にならないかも知れない。」


「何でそう思ったんだよ?」


 ルーリアは走りながら不思議そうに聞き返して来たが、俺は戦いながら色々考えた結果フライクーゲルの性能を考察すると以下の2点が思い浮かんだのだ。


「推測だが、フライクーゲルは視界に有る物限定で必中狙撃する。そうで無いならわざわざ集落から追い出して視界が良い所に飛ばす理由が無い。逆に集落の方が建物が多いだけに回避が取りずらいからな。それに狙撃手が隠れないのもおかしい。」


「ナルホド、確かに必中能力が有っても狙撃手が自分の身を守るなら遮蔽物しゃへいぶつは大いに越した事は無いんだよ。」


「後は矢が消えるまでは次の攻撃が打てない。多分5発目を撃たなかったのはそれだろうが、そのリスクが有るのに遮蔽物しゃへいぶつを利用しないと言う事はそれ以外考えられないんだ。」


「確かに、相性も有るけどタツミっちじゃない相手だったらダメージを負う可能性も有るんだよ。」


 ルーリアに推察を続けていると後ろの方から土壁が一つ一つ吹き飛ばされる攻撃が見えて来た。ルーリアはそれを見て再び土壁を作り出して身を隠す壁を増やしていく。


「土壁は5発目で破壊しているんじゃ無い様だな。水しぶきが大量に上がっているから矢では無さそうだ。」


 俺は冷静に後ろの光景を内側から観察してルーリアに伝える。


「しかし、ルーリアはどこまでフライクーゲルの能力を知っていたんだ? 本数と威力が上がっていくのは知ってたようだが?」


「はぁ……はぁ……、私が知ってるのはそれだけなんだよ。それもタブレスからちょっと聞いた程度だよ。実際に会ったのは契約主が居る時だったんだよ。」


 ルーリアの息切れが酷い。引きこもりし過ぎて運動不足が明白だが、今のケガだらけの俺よりは逃げるのに適しているのは間違いないと思って頑張らせる。



「おやおや、せっかく楽しくなって来たと言うのにかくれんぼですか? これからが本番なのに興が覚めるような事をして頂いては詰まりませんよ。」



 後ろからヴァイの声が聞こえるが一方的な勝負過ぎて無理にも程が有る。神器が強すぎて勝負にならないの事実だ。


「後少しだ、土壁作るのも忘れずに走れよ。 ダミーも増やすのを忘れるなよ!」


 ルーリアに指示をしながら集落へと急がせる。既にアゴが上がってゼーハー言ってる。本当に体力が無い精霊だな……、後でトレーニングさせようかな。


「も……、む……無理……な……なんだよ。」


 ルーリアは集落まで後少しと言う所で土壁にもたれながら隠れて息を整えようとした。


「お前、無事に帰れたら最低限の体力トレーニングさせるからな?」

「こ……この、お……鬼……。」


 既に息が上がり過ぎている。しかし息は上がり続けながらも土壁の数は増やしてこちらの位置を探られない様にしている。



「仕方ありませんね、それでは私自身の精霊術を使わさせていただきましょう。」



 後方からヴァイの声が聞こえた。そう言えば神器しか使ってないが、あいつ自身の精霊術が有るのを忘れていたがルーリアは知っているのだろうか?


「あ……ヴァイの……能力は……。」


 ルーリアがしゃべろうとするが、それよりも早くヴァイは自分の能力を発動させたのだ。


「行きますよ!『シュトゥルーデル・ホッホヴァッサー』!」


 声と同時に後ろの方から地響きのような音が聞こえ始める。そしてその音が勢い良く近づいて来るのが解った。


「洪水を起こしてから渦巻を作って相手を溺死させる技だよ!」


 ルーリアは慌てて走り出す。


 え? 洪水を引き起こすって何? しかも渦巻作って溺死させる? 水の生成と操作でそこまで出来るモノなのかよ!? 無茶苦茶過ぎるが、龍位精霊の能力って本当に規格外の能力が多くないか?


 そんな事を考えていると既に後ろまで洪水が迫っていた。土壁は洪水に飲まれて跡形も無く崩れ去っていたのだ。


 集落までは後少しだが間に合いそうにない。もう後1メートルも無い所まで洪水が迫って来た所で俺は覚悟して目をつぶった。


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