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第52話 属性相性のおさらい

 外からパラパラとした雨の音が聞こえる。


 梅雨空の下、心地良いリズムの雨音が屋根から響いて来る。2階の自室の窓からは木々が雨風に打たれてこちらも小刻みに動いている光景が見える。


 日曜日の朝限定で俺が好きな光景だ。外を出ている人達を見ると何とも言えない優越感に浸れるのも原因の一つだろう。俺はその光景を見ながら2度寝するのが好きだった。


「タツミー! 外は雨だが道場は関係無いぞ!! さぁ朝稽古に行くぞ!!!」


 勢いよくドアを開けて来たのは7歳上の兄「工藤 龍一りゅういち」。小さい頃からスポーツ万能で特に剣道の才能は群を抜いていた。


 中学2年の時は個人で全国大会優勝してその後は連覇。そのまま高校、大学と全て特待生で入った程だ。


 兄さんに憧れて剣道を始めたが才能と言うものを思い知らされた。俺は凡人で、だからこそ兄さんみたいに剣道に熱量を注げない。



「日曜日は二度寝と言う大事な用事が有るからパス。」

「二度寝は帰って来てからすれば良い! 運動後の睡眠は大事だからな!」


 この野郎、何で稽古終わってからが二度寝なんだよ。それは普通に疲労で寝るだけだろうが!


「昨日も稽古しただろうが! 最低でも週に一度は体を休めないと良くないってこの前テレビで言ってたぞ? だから今日は行かない。」


 「ほほう、中坊の部活の練習ごときで体が疲れるとは鍛え方が足らんな。この兄直々に鍛え直してやる!」


 布団を頭までかぶって拒否の態度を取ると兄さんは布団を強制的に剝がそうとする。しばらく口喧嘩しながら引っ張り合いをしていると急に兄さんの電話が鳴る。


「あ、もしもし? ん? 誰?」


 兄さんは急に手を離して電話で話を始める。急に引く力が無くなった俺は勢い余ってベットの下まで転げ落ちてしまった。


「痛たた……急に離すなよ、危ないだろう。」


 俺の苦情を無視しながら兄さんは話を続けていた。電話から聞こえて来る声は女性の声だった。


「だから俺言ったよね? 興味無いって。そもそも誰に俺の番号聞いたの?」


 何か面倒臭そうな雰囲気が漂って来ているのを察した。


「そもそも、俺は飲み会や合コンなんて興味無いの。先輩の付き合いで仕方なく行っただけと言ったでしょうが?」


 あ~また数合わせで連れて行かれたのか……興味が無い癖に数合わせでよく呼ばれているんだよなぁ。

 

 そしてムカつくのが身内から見てもイケメンかつ182cmと高身長の上に剣道で鍛えた体は細マッチョ、さらには切れ目の甘いマスクで女性からモテる事モテる事。


 この兄のせいで何度バレンタインやクリスマスに女の子からチョコやらプレゼントやらを渡してくれと頼まれた事か! 


 特に同級生の女の子に呼び出された時は告白されるのではと期待しながら待ち合わせ場所に行くと「お兄さんに……」って言われた事は一度や二度では無い。


 おっと、これ以上は血の涙が出て来そうになるので辞めておこう。つまり俺に思わせぶりな態度を取る奴らは全て兄さん狙いと言うのが俺の悲しい現状なのだ。


「そもそも俺のタイプじゃないから諦めて。じゃあね。」


 面倒臭そうにため息をついて電話を切ったが、ため息をつきたいのはこっちの方だ。



「いい加減に誰とでも良いから付き合えば良いじゃないか。巻き込まれるこっちの身にもなってくれよ。」


「お前な、好きでも無い女と付き合って何が楽しいんだ? どうせなら恋焦がれて絶対にこの女じゃ無ければダメだ! っていう人と結婚したくないか?」


 兄さんが身振り手振りを加えながら力説して来るが、何で恋とか恋愛を素っ飛ばして結婚になるんだよ。


「兄さんの理想が高すぎるんだよ。一体今までに何人フッたんだよ?」

「ん? フッた数なんて数えてたら面倒だろ? そんなのを数えるのは人生の無駄じゃないか?」


 コイツ! この生来のモテ男発言をしやがって! フッたどころか告られた事すらない俺に対しての挑発か!? 


「今ので俺は絶対に行かないと心に決めた。一人で行ってらっしゃい。」


 俺は不貞寝を決め込むが、兄がそれを許す筈も無く布団を強奪された衝撃で目が覚めたのだった。



――――――――――――――――――――――――――


「タツミさん、起きて下さい。そろそろ移動しますよ。」

「ポンコツ、蹴りとばすぞ?」

「起こすのに蹴とばすな! と言うか聞く前に蹴るな!」


 蹴り飛ばされて起こされた事に苦情を言いながら体を起こすと外からは雨音が聞こえて来た。変な夢を見たのは雨音のせいだろうか?


 俺達はルーリアの力を使って地面を安定させた上に家を出して睡眠を取っていた。ちなみにルーリアを連れて来てなかった場合はどうなるのか聞いたら氷の上でテントを張って寝る事になるそうだが……それって凍死しないのか?




「しかし水の精霊界って行動がしずらいな、今までの精霊界が優しく感じるな。」


 再び移動を開始して俺がボヤくとタブレスが何を言っているんだ? と言った顔で否定してきた。


「水の精霊界はまだ良い方だ。雷の精霊界は落雷だらけだし、風の精霊界はほぼ砂漠で下手をすると竜巻に巻き込まれる。それに光と闇の精霊界は精神負荷が掛かる世界だ、氷の精霊界は耐性が無いと凍死するぞ。」


「タツミさんは気が付いて無いだけですが、火の精霊界は体が焼かれるような感覚と異常な乾燥で水分が枯渇しやすくなります。特に体に害が無いのは土と水の精霊界位です。」


 え? 火の精霊界も含めて実は結構物騒な所だったのか? ティルと契約してたから気付いて無いだけで、リィムやタブレス達はその焼かれるような感覚を受けていたという事なのか?


「だから前にティルが火の精霊界に氷の精霊が居るのは異常ってそう言う事なのか。」


「そうですね、属性は人間と精霊でも違いますが相性は人間よりも精霊の方が影響を受けやすいですね。なので私は火の精霊界でもハッキネン程の影響は受けないでいました。」


 確かに火の精霊界のダンジョンの4層でハッキネンは動けないかったのに対してリィムは普通に動けていたのはそう言う事かと納得した。


「精霊にとって消滅属性の精霊界に居る時だと人間の中はシェルターの様な物。だから私はポンコツから出ない様にした。」


 確かに言っていたが、改めて説明されると精霊も人間とペアの方が行動しやすいのだな。


「補足するならば人間はある程度全ての属性に耐性がある。逆に精霊は得意属性への耐性はより高く、苦手属性への耐性はより低くなる。よりハッキリと得手不得手が顕著になる。」


 タブレスまで説明を始めて勉強会の様になって来たが、これはヒジリが一緒の時に説明した方が良い様な気もするのだが?


「もっと簡単に説明しますね。特にタツミさんはこれから先は絶対に覚えた方が良いので。」


 リィムが急に真面目な表情で説明を開始する。


「攻撃の威力を100と仮定して受けるダメージを表現すると分かり易いと思います。」


 その表現だとゲーム慣れしている俺にとっては助かる説明だと思い静かに頷く。


「人間の場合は普通耐性100です。自属性70、有利属性50、消滅属性150位になります。そして精霊の場合は普通耐性は100で一緒ですが、自属性40、有利属性20、消滅属性300位になります。」


 振れ幅が酷くないか? つまり相性次第では思いっきり弱体化すると言う事か。


「そう考えると、あの時にハッキネンと火の精霊界以外で会ってたら勝負にすらならなかったという事か。」


 そう言ってハッキネンの方を見るとドヤ顔で威張っている。いや、確かに全力でないエクスプロ―ジョンとは言えども、3倍ダメージの直撃で無傷だったのは異常な強さ故なのだろう。


「単純な精霊力の高さだけならハッキネンの精霊力はかなり高い。瞬間放出量が低い為にまだ俺やレピスには及ばないが、そのうち俺達を追い越せる可能性は有るな。」


「兄上は過大評価しすぎ。」


 ハッキネンが褒められて照れている……こいつの露骨なデレの部分を初めて見た気がする。


「それとティルの最大値も相当高い。多分二人と契約しているせいだろうが、感情をもらう総量も多い為に成長も早い。特にタツミは何かの拍子に取り込まれない様に気を付けろ。」


 タブレスが警告してきたが、精霊って契約主の感情で成長するってのを忘れてた……ティルの火力って更に上がるのか……。


「タツミさん、話が脱線しましたが。一番重要な所がまだです。」


 リィムが俺の服の袖を引っ張ってこっちを見ろと言わんばかりにふくれっ面をしている。急に話が脱線されて少々ご機嫌ナナメになっていた。


「あ、ごめん。大事な所の説明がまだだったのか。説明を頼む。」


 俺はそう言って軽く頭を下げると、すぐに機嫌を直して説明を始めてくれた。


「タツミさんは現在3属性の精霊と契約してますが、多分主属性は火のままです。」

「そうなのか? 何でそう思うんだ?」

「色々と見て来ましたが、一番の根拠は属性の特性が火しか使えて無い事です。」

「特性って、この前言ってた『限界突破』ってやつか?」


 前に言われたことを思い出した。確かにその後にティルと出力調整の訓練はしたので使えているのは解る。


「氷特性の『心理投影』は限定的ですが相手の感情心理を読む事です。土特性は『物理耐性』になりますが訓練の時も含めてこの2点は発動している様子はありませんでした。」


「そう言えば、リィムもハッキネンも結構な頻度で俺の思考読んでツッコミ入れて来てたよな。」


 ティルが水と氷の精霊は心を読むのが得意と言ってたのはこの特性の為だったのか。確かに俺は相手の感情心理を読む様な能力は発動していない。物理耐性は……うん、多分発動してないと思う。


「なのでタツミさんの基本属性は火のままと考えた方が良いでしょう。なので相性が悪い相手の時は有利か普通相性の精霊を表に出した方が得策になりますので覚えておいてください。」


「つまり、水属性を相手にする時はハッキネンかルーリアを表にして戦った方がマシという事だな。」


 リィムが伝えたかった事を理解して納得した。つまり水の精霊界では俺も含めヒジリもティル程では無いが、相性が悪い事を念頭に置いて行動しなければならないという事だ。


「私は戦う力が無いと言った筈なんだよ?」

「もしかして本当に戦闘能力無いのか? 冗談抜きで? 実は凄いんです! みたいな能力を隠しているとかは?」


 面倒臭がっている可能性を考慮して質問してみるが、ルーリアの物凄く遠くを見ている様な目で黙ったのが見えて来たので本当なのだと悟る。


「結局そうなるとハッキネンに頼るしかない訳か。」


 視線を再びハッキネンの方へ向けると嫌そうな顔をしている。うん、その表情は心が折れそうになるから辞めて欲しいかな?


「どうしてもと言う状況以外はお断り。そもそもリィムと同化して戦った方が効率が良い。その時は影で大人しくしていろ。」


 はい、戦力外通告いただきました! コンチクショウ!


「……そもそも外に出たくないんだよ、だからルリが帰ってくるまでタツミっちの中に引き籠るんだよ。」


 ハイこっちからも引き籠り宣言! 精霊の強制分離なんて出来ないのでしばらくこのまま確定!


「まぁ、精霊ですから……合理的には動いてくれませんよね。」


 リィムも隣で諦めた表情で遠い目をしている。まぁハッキネンの戦闘力を最大に生かすならリィムと同化だろうから否定は出来ないけどね!


「状況に応じて行動してくれていたティルは珍しい方と言う事か?」


 リィムの方へ疑問を投げかけると、ため息をつきながら答えて来た。


「ティルも意外とタツミさんの指示以外は自由気ままに行動してますよ? それが必要な状況なら指示に従う程度です。ただ、指示に従う面は優先順位が自分の契約主と言う違いだけです。」


「あ、ナルホド……優先順位が違うから俺の言う事は聞いているだけか。確かにハッキネンもリィムの言う事は素直に従うもんな。」


 ある意味納得してしまう。取りあえず戦闘面は絶望的と諦めて集落へと歩を進めたのだった。

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