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第49話 とある木の枝

 翌朝、俺達は精神的な疲労を残したまま再びリビングに全員集まった。


「返事を聞こうか。」


 タブレスが問いかけて来たが既に心は決まっている。


「もちろん行く。兄さんが何でそんな事をしているのかを聞いてみる。そして必ず止めて一緒に人間界に連れ帰る。」


 一晩考えたが兄さんの考えは理解できない。俺が誰にも気づかれずに負の感情を心に抱えていた様に兄さんにも何か理由が有るのかも知れない。少なくとも俺には優しい兄だったのだから。


「兄さんが何を心に抱えているかは知らない。でも俺は兄さんを殺したくない。だから止める為に力を貸してくれ。」


 皆を見回すとリィムもヒジリも快く頷いてくれた。タブレスは無言だが心なしか口元が緩んでいる様に見えた。ルリは別に構わないと言った態度を崩していない。


「では行くかい? 精霊石はうちに馴染ませた石の予備が有るからすぐにでも行けるよ。」


 そう言ってルリが立ち上がるとタブレスが予想外の一言を言って来た。


「そうなのだが、土の精霊界で回収したい物が有る。ルリとヒジリは別行動でそれを回収して来て貰いたい。合流場所は水の精霊界の最大の集落で良いか?」


「アンタねぇ……だったら昨日のうちに言いなよ。」


 ルリが呆れた顔をしている。ヒジリは別行動と言われてとても不服そうな顔をしている。


「アレの採集はお前らが適任だろう。それに水の精霊界でティルレートを長居させるのは得策では無い。」


 タブレスが簡単に理由を説明するとルリはヤレヤレと言った顔で納得しようとしている。


「で、何を採って来るのよ?」

「《《とある木の枝》》だ。意味は分かるな?」

「まさか、アンタ何を考えているんだい? アレが必要な状況になるとでも?」


 頼むから二人だけで解った様な会話をして欲しく無い。隣に居たリィムを見るが意味が解って無い顔をしている。本気で二人しか解らないものらしいな。


「説明を求めたいのだが? 何を採りに行くんだよ?」


 そう言うと二人とも複雑そうな顔をする。


「説明が難しい代物だ。それに知っていると悪い意味で行動が制限される可能性も有るから知らない方が良い。」


 説明を拒否された。せめて一緒に取りに行くヒジリ位には説明しても良さそうなものだが。


「一応私も実物は見た事は無いから探すのは三日までだ。それで良いかい?」

「そうだな。有れば僥倖と言ったところだから構わん。」


「ちょい待て! 見た事も無い物を探しに行くのかよ!」


 流石にその発言は問題だろ! どうやって探すんだよ!? そう思っているとヒジリがハッとした顔をした。


「つまり探し物は、火属性と土属性が無いと判別できない様な物と言う事ですか?」


「良い所を突くね、当たらずとも遠からじって所かな。あくまでも伝承を元に探すんだけどね。まぁ見つからなくても気にする必要は無いよ。」


 ルリはダメで元々みたいな顔をして手をヒラヒラと振っていた。


「さて、では時間が勿体無い。では早速移動を開始しよう。」


 タブレスは席を立つがその前に一つ決めなければいけない事が有った。


「誰がタツミのあんちゃんに付いて行くんだい?」


 この言葉にタブレスが意味が解らずに首を傾げた。そう言えばタブレスはまだ知らないんだったな。


「どういう事だ? タツミは俺とリィムと一緒に水の精霊界へ行くのだろう?」


「人間の方はね、言っているのは精霊の話だよ。」

「それならば昨日リィムから聞いた。探索の関係上ヒジリとティルレートは一緒の方が良いのでは無いか?」


 既に俺の体質の事は聞いてたのか、しかし昨日で少しだけ複雑化してるんだな。


「タツミのあんちゃんは現在ティル、ハッキネン、ルーリアの3精霊と契約出来ているんだ。だから誰にお守をさせるかと言う事だよ。」

「何? ルーリアとも契約していたのか?」

「そういう事、でもティルがヒジリちゃんで確定ならルーリアかハッキネンだけど。」


 ルリがハッキネンに視線を移すと嫌そうな表情で答えた。


「私は別にどちらでも構わない。ただ、緊急時に全力を出す必要が有るならリィムの方が無難。」

「やっぱりそうだろうね、ルーリア頼んだよ。」


 分離してルーリアが出て来る。不貞腐れているのが良く解る顔だが……俺嫌われてる? そろそろ心が折れそうだよ?


「土の結合結晶を吸収した月虹丸にかなり力を吸われるからあんまり好きじゃないんだよ……。」


 あ~そういう事ね。ティルも疲れきる位だから結構吸われてそうだ。


「諦めな。その分ストックした力は非常時に使えるんだから一時的なモノと思いな!それに吸収も無限に出来る訳じゃ無いしね。」


 ルリはそう言って押し出して来た。物を渡すみたいに精霊を突き出すなよと言いたかったがルーリアと握手して同化する。


「何やらまた妙な武器を作ったのか?」


 タブレスが先程の説明を聞いて、ルリに確認する。


「ああ、タツミのあんちゃん専用の武器を鍛造したのさ。もし水の精霊界について時間が有るなら合流までに探して欲しい物がある。」

「ふむ、まぁこちらも探してもらう訳だから交換条件として受けておこう。」


 返事を聞いて、ルリはタブレスに月虹丸と結合結晶の説明をした。そして水の結合結晶の採集を依頼したのだった。


「構わんが、タツミは水の精霊と契約して無いのだろう? 当ては有るのか?」

「むしろタブレスの方が詳しいだろ? 誰か居ないのかい?」


 俺抜きで勝手に契約する精霊候補を探されている。どういう事だよ、別に誰でも良いと言う訳じゃないんだぞ?


「タツミっちは諦めるんだよ。ルリはああなったら結果しか求めないんだよ。」

「俺の人権問題は!?」


 諦めろとルーリアに諭されるが納得できない! そうこうしてるうちにタブレスが思いついたように言って来た。


「もしかしてだが、一人だけ心当たりが有る。」

「誰だい?」

「ヴァイだ、ヴァイ=ヴァッサ。」


 さーて、俺抜きでどこまで会話が続くか聞こうじゃないか。ヒジリもポカーンとした顔になってるし、完全に置いて行かれているな。


「ちょいと待ちな、ヴァイは神器持ちの精霊だろ? 同調契約とは言え、それ程の力を持った精霊が弱い人間に力を貸してくれるとは思えないんだけどね?」


「運が良ければ程度だ。契約主が弱いなら余計に強い精霊に力を貸してもらった方が良かろう。力の差はある程度その刀が調整するのだろう? お前の好きな実験だ。」


 俺で人体実験ですか? 命を懸けて試す様な内容じゃ無いよな!


「う~ん、それだったらタブレスで試しても良いんじゃないか? アンタも神器持ちじゃないか。」

「断る。自分より明らかに弱い奴に力を貸す気にはなれん。」


 言い方! まぁ……タブレスはレピスと同じで別格の存在っぽいから文句を付ける気も起きないけどな。下手したらこっちが取り込まれてしまう可能性が高い。


「今回は相性が悪いから誘うつもりは無かったが、その件も含めて尋ねてみるとしよう。」


 二人の間で合意がなされたようだ。予想はしていたがタブレスも神器持ちなのか。気になるのでダメ元で聞いて見よう。


「ちなみにタブレスの神器ってどんなのなんだ? 説明して問題が無ければ知りたいんだが? 後そのヴァイって精霊のも。」


「俺の神器はこの『シナイの外套がいとう』だ。」


 うん、外套? てっきりコートと思ってました。スミマセン。


「能力は貴様も見ただろうが、極小ブラックホールの生成とその制御だ。」

「制御?」

「そうだ、ただ発生させると周囲全てを吸い込む。だからその吸い込む方向とか範囲を制御しているんだ。」


 レピスと稽古(?)をやってた時に使っていたあれか。言われてみればブラックホールって近づいただけで即死する様なシロモノなのに何故平気かと思ったら神器で制御してたのか。


「傍から見れば気が付かないか。普通に発生させたらただの自爆技にしかならない。」


 ハッキネンが補足を入れて来るが、お前最初にちゃんと説明しておけよ。


「確かにブラックホールの制御なんて自然法則から離れ過ぎだもんな。そりゃ神器って言う性能だわな。」


 俺は納得して次のヴァイの神器の説明を聞く。


「ヴァイの神器は『フライクーゲル』と言う弓だ。打てば必ず命中すると言う性能だ。その代わり一日で撃てる矢の数は6発までだ。威力は実物を見た方が早いだろうな。」


「今度は弓か……必ず当たる弓って怖いな。防御するしかない訳だろ?」

「フッ、アレを防御できるのならな。」


 タブレスが意味深な事を言ったが……取り合えず神器らしさが必中以外にも有ると言う事なのだろう。


「さて、話はそこら辺で済んだかい? では早速行くとしますか!」


 話が終わったと見るや早く行きたくてウズウズしてたルリの号令が掛かり、俺達は席を立ったのだった。


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