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第48話 兄の行方

「戻ったよー! リィムとハッキネンはちゃんと留守番してたかい?」


 ドアを勢いよく開けてルリが我が家へと帰還した。自分の家だから良いけど、ドアが壊れそうな勢いで開けなくても良いのじゃないかい? テンション上がり過ぎだろ。


「おかえり。」

「おかえりなさい。」

「相変わらず元気そうで何よりだ。久しぶりだなルリ。」


 家に入ると各自から返事が返って来たが、何で分離してるんだ? と思ったら聞き覚えのある声も追加で飛んで来た。


 家の中を見るとテーブルを囲んでリィムとハッキネンだけでなくタブレスが座っていた。こいつ見るとあの時の重力場を思い出す……アレは結構なトラウマになる感覚だった。


「おや、タブレスじゃないか、久しぶりだね。何かの依頼かい?」

「依頼は依頼だが今回は鍛冶じゃない。力を貸して欲しい。」


 その返事を聞いてルリは物凄く嫌そうな顔をする。


「鍛冶以外のアンタの頼みなんて面倒事じゃないかい。嫌だよ、他を当たりな。」

「今回の内容は神器案件だ。」


 ルリが即座に拒否するがタブレスは話を続ける。こいつも大概マイペースだなと思う。いや、精霊全体的にマイペースな奴が多いと思う。


「アンタ……人の話を聞いてるのかい?」

「相手は精霊でなく《《人間の神器使い》》だ。」


 タブレスの言葉を聞いて俺とヒジリは目を見開いて驚かされる。ルリも驚いていたが全く別の意味で驚いていた様だった。


「それは珍しいね。形状はどんな物だい? 属性は? 能力は?」


 え? そっち? 人間界に帰る可能性が有る方に期待するんじゃないの?


「神器の形状は『刀』で属性は『雷』だ。超スピードによる斬撃としか目撃情報は無い。」


 ん~雷で超スピード……まさに電光石火の能力と言う事かな? と言うか刀を神器として具現化したと言う事は日本人かな?


「神器にしては効果が弱いね。多分本人の能力の方じゃないのかい?」


「多分そうだろうな。雷属性の能力である神経刺激による『超反射』と『放電』、『蓄電』の基礎能力だけだろう。」


 超スピードが基礎能力って雷属性強すぎませんか? 


「ポンコツ、雷属性の全員がそうなる訳じゃない。超スピードが出せると言う事は龍位レベルでも上位の精霊と精霊使いだけ。それにその分反動も酷い。」


 そう思っているとハッキネンが解説解説してくれた。つまりはその人間自体が異常に強いのでまだ神器の力を使うまでもないと言う事か。


「確かに興味が湧くね。それで欲しいのは相性が良い土属性の私と言う事かい。」


「そういう事だ、話が早くて助かる。」


「しかし雷の精霊界に行くとなるとここから『水の精霊界』を経由して『氷の精霊界』に行ってそこから『雷の精霊界』だろ? もしくは『火の精霊界』から『風の精霊界』を経由して行くかの2択だね。どちらしても反対側だね。」


「確かに遠いな。ん? 反対側? つまり精霊界って『火』→『土』→『水』→『氷』→『雷』→『風』→『火』って円状になっていると言う事なのか?」


「そう、『光』と『闇』以外の精霊界は円状にループしてる。逆に『光』と『闇』の精霊界はどこからでも行けるが対象属性の精霊が居ないと中には入れないし、人間が耐えられる環境でも無いからそちら経由は勧めない。」


「でもタブレスだって人間と契約した訳だろ、闇の精霊界が人間が耐えられない環境なら契約自体も難しくないか?」


 入る事すら勧めない世界に飛ばされた人間はどうなるんだ? と疑問を返すとハッキネンは相変わらずの呆れた表情で返して来る。


「具現化時に付近の精霊力を吸収するからセーフティエリアが一時的に出来る。それに属性精霊と契約するのだから大丈夫に決まってる。」


 あ~最初のあの白い空間を忘れてたわ。そして契約属性だから大丈夫という事か……ハッキネン、頼むからその馬鹿にした目をやめてください。


「ル、ルリさんの事だから水の精霊界経由にしそうだね……。」


 後ろで聞いていたヒジリが嫌そうな顔をして呟いた。うん、俺もそう思う。ついでに結合結晶を集める気満々な気もする。

 

 ちなみにティルが静かな原因はダンジョン内で月虹丸に相当量の精霊力を補給していたらしく、疲れ切ってヒジリの中で寝ている状態だからだ。精霊って平気な顔で無茶をするよな、ハッキネンもそうだったし。


「よし! では水の精霊界経由で向かおうか。ついでに結合結晶の採取もしようじゃないか! 戦力は有った方が良いだろ?」


「「やっぱりか……。」」


 俺とヒジリの声がハモった。そして大きなため息をついた。

 水の精霊界と言う事は火属性は使えないしティルの自然回復も無くなる。俺達にとっては出来る限り素通りしたい精霊界だ。


「大丈夫です、火の精霊術が使えなくても水の精霊界では私達の能力は相性が良いので活躍しますよ。」


 リィムが笑顔で言って来た。そうだね、次は君たちの出番だね。ティルが文句を言って来そうだが、しばらくお休みだな。


「で、タ、タツミ君。そ、そ、そちらの方は?」


 ヒジリが人見知りを発揮してまた声がどもっている。そう言えばタブレスと話すのは初めてか。


「ああ、彼はタブレット=ヴェネガー。皆はタブレスと呼んでいる。闇の精霊で重力を扱える龍将位精霊……で合ってるよな?」


「お前……自信が無いなら最初からこっちに振れ。」


 タブレスが呆れた顔でこっちを見る。


「だって俺とお前は、まだ一回しか会った事無いんだぜ? それに久しぶりだし。確認したって間違いじゃ無いだろう?」


「あ、ほ、ほぼ初対面なのですね……。」


「で、では私の方から紹介しますね。名前はそれで合ってます。後は私とハッキネンを保護して修行を付けてくれた方で、私達は兄上と呼んでます。」


「兄上?」


 ヒジリが何故? みたいな顔をするとリィムは火の精霊界で俺にした自分の生い立ちやタブレスとの関係を話をヒジリにも話したのだった。


「そ、そうだったんですね。タ、タブレスさんって優しい精霊さんなんですね。」


 話を聞いたヒジリは案の定、途中から泣きながら話を聞いていた。俺も人の事言えないがと思っていると、今度はタブレスの方から質問が始まった。


「貴女がティルレートを具現化した本人で間違いないのだな。」


「え、ええ? そ、そうです。ア、アルセインは私が具現化した精霊です。」


「彼がティルレートと契約した経緯は《《この場では話せない》》と考えて良いか? そしてリィムの復活の件も恐らく貴女が関係している。」


 ルリを除いた全員に緊張が走った。タブレスは何処まで理解しているのだろう?


「どういう事だい?」


 ルリが不思議そうな顔をしているが、タブレスにはルリにした説明は通用しない。何故なら初めに会った時にヒジリがその場に居なかったからだ。


「気にするな。お前も必要になったのなら俺から説明する。それまではこの件は詮索不要だ。良いな?」

「ルリ、タブレスとレピスの決定は絶対だよ。詮索するなと言う事は理由が有るんだよ。」


 ルーリアに言われてルリは不服そうな表情をするが押し黙る。


 タブレスとレピスってどんだけ他に影響力を持っているんだ? あのルリが素直に黙るなんて意外過ぎる。そしてタブレスは何処まで知っているのかも解らなくて不気味だ。


「さて、そしてもう一件用事が有る。タツミ、お前に確認したい事が有る。」


 そう言ってタブレスは俺の方を改めて見て来る。俺に一体何の用件が有るのだろうか?


「『工藤 龍一』はお前の兄か?」


 まさかとは思った。俺がこちらに飛ばされたのだから隣の部屋に居た兄さんだって考えられる。可能性を否定したかったのだが……兄さんの名前を知っていると言う事はそういう事なのだろう。


「そうだが兄さんに会ったのか? まさかお前……殺したのか?」


 と嫌な予感を覚えるが次に出された言葉はそれをはるかに超える事実だった。


「違うな、むしろ逆だ。先程言った神器持ちはお前の兄だ。」

「兄さんが神器を?」


 意味が解らない。兄さんが来たのは普通に考えれば一緒の時期なのに神器の具現化までしてる? あの人の才能は何でも有りなのか?


「そして、その神器を使って精霊を虐殺していると言ったらどうする?」


 何を言っているんだ? 兄さんが精霊を虐殺している? 理解が追い付かない。いや理解するのを俺の頭が拒否しているのか。


「これは流石に看過できん。このままでは精霊不足による大規模災害が確実に起こる。お前が説得して辞めさせるか殺すかの二択になる。どうするかはお前に任せる。一晩やるから考えておけ。」


 タブレスが矢継ぎ早に言葉を並べた。そしてルリに確認して空いている一室へと休みに行った。


 残された俺は相変わらず混乱したままだ。


 ヒジリやリィムが声を掛けてきている様だが全く頭に入ってこない。兄さんが精霊を虐殺していると言うのはどういう事なのだ? そもそも神器を手に入れたのに何故人間界に帰ろうとして無いのだ?


「ちょっと一人で考えて来る。気持ちの整理を付けたい。」


 回りの声が全く入ってこない俺は、落ち着くためにも自室へと戻ろうとする。


 リィムが引き留めようとするが、俺を一人にする為にヒジリが気を使って逆にリィム達を引き留めて土の龍穴で起きた事の説明を始めているのがうっすらとだけ聞こえたのだった。



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